第153話 山田さんの告白と、サプライズゲストです。

 木之花咲耶姫様によって不時着した機体の中から、139人もの人々が救出されたらしい。

 意外なことに機体の損傷が衝突によるエネルギーがバリアーシステムにほぼ吸収されたために外部のみで済んだことで、内部の乗客・乗務員に死亡者はいなかったものの、かなりの重傷を負いすぐに病院へ運ばれた人も少なくはなかったそうだ。


 本来ならかなりの重傷者であろうとも、世界樹のもたらす『世界樹のしずく』により回復が容易なのだ。

 だが、この世界の者ではない異世界人にはその奇跡は作用しない。

 なぜなら奇跡の源である魔素の組成が異世界とこの世界では違うからだ。


「すべて私の責任です」


 飛行機が『穴』を通り抜けるときに、一番破壊された翼の近くに座っていた乗客たちだけは軽症では済まなかった。

 山田さんは事故が起こってから毎日のように病院へ通い、そんな被害者たちの看病を行っていたらしい。


 そしてその中に――――。


「田中さん。あなたのご両親がいらっしゃったのです」

「そんな……」


 俺は両親が突然空の彼方に消え去ったあの日の真実を知り絶句した。

 ずっと探し続けていたものはすでに俺達の世界には存在しなかったということに。


 あちらの世界で『謎の旅客機失踪事件』として扱われ、一時期世間を騒がせたその真相が世界同士の衝突により起こる世界間転移だったなんて誰がわかるものか。

 一部のオカルト雑誌で面白おかしく取り上げられるのが落ちだったろう。


「幸いこの世界にはかつてこちらの世界に転移してきた先人たちにより、世界樹の力を使わずに治療する術が伝えられておりました」

「それで治療を?」

「ええ、ですがそういった知識はあっても専門の『医者』は存在しません。ですので我々には重傷者の方々を完全に治療することは不可能でした」


 山田さんたちは、日に日に弱っていく重症患者たちを前に自分たちで出来る最善の治療をし続けていたらしい。

 そしてそんな中、彼は俺の両親と言葉をかわす様になっていったそうだ。


「私は彼らに事故の原因について話をした後、誠心誠意謝りました。今回の事故はすべて私のせいだと」


 そう言ってから山田さんは俺に向かって深々と頭を下げた。


「田中さん、ご両親を事故に巻き込んだのは私……」



 ばちこーーーーーーーーーーーん。



 俺の目の前に勢いよく走ってきた木之花咲耶姫様のハリセンが、またもや山田さんの脳天に直撃する。

 思いっきり頭を下げていたせいで、今回はジャンプ台の必要もなかったようだ。

 気持ちよく振り抜かれたハリセンを「よいしょっ」とばかりに肩に担いだ咲耶姫様が「やれやれ」とばかりに首を振る。


「ま~たそんな事言ってる。その事についてはもうとっくに話はしたはずじゃない」

「で、ですがっ――――」


 叩かれた後頭部を押さえながら地面に尻餅をついたまま咲耶姫様を振り向いた山田さんだったが、次の瞬間声をつまらせ目を見開く。

 そんな彼の様子に俺もその方向、咲耶姫様の後方へ視線を動かす。


「えっ」


 その視線の先にあったのは、先程俺たちが入ってきたのとは別の入り口。

 そして、そこから次々と俺の知る人達が入ってくる。


 後から来ると聞いていたドワドワ研所長や高橋さんは予想の範囲内。

 だが、まっさきに先頭を突き進んで俺たちの方に歩いてくるその姿は俺が全く予想もしてない人物であった。


「なんでこんなところに居るんだ、メカ高橋さん!?」


 驚愕の表情を浮かべる俺の前までやって来ると、メカさんは小脇に抱えたいつものホワイトボードを取り出し、何やら書き始めた。


『来ちゃった☆彡』


「来ちゃったじゃねーよ! っていうか本当にどういうことなの」


 そんな俺を無視するかのように、メカさんは座り込んでいる山田さんの前まで歩いていくとホワイトボードにまたメッセージを書き彼に見せる。


「そんな……私はっ……」


 それを見て、なおも言い募りかけた彼の言葉を塞ぐようにメカさんはもう一度同じようにメッセージを書く。

 メカさんの後ろにいる俺には、メカさんが何を書いているのかわからない。

 

 気になる。


 俺は何やら神妙な気配を漂わせている二人の前に回り込んだ。


「!?」


 目に入ってきたメカさんのホワイトボード。

 その文章が頭の中に飛び込んできた瞬間目を疑った。

 いったいどういうことかなのか。


 そこに書かれていた文章は。


【私達の息子をずっと見守ってくれてありがとうございました。】


 私達の……息子?

 それって誰のことだ。

 というかメカさんの息子って。


 わけがわからない。

 いや、わかっている。

 この流れでこの言葉で勘違いできるほど馬鹿じゃない。


 とんとん。


 混乱する俺の肩を誰かが叩いた。

 ゆっくり振り返ると、なにやらニヤニヤした顔の咲耶姫様だった。


「もう気づいてると思うんだけどね、メカ高橋はお前の父親と母親が交代しながら動かしていたのさ」


 その言葉は俺の想像通りだった。

 だったのだが。


 今まで、短い間だったがメカ高橋さんとの日々を思い出す。

 確かに色々な場面で、まるで彼女はまるで親のような振る舞いを見せることがあった。

 それが、本当に親がメカ高橋さんを動かしていたのだとすると合点がいく。


 しかし……。


 メカ高橋さんっていつも普通に女性っぽい仕草しかしてなかった気がするんだけど、父さんがそれをやってたのかと思うと複雑な気分になったのだった。

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