第130話 おかけになった電話番号は現在使われておりますん。
「とりあえずそこまではいいとして、なんで玄関の所で倒れてたんだよコレ」
俺はメカ高橋を指さして「いたずらだったらタダではおかない」という意思を視線に込めて尋ねる。
「それはですですね、この娘はまだ試作機なので色々テスト中なのですです」
「テスト中だから玄関で倒れてたと? いたずらのつもりだったら許さないよ」
「違うですです。アレはこの娘がすこ~~~~~しオーバーヒート気味になってしまったので冷却モードにして冷えるまであそこに置いていただけですです」
なるほどね。
それなら仕方ないか。
いや、仕方なくはないな。
「どう見ても冷却は完全に完了して、更に冷気すら発してたけど?」
俺は先程メカ高橋に触れた時に感じた冷たさを思い出して身震いする。
「ああ、それはですですね」
「それは?」
「田中さんが大声上げるまで寝てたから回収するのを忘れてただけですです」
てへぺろ。
久々に高橋さんがイラッとするポーズでそう言い放った。
そしてメカ高橋も何故か同じようなポーズを決める。
ただしこちらは無表情だ。
二倍はイラッとするな!
俺は無言で目の前に座るメカ高橋の両コメカミに握りこぶしを押し付け「ぐりぐり」してやる。
メカに効果があるとは思えなかったが。
やがてメカ高橋の顔が徐々に赤くなってきた。
メカのくせに赤面してるのか? と思ったらなんだかどんどん暑く……。
「あっー! またオーバーヒートしてしまうですですぅ!」
高橋さんのその叫び声に俺は慌ててメカ高橋から手を離すと一メートルほど後ずさった。
「このままでは爆発するですですぅ!」
「な、なんだってー!」
いやいや、そんな危険物持ち込むんじゃねーよ。
「どどどどうしよう」
爆発っていったいどれ位の威力があるんだ?
俺の部屋が破壊される程度ならまだマシだろうけどアパート全体が吹っ飛ぶとかだったらシャレにならない。
オロオロとしているとメカ高橋が一瞬「にやり」という表情を見せたような気がしたあと、今度は急速に部屋の温度が下がっていく。
冷却機能とやらが間に合ったのか?
俺がメカ高橋の様子を見ていると、突然机の下に手を突っ込み何かを取り出した。
それは小型のホワイトボードのようだった。
「彼女はまだ喋る機能が無いですですので、ホワイトボードを使って会話するですです」
高橋さんのその説明を聞いてる間にも彼女はそのホワイトボードに何やら文字を書き始めた。
エルフ語とかドワーフ語じゃないだろうな?
ミユのいない今、スキルも魔法も使えないから日本語以外を書かれても読めないぞ。
そうこうしている内に書き終えたらしく、持っていたサインペンを机の上に置いてホワイトボードを胸元付近に持ってから俺たち二人を交互に見ると、自分に二人の注目が集まっているのを確認してからドヤ顔を作りホワイトボードをひっくり返して俺たちに見せつけた。
そこには――。
『どっきり大成功!!』
どこかで見たような完璧なレタリングでそう書かれていたのだった。
どっせい!!
直後、俺の見事なまでのちゃぶ台返しが炸裂したのは仕方がないことだったとだけ付け加えておく。
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「ただいまかえりました」
「ただいまなの~♪」
俺が自分がひっくり返したちゃぶ台の後始末をしていると玄関が開いて山田さんとミユの声が聞こえてきた。
少し疲れたような声音の山田さんに比べて、ミユの声はなにかとても楽しそうだった。
自分が拐われたという事よりも、自分が立てた作戦が上手く行ったことのほうが嬉しいのかもしれない。
実際はミユがあんな事をしなくても山田さんたちならなんとでも出来ていただろうことは言わぬが花だろう。
「おかえりミユ、ついでに山田さん。遅かったね」
「ついでとか酷いですね。これでも早く済ませてきたんですよ」
済ませてきたって何をどう済ませたんですかね?
怖いから聞かないけど。
「おや、これは一体?」
山田さんは部屋に入ってすぐ怪訝そうに顔をしかめた。
今俺の部屋の床にはちゃぶ台の攻撃をまともに食らって倒れたメカ高橋と、それを看病(?)している高橋さんがいて、その横に「どっきり大成功!!」と書かれたホワイトボードが落ちていた。
「どっきりってヤオチューブで見たことあるの! すっごーい、このロゴそのまんまななの!」
ミユはいつものようにふよふよと飛んでそのホワイトボードを物欲しそうに眺めている。
「それ、メカ高橋……高橋さんのだから欲しいならお願いしたらもらえるかもな」
「ほんと?」
ミユがキラキラした瞳で俺を見る。
いつも思うがミユのこういうツボはよくわからないな。
俺がちゃぶ台の上を吹いている間に高橋さんから了承を得たミユは「宝物にするの~」と小さな体でホワイトボードを持ち上げ、彼女のために買ってあげた三段のカラーケース(980円なり)のところに持っていく。
いったいアレをどうするのだろうかは謎である。
無駄にイタズラとかに使わないようにだけあとできちんと言い含めておかないといけないな。
「あのホワイトボードは百均で10枚位買ってきてあるですですから一枚くらい構わないですですよ」
高橋さんはメカ高橋の体から何やらコードを引っ張り出しながらそう言うと、今度は小型のPDAっぽいものにそれを接続し始めた。
確かにちゃぶ台をぶつけたのはやりすぎたと思うけど壊れるほどのダメージじゃなかったはずなのにメカ高橋はあれ以来ピクリとも動かなくなったのだ。
高橋さん曰く「そもそもこの自立型依代体EXにはさっきのような行動が出来るほどのAIは積んでなかったはずなのですです」との事。
「そういえば聞き忘れてたんだけど、なぜ依代体を自立させようとしたの?」
「高橋さんは忙しそうなので私が説明しましょう」
俺の疑問に山田さんが答えてくれるらしいので彼の方を振り返る。
「田中さんもご存知でしょう、というか今日も体験したはずですがミユさんの通信距離の事です」
「ああ、たしか百メートルくらいだったかそれより離れると依代体と本体との通信が切断されるって話でしょ?」
「そう、それです。自立式素体を作り始めた最大の理由がそれなんですよ」
山田さんが指を一本立てたポーズで話を続ける。
どこの教師なんだか。
「今の状態だと通信が切れた瞬間に素体はコントロールを失い完全に動きを止めてしまいます。それだと今日のように騒ぎになってしまう可能性があるのです」
「でもさ、前から思ってたんだけど何で通信範囲が約100メートルなの? 最初の頃は仕方がないとして今のレベルアップしたミユとユグドラシルカンパニーの技術力ならもっともっと範囲を広げることが出来るんじゃない?」
俺の素朴な疑問に山田さんは目尻を少し下げ「それはこの国の法律上の問題でしていかんともしがたく」と残念そうに語った。
まさかの電波法!?
「いや、でもそこの所はユグドラシルカンパニーの力でさ」
「私達も訴えてはいるのですが、なにぶん法律を変更するには色々と時間がかかりましてね。しかも私達の求める内容の審議が中々始まらなくて……大事な案件があってもどうでもいい案件が優先されてしまって議題にすら……」
ぶつぶつぶつ。
山田さんが何やら恨みつらみを吐き始めたので俺は慌てて話題を変えてみる。
「でもほら、コノハとかは通信距離殆ど関係ないじゃない? あれはどうなってんのよ」
「ああ、コノハさんはですね、通信の発信源がスペフィシュにあるのでこの国の法律の外なんですよね」
「そんなのアリなの?」
「ほら、深夜ラジオを聞いていたら国内の放送局よりお隣の国の電波が強くて混線して聞き取りにくいとかあるじゃないですか」
「俺ラジオとか聞かないから知らない」
「これが噂の若者のラジオ離れっ!?」
何故か山田さんが突然崩れ落ちて項垂(うなだ)れる。
いや、そもそもなぜ山田さんがそんなに日本の深夜ラジオあるあるを知っているのだろうか、それのほうが不思議だ。
「う~ん、これは何ですですかね」
メカ高橋を調査していた生高橋さんが何やらPDAのモニターを凝視しながらそう独り言を漏らした。
「何か原因の元が見つかったの?」
「原因の元……かどうかはまだはっきりしないですですが、自律回路の奥にどうしても解析できないブラックボックスみたいな部分がみつかったですです」
「ブラックボックス? でもこのメカ高橋って高橋さんが作ったんだよね?」
「そうですです、実際には私一人じゃないですですけど、自律回路の部分に私が知らない部分がいつの間にか加えられていたなんてありえないはず――」
ちゃんちゃらりんちゃんからりんちゃん~♪
「電話ですです」
少し間の抜けた呼び出し音は高橋さんの携帯からのようで、彼女は慌ててポケットからそれを取り出した後、なぜか首を傾げる。
「あれ? 着信してないですです」
「そうなの? でも俺のスマホの着信音でもないし、山田さんのガラケーでこんな音ありえないし……」
ちゃんちゃらりんちゃんからりんちゃん~♪
もう一度着信音が部屋に響き渡ると、今度はその発信源がすぐわかった。
メカ高橋だ。
メカ高橋の口から着信音が聞こえてくる。
正直かなりキモいのと、予想外の展開に俺も高橋さんも動けずにいると、次の瞬間メカ高橋の口から聞いたことが無い声が聞こえてきた。
「もしもーし、聞こえますか? んんっ~ときめきハイ◯クールの電話番号と間違えたかな? でもあれはたしかト◯タに今はつながるはずだしなぁ」
どこか間の抜けた様な声で、わけのわからない独り言を喋り続けるメカ高橋……に電話をかけてきた謎の人物。
一体何が起こったのか戸惑う俺を尻目に高橋さんが声を上げた。
「しょ、所長!」
「おお、なんだきちんとつながってるじゃないか。相変わらず人が悪いな高橋くんは」
「それはこっちのセリフですです!!」
所長ってドワドワ研の所長か?
あのこちらの世界のサブカルが大好きだとかいう――現在行方不明って聞いてたけど生きてたんだ。
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