第57話 女神たちの作り方です。
「ワシがこの世界の神のトップに立つゴッドオブゴッド ブラウじゃ。よろしくのう」
おもったよりフランクな感じでその爺さん。ブラウ様が声をかけてきた。
俺達が彼のことをそっちのけにして盛り上がって(?)いたせいでしびれを切らして席を立ってやってきたらしい。
その件に関しては俺は悪くないはずだ、うん。
基本的にヨシュアさんが悪い。
しかし、見かけだけなら普通の爺さんにしか見えないんだが神様ってそういうものなの?
なんかこう神様って言ったら後光がさしてるとか、凄い威厳があって目も向けられないとかそういうイメージんだけど。
そんなことを思いながら好々爺然とした神様に挨拶を返す。
「こちらこそよろしくお願いします。ヨシュアさんのお爺さん……? で良いのかな?」
隣りにいるヨシュアさんに尋ねてみる。
実際には間に青髪縦ロールがいるのだが。
「違うよ」
「え? 違うの?」
「うん、彼はボク達姉妹の父親さ」
父親!?
どう見ても父親と言うには年を取りすぎているんだが。
見かけだけならむしろ曽祖父と曾孫と言われたほうがしっくりくるくらいなのに。
「なにか文句でもあるのかしら?」
青髪縦ロールが噛み付いてきたがもちろんスルーだ。
というか同じく見かけだけなら……いや言動も含めてだけどこの子が一番幼いわけで、やはりこの爺さんが父親とは到底思えないな。
「ボクたちは神族だからね。父親と言っても田中くんたちヒト族とは色々違うんだよ」
「ふぉっふぉっふぉ。とりあえずはこの世界の神族と世界樹の関係やらなにやらを田中殿に簡単に話しておいた方がよいかのう? 渡辺殿」
ブラウさん……もう心のなかでの呼び名は爺さんでいいだろ。
その爺さんは渡辺さんにそう言うと元の席に戻り「まぁとにかく立ち話も何だからのう。皆まずは座ろうではないか」と座った。
「そうですね、それでは失礼して」
山田さんがさりげなく俺を促しながら席へ座る。
俺はそのまま彼の隣の席へ座ると改めて周りを見渡しその部屋の豪華さと、その場所にいる自分の場違い感に冷や汗が出る。
「どうしてこんなところにいるんだろう……」
「田中さんがヨシュアさんとじゃれ合ってたせいじゃないでしょうか?」
山田さんには珍しい少しイヤミが含まれたような言葉に驚く。
「もしかして、嫉妬?」
山田さんが心底おかしな人を見るような目で俺を見たから嫉妬ではないらしい。
「田中さん、もしかしたら死んでいたかもしれなかったんですよ。わかってますか?」
「わ、わかってるよ」
真剣な山田さんの表情に俺はそう答えるしかなかった。
場を和ませようとした軽いジョークだったのに。
「え、うそ……二人ってそういう関係だったのかい!?」
「お姉さま、不潔ですわ。あなたたち、お姉さま様に今後一切近寄らないでくださいまし!」
青髪縦ロールが俺の方を手で「しっしっ」と払ってくる。
非常にむかつくが自分が蒔いた種なのでいたしかたない。
「と、冗談はさておき田中くん」
吉田さんが今まで驚愕の目で俺たちを見ていたのをコロっと反転させた笑顔で喋りだす。
「ボクたちこの世界の神々は魔素によって生み出されたと屋上での密会の時に言ったよね?」
「ええ、そんなふうに聞いたと思います。あと密会とか言わないでください、妹さんの殺気がとんでもないことになってますよ」
俺は吉田さんの向こう側でもう一人のナイスバディな女神様に羽交い締めにされている妹女神をちらりと見て答えた。
「それは正しく言えば違うんだ」
密会のことですか? それとも魔素のことですか?
「ボクたち神々は正確には世界樹から生まれたって言ったほうが正しい存在なんだよ」
「まぁ、世界樹が生み出した魔素から生まれたんですから世界樹から生まれたと言っても何もおかしくないですよね?」
俺が疑問を投げかけると今度は爺さんがそれに答えてくれる。
「ふぉっふぉっふぉ、わかりやすく言えば我々は自然発生的な存在ではなく『世界樹の意思』によって生み出されたということじゃ」
「そういうこと」
あまり違いを感じられない気がするので首をひねっていると隣から山田さんが補足してくれた。
「この世界の神々というシステムは、世界樹が自らの意思でこの世界を治めるために必要だと生み出した存在なのですよ。ですから『魔素から生まれた』のではなく『世界樹が魔素から生み出した』が正しいのです」
なるほど、魔素から自然発生的に神々が生まれて勝手に意思を持って統治しだしたんじゃなく最初から世界樹がこの世界をコントロールするシステム的存在として彼ら神々という存在を生み出したということか。
「世界樹って凄いんですね」
「凄いんですよ。やっとわかってくれましたか田中さん」
何故か自慢げの山田さんをスルーして俺は神々一同の顔を見る。
「じゃあ世界樹が『母親』なのはわかりましたがブラウ様はなぜ『父親』なんですか? ハッ……まさか」
特殊性癖の男が世界樹に取り付いて腰を振る姿を頭に思い浮かべてしまい俺は少し青ざめる。
「お主が何を考えたか神であるワシにはお見通しじゃがそれは全くの誤解じゃぞ」
「誤解ですか」 良かった。樹木に欲情するような人がこの世界の頂点じゃなくて本当に良かった。
「ふぉっふぉっふぉ。そもそも世界樹が自らの子らを生み出すのにツガイは必要ないのじゃ」
「だったらなぜブラウ様は『父親』なのでしょうか?」
「それはのう。ワシが以前この世界に存在した世界樹の『契約者』だったからじゃ」
世界樹の契約者って俺と一緒なのか。
「契約者ってその世界の神になるんですか? じゃあまさか俺も……」
俺は神様になんてなりたくないし永遠に近い命なんて持て余すに決まっているからそんな事は断固お断りだ。
「契約者がどういう扱いになるのかはそれぞれの世界の世界樹によって異なります」
「異なるの? 世界樹はどれもこれも同じような世界樹じゃないの?」
山田さんは俺の顔を見てからユグドラシルカンパニーが今まで調べた事を教えてくれる。
世界樹が存在する、もしくは過去に世界樹が存在していた世界を現在彼らは何個も発見し、その全てを今現在の力で出来る限り調べたらしい。
その結果、各々の世界に存在する(した)世界樹はそれぞれ様々な『性格』をしている事がわかったらしい。
「その中にはこの世界のように世界全体を管理する者を生み出して世界の均衡を保とうとした世界樹もありますし、田中さんの世界のように完全放任主義だった例もあります。自分の分身を世界中に広めて『せかいじゅだらけ』になっている世界もありましたね。私達の世界の世界樹は恵みを与えてくれる以外はあまり干渉してきませんね。ユグドラシル計画自体も黙認してくれているようです」
山田さんはそれを思い出したのか少し笑う。
「放任主義の結果自分が滅びてれば世話ないよ」
俺は自分の世界の世界樹の事を初めて聞いたわけだが放任主義すぎるのも考えものだ。
逆に山田さんの世界はそれで存続してるわけだから一概には言えないかもしれないけどね。
ミユには同じ轍を踏まないようにしっかりと世界樹教育をしておかねばなるまい。
でも世界樹の教育ってどうすれば良いんだ?
「話をもとに戻してこの世界の世界樹の話ですが、かの存在は世界を管理運営するための『システム』として神々を生み出しました。
その際、自らの契約者であった者をベースにして最初に生み出されたのが彼、ブラウ様なのです」
爺さんの方を見ると片手を「よっ」みたいな軽い感じで俺にアピールして来ていた。
威厳というものがまるで無いのは結局は元人間をベースにしているからなのだろうか。
「そしてその後、彼女たちが生み出されました。その時世界をコントロールするために必要な魔素の選別要素、つまり女神の方々の『設定』はブラウ様によって決められたと聞いています」
「つまり世界樹に色々指示してヨシュアさんを生み出させたのがブラウ様で、だからこそ『父親』なのか」
俺はやっと爺さんなのに『父親』と言われている理由に合点がいった。
でもそうすると結局この世界の女神ってもしかしてこの爺さんの性癖全開で作られたってことじゃないか?
そんなところまで人任せなのも放任主義と何ら変わらない気がするな。
結構世界樹ってどいつもこいつも怠惰なのかもしれないなと思ったのであった。
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