第8話 更にレベルアップです。

 小一時間経った頃、俺は自称エルフの山田さんと他称ドワーフの高橋さんの二人と向かい合っていた。

 小さなテーブルの上には3人分の麦茶。

 それぞれの前には3つずつ広島銘菓にしか見えない異世界のお菓子が置かれている。

 無駄にこし餡、粒あん、抹茶と三種類入っていると思ったら緑のは世界樹の麓で育てたユーグレナ入りだそうで健康食品としても人気があるらしい。

 試しに食べてみたが普通にも◯じ饅頭だったのでガッカリした。

「不味い!もう一個!」とか言いたかったのに。あれは青汁だけど色は一緒だから気分的に変わりはしない。

 そんなことを考えていると高橋さんが話しかけてきた。


「田中さん、先程はしつれいしちゃいましてスミマセンでしたですです、よく皆に怒られるんですよね。お前はもう少し研究以外に意識を向けろって」


 そう言うと高橋さんは「てへぺろ(・ω<)」っと自分の頭をコツンとする。

 あざとい……。

 あざとすぎる。

 だが嫌いじゃない!


「改めてご紹介しますね。彼女は高橋さんと申しまして、我がユグドラシルカンパニーと協力してミニ世界樹プロジェクトを推進してくれているドワドワ研究所の研究員さんです」


 ドワドワ?

 今、ドワドワって言った?なんというお間抜けな名前か。

 しかも100%ドワーフの研究所だからドワドワって名前にしたんだろう。

 この人達もしかしてネーミングセンスが無い?人のことは言えないけど。


「高橋ですです。今後共よろしくお願いいたしますですですね」


 そう言って手を差し出す高橋さん。

 普通にしていればそれなりに可愛い女の子という風情なのだが。


「あっ……」


 何故か山田さんが立ち上がって止めようとしたが俺はその前につい流れで高橋さんと握手をする。

 ぷにぷにした手が柔らかい。

 ピカッ!

 その瞬間またミニ世界樹『ミユ』が一瞬光った。


「なんだなんだ?また光って……」

「これで契約成立ですですね」


 高橋さんはそう言うとニヤリと笑った。


「え?契約?」

「ええ、そうですですよ。貴方のミニ世界樹の専属研究者として私が登録されたのですです」


 なん……だと。

 どうやら俺はまた嵌められたらしい。

 まぁ前回のミニ世界樹『ミユ』との契約は嵌められたというより事故な気がしないでもない。

 そもそもそんな『契約』がこの日本国で有効な訳はないとは思うんだけど。

 俺は山田さんの方を向いて「またまたそんな変な設定を」と言いかけた所でまた部屋中にファンファーレが鳴った。


 てててて~て~て~てってれ~♪


 前回と音が違うなと思いつつ山田さんを見ると彼は喜色満面の笑みを俺に向けて居た。

 え?何やだ怖い。


「田中さん!レベルアップですよ!レベルアップ!」


 彼はそう言って立ち上がると俺の両手を掴んでぶんぶん振り回す。

 痛い痛い。身長差がモロに肩関節に響く。


「や、止めてください山田さん!落ち着いて!落ち着いて!」


 突然人が変わったようにはしゃぎだした山田さんを落ち着かせ話を聞くことにする。

 研究員契約の話も含めてだ。


「レベルアップって言いましたけど前回のレベルアップの時とファンファーレの音が違ったんですけど?」

「ええ、レベルアップを知らせるファンファーレは毎回変わるんですよ。ミニ世界樹ケースを開発したのはドワドワ研究所なのですが」


 山田さんは続きを促すように高橋さんを見る。

 それを受けて高橋さんは小柄なのにそれなりにある胸を張って何故か自慢するように説明を続ける。


「ええ、そうなのですです。我がドワドワ研究所の最新テクノロジーと魔法技術の粋を集めて作られたのがそのミニ世界樹ケースなのですです!」


 びしぃっ!と効果音を背負う勢いでケースを指差す高橋さん。


「ミニ世界樹が空間魔力や各種エネルギーを取り入れやすく、そして更にミニ世界樹からの『恩恵』をロス無く取り出せるように作られた上部の魔導ゲートウェイ。そして限りなく透明度を上げて世界樹の光合成の妨げにならないように職人の腕によって作られたクリスタルガラスぅ!そして世界樹の広がる根が根詰まりを起こさないように成長に合わせ自動的に亜空間へそのエリアが広がる魔導土っ!」


 そこまで一気に喋り終えたあと高橋さんはくるりとその場で回転した後ミニ世界樹『ミユ』を持ち上げながら何故か決めポーズを取る。


「それだけの高性能かつ高機能を備えた上で魔法技術のない世界でも育てやすいように魔法を使わずとも持ち運び出来るように超軽量化したドワドワ研究所の最高傑作がこのミニ世界樹育成キット『そだてるん』なのですです!!」


 何だかもう色々と凄いような気がする設定のオンパレードだった。

 そして「ですです」うるさい。


「それでファンファーレの音が違う理由はなんなの?」


 俺は長々とした説明をスルーして本来聞きたかったことを聞くことにした。


「その方が面白いから」

「え?」

「毎回毎回同じ音じゃつまんないよね?ってウチの所長が勝手に実装しちゃったんですですよ」


 俺が呆れたような顔をしているのを見て高橋さんが付け加える。


「実装するにあたって面白いからという理由以外にも別にありましてですですね。この機能は音によって今何レベルに上がったのかが判断できる用になっているわけですです」


 俺は『LEVEL 3』と表示されているケースを見ながら「それって必要無くね?」と感じたまま伝えた。


「実装してから気がついたですです。あともう一つさっき田中さんに言われて気がついたですが…」

「?」

「どのファンファーレがどのレベルの音か知ってるのは実装した所長だけなんですですよね。だから所長以外が聞いても何レベルになったかわからないって言う」


 てへぺろ(・ω<)。


「その頃私達研究員と開発員はミニ世界樹育成ケース制作の最終段階にはいってましてですですね。ほぼ徹夜で死屍累々、動いてる人たちも脳内ハイテンションモードだったのと使用にあたって特に問題はないだろうという判断で放置された機能だったんですです」

「つまり完全な無駄機能でネタ要素以外意味がないと?」


(・ω<)


「その顔やめろ」

「それでですね」と山田さんが後をまた引き継ぐ。

「我が社と致しましても折角の機能なのでファンファーレの一覧を説明書に表記しようという話は合ったのですが……」


 そこまで言って山田さんは高橋さんと頷き合い続ける。


「その研究所所長がミニ世界樹育成ケース完成後に行方不明になりまして」

「行方不明?何か事件にでも巻き込まれたってこと?」

「いえ…ドワドワ研の所長はですね。一つの研究が一段落すると新たな研究を求めて旅立つという悪癖がございまして。まぁせいぜい20年程度で戻っては来るのですが」


 出た、長命種ネタ!


「今回のミニ世界樹プロジェクト開始には間に合わないという事で現状の取扱説明書への表記は取りやめになったという経緯があります」


 申し訳なさそうに言う山田さん。

 結局、正直正面の表記見れば今のレベルなんて分かるからどうでもいいという結論に俺の中で達した。


「うん、まぁそれは良いんだけどそろそろ今回のレベルアップで何が出来るようになったのか教えてもらいたいんだけど?」

「そう!それですそれ!今はそっちのほうが重要じゃないですですか!」


 高橋さんは取扱説明書をペラペラめくり呪文のページを開いた。


「ほらっ!新しい呪文が増えてますますよ!」


 その声に高橋さんの隣りにいた山田さんはそのページを覗き込む。


「なるほど『言霊の息吹+α』ですか。これはまた面白い呪文が開放されましたね」

「面白い?その『言霊の息吹』って呪文はどんな機能が動作するようになるんだ?」


 あと、また後ろに+αが追加されてる。


「では僭越ながらいつもの様に私が呪文を発動させていただきます」


 山田さんはそう言うといつも通りミニ世界樹『ミユ』に向けて手のひらを広げじゅもんを唱える。


「我らを絆ぐ言霊を我が願いの前に示し映し給え!」


 その呪文に反応してミニ世界樹『ミユ』は一回ぼわっと優しく光った。


「?何も起きないけど?」


 部屋の中を見回しても何処にも変化はない。

 前回のように体に感じる物もない。


「田中さん、私の言葉はわかりますか?」


 突然山田さんがおかしなことを口走った。


「当たり前じゃないですか。なにか悪いものでも食ったの?」

「呪文はキチンと発動しているようですね」


 山田さんは何時ものイケメンドヤ顔をしているが何を言ってるのか意味がわからない。


「発動って、何も起こってないと思うんだけど?」

「ふふっ、解りませんか?今私は故郷の言葉、つまり田中さんからすると異世界語を喋っているんですよ」

「ブラック企業努めの過労と変な研究員のせいで心労がたまって脳にまで…」

「う~ん、たしかにこの呪文の効果は判り難いかもしれませんね。そうだ!先日ミニ世界樹を最初にお渡しした時に付いていたエルフ語で書かれた取扱説明書を見てください」


 俺は立ち上がって机の引き出しに仕舞ってあったエルフ語(笑)の説明書を取り出して眺める。


「ん?あれ?これ日本語版じゃん」


 まちがって日本語版を取り出してしまったようだ。

 えっと…。

 ゴソゴソと引き出しの奥を探すがエロ本一冊も出てこない。

 そもそもこんな所に隠してはいない。


「山田さん。説明書失くしたみたいなんですけど。ゴミの日に捨てちゃったかな?」

「いえいえ田中さん。今その手に持っているのがエルフ語版の取扱説明書ですよ。だって田中さんの日本語版説明書はさっきからずっと高橋さんが持ったままですし」

「え?でもこれ日本語だよ?」

「ええその通り。『言霊の息吹』の呪文は異世界言語を自動的に翻訳してくれる呪文なんですよ。だから今田中さんにはそのエルフ語が日本語に変換されて読めているわけです」


 またそんな設定を。

 どうせ説明書が電子ペーパー製で呪文コマンドによって表示が変わっただけじゃないか?


「因みに魔法の効力はその時点でのミニ世界樹の残存魔力総量に準じますので現在のあsdrtふよいjつえjpkpくdごp」


 山田さんが壊れた!


「きおjsん@うw…………ああ、すみません。もう言霊の息吹の効力が切れたようですね」


 細かい。なんという細かい設定を体現する人なんだ。


「田中さん、手元のエルフ語説明書を見てくださいませんか?」


 俺は手に持っていた説明書に目をやる。そこには元の意味不明な文字の羅列が表記されていた。

 こっちも芸が細かいな。

 俺は少しだけ関心するともう一つ気になっていたことを尋ねた。


「じゃあ今回の+αは何だったの?」

「えっとですね」


 山田さんは高橋さんの持つ説明書にもう一度目を通していった。


「紅葉……だそうです」



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