第47話 伝説のギャンブラー
「何だぁ? この悪趣味なバイクは」
拳凰はハンバーグによって外に連れ出され、ホテルの駐輪場に来ていた。
「誰が趣味悪いって? あ? そいつは俺の魔動二輪車デスレグルスだ。最高にカッコイイだろこの野郎」
それは黒の素体に銀色の骨のような装飾をゴテゴテと付けて、フロントには大きな銀色のライオンの頭部を付けた大型バイクであった。骨の並びは実際のライオンの身体に則しており、まるで頭だけ生身の骨ライオンのようである。しかも、両サイドにバルカン砲のようなものまで付いていた。
「武装バイクってやつか? このバルカン発射できんのか?」
「おう、このライオンの口ん中にキャノンも入ってるぞ」
「マジか……」
「つーわけだ、後ろに乗れ」
ハンバーグはバイクに跨り、座席後部を親指で指す。
「俺は明日まで外出しちゃいけねーんじゃなかったのか?」
「ビフテキが許可出したんだよ。いいからさっさと乗れ」
拳凰は渋々それに従い、バイクに跨る。
「そんじゃ出発するぜ。しっかり掴まってろよ」
ハンバーグはエンジンを噴かせ、ロケットスタート。デスレグルスが風を切って突っ走る。
「ちょ、てめっ……スピード出しすぎだろ! つーかどこ行く気だ!?」
「カジノだよ、カジノ。言っとくがホテルの地下にあるゲーセンみてーなガキの遊び場とは違うぜ。モノホンの大金が動く裏カジノだ」
「ハァ!? んなとこ連れてってどうすんだよ。カジノで一体どうやって強くなるってんだ」
「いいからてめえは俺のギャンブルを黙って見てりゃいいんだよ」
ありえないスピードで突っ走ったこともあって、カジノにはあっという間に到着した。
「ここだ」
人気の少ない裏通り。その建物と建物の間の狭い隙間にひっそりとある、地下への入り口。人一人分しか入れない隙間を通って、二人はカジノへ足を進める。
暫く階段を下りていくと、一面開けた場所に出た。煌びやかな赤い絨毯と無数のネオンで彩られた、豪華なカジノ。一攫千金を求める者達の歓喜と叫喚が響く場所。
ハンバーグが足を踏み入れた途端、その場にいた者達が揃ってこちらを向いた。
「ようイカリング、久々に来てやったぞ」
入って早々、ハンバーグは一人のディーラーに挨拶をする。ディーラーのイカリングは、額に汗を垂らして睨みを利かせる。
「これはこれはハンバーグ様、よくぞいらっしゃいました」
「半年ぶりくらいか? お前ちったぁ腕上げたかよ」
「ええ、勿論ですとも」
余裕綽々でテーブル前の席に座るハンバーグに対し、イカリングは緊張に強張っている。
シャッフルしたカードをそれぞれに配り、ゲームスタート。人間界では見たこともない絵柄のカードを、拳凰は興味心身で覗き込む。
二人は手札のカードを捨てたり山札から引いたり、一枚選んで机の上に裏向きで出したものを同時に表向けてカードの強さを勝負したり、何やらわけのわからない駆け引きを繰り返した後、お互いに手札全てを机に置いて見せ合う。
「俺の勝ちだな」
ハンバーグがしたり顔で言う。
「お前の役は全ての役の中で二番目に強い役。そして俺の役は一番強い役だ。俺はお前がイカサマでその役を揃えたことに気付いてたが、あえて見逃してやった。素で一番強い役を作れる自信があったからな。ククッ、あえて一番じゃなく二番を作る謙虚さが仇になったな、イカリングよぉ。ちなみにもしお前が俺と同じ役を作ろうとしてたら、普通にイカサマを糾弾して罰金払わせてたぜ」
拳凰にやったようにいつもの調子で煽るハンバーグ。イカリングは悔しさのあまり机を拳で叩いた。
「この役のレートは一万倍。俺の一ヵ月分の給料全額使って買ったコインが五千枚だから、しめて五千万枚だ。さっさと持ってこい」
ハンバーグがそう言うと、妖精界の数字で百万と書かれたコインを五十枚、バニーガールが運んできた。拳凰が妖精界の文字を見ると、魔法によって自然と日本語訳が頭の中に浮かぶのである。
「す、凄え……で、何だ、俺もこのゲームをやれってのか?」
「やめとけ。一瞬で一文無しにされるぞ」
席につこうとする拳凰を、ハンバーグが静止する。
「このゲームが何かの修行になるってわけじゃねーのか? じゃあ何しにこんな所まで来たってんだ」
「さて、もう一稼ぎするか」
ハンバーグは拳凰を無視して、スロットの席に座る。百万と書かれたスロットに、先程貰った百万枚分の価値を持つコインを入れた。
「おい、聞いてんのか」
「さっきの俺とイカリングの勝負を見て思うことはなかったのか?」
「ん? お前がギャンブル得意とは意外だなーと」
「あのイカリングって奴はこの国有数の実力を持つディーラーだぜ。それがあんな稚拙なカード捌きをするか?」
「いやそう言われても、俺あのゲームのルール知らねーしな」
「……じゃあお前、俺と戦ってる時に自分がいつもより弱くなったような気はしなかったか? 加重トレーニングルームで俺と競いながらトレーニングしてた時、いつもよりキツく感じなかったか?」
そう言われた途端、拳凰ははっとする。
「俺より弱い奴が俺と勝負している間、そいつは普段より弱くなる。それが俺の魔法、獅子の威圧だ。イカリングのカードの腕前は相当のものだが、俺よりは下だ。だから俺と勝負したら得意のイカサマも上手く誤魔化せず失敗する。そしてこのカジノの支配人も俺よりスロットが下手だから、本来絶対当たらない設定になっているこのスロットも、そんな設定ぶっちぎって自分から俺にコインを差し出してくる」
ジャラジャラと溢れるように出てくる、百万と書かれたコイン。ハンバーグは次から次へと大当たりの目を揃えていった。
「あのーハンバーグ様……もうこのくらいで勘弁して頂けませんか」
後ろから声がしたので、ハンバーグは振り返る。
「噂をすれば本人登場か。丁度ここに来てたんだなトリュフ」
頭を低くし畏まった態度でハンバーグに懇願するその男は、そんな態度があまりに似合わないくらい煌びやかな成金趣味の格好をしていた。
「誰だ、このおっさん」
「こいつはトリュフ。ここの支配人をやってる大商人だ。表じゃ健全な商売をしてクリーンに大儲けする傍ら、裏ではこんなイカサマカジノを経営して汚い金で大儲けする。そういう奴さ」
「ほー」
拳凰は割とどうでもよさそうに、トリュフを見た。
「それでハンバーグ様……」
「俺の慈善事業を邪魔してんじゃねえよ」
「ですがそれ以上取られたらこのカジノは潰れてしまいます!」
「嘘つけ。金が無くなったら表で稼いだ金をこっちの金庫に移して、また金に目が眩んだアホどもから搾取するつもりだろう」
図星を突かれ、トリュフは狼狽える。
「まあでも一応ここが潰れちまったら 金蔓が一つ無くなっちまうからな。今日のところはこのくらいで勘弁してやらぁ。さあ、このコイン全部換金だ」
山のようにある百万コインを見せびらかし、ハンバーグはバニーガールに指示をした。
バニーガールは換金所のパソコンを操作した後、再びハンバーグの所に戻ってきた。
「ハンバーグ様の口座に全額振込み致しました」
「よし、ちゃんと入ってるな」
ハンバーグはフェアリーフォンを取り出して口座残高を確認する。
「そんじゃ、またいずれ遊びに来るぜ。さ、戻るぞ最強寺」
「お、おう」
意気揚々とカジノを出て、バイクに乗り込むハンバーグ。
「これでわかったろ、俺の魔法は俺より強い奴には効かない。つまり俺に勝つには、俺より強くなればいい」
「ちっ、こいつごく当たり前のことをさも特別な秘密のように言いやがる」
肩透かしな答えに、拳凰は落胆した。
「じゃあ次行くぞ、さっさと乗れ」
「まだギャンブルやんのかよ!」
「いや、次はこの金を使いに行く」
「ちっ、買い物かよ。言っとくが俺は野郎の荷物持ちしてやる趣味はねーぞ」
「いいからさっさと乗れっつの」
結局また拳凰が渋々バイクに乗ると、ハンバーグはすぐさまエンジンを噴かせ飛び出した。
暫く走ったところで、ハンバーグは古びた建物の前に駐車する。
「何だ、ここは」
「オムスビ教の教会だ。用があるのはここの孤児院だな」
「孤児院? まさかお前その金でガキを買う気か!?」
「俺を何だと思ってんだ。あんまりふざけたこと言ってるとしばくぞ」
教会に入って、拳凰は周囲を見回す。人間界の教会と趣は異なるものの、神秘的な雰囲気は確かにこれが宗教建築であることを感じさせる。内装は古びてはいるが綺麗であり、丁寧な管理がされていることがわかる。
扉を開けた音に反応したのか、奥の部屋から一人の女性が出てきた。
「ようシスター、金持ってきてやったぜ」
「ハンバーグ様、いつもありがとうございます」
ハンバーグがフェアリーフォンのATMアプリを起動して引き出しを操作すると、画面から魔法陣が出現しその中から札束が出現した。札束を手渡されたシスターは何度も頭を下げる。
「ところでそちらの方はもしや……」
「おう、今日のバトルで大活躍した奴だ。ほら最強寺、俺と一緒に来い」
ハンバーグに言われるがまま付いていくと、沢山の子供達が遊んでいる部屋に出た。入って早々、ハンバーグは大きな声で言う。
「ようガキども、今日はお前らにプレゼントを持ってきてやったぜ」
「最強寺拳凰だ!」
一人の子供が叫んだ。子供達は目を輝かせ、一斉に拳凰の下に走り寄って来る。
「すげー! 本物の拳凰だ!」
「今日のバトル、テレビで見たよ!」
「ミスターNAZOをやっつけるとこ、凄くかっこよかった!」
拳凰に会えた喜びを、次々と口にする子供達。拳凰は困惑しながらハンバーグの顔を見た。
「魔法少女バトルの試合はテレビ中継されてるんだぜ。当然お前は有名人ってわけだ。せっかくだからこのガキどもと遊んでやれ」
子供達の相手を拳凰に押し付け、ハンバーグはシスターと話しに行ってしまった。
子供達は拳凰の巨体に登るわ服や髪を引っ張るわで、すっかり拳凰を玩具にしている状態であった。相手が子供である以上振り払うわけにもいかず、好き勝手に遊ばれていた。
と、そこで話を終えたハンバーグが戻ってきた。
「よし、次行くぞ最強寺」
「……やっとかよ」
ようやく子供達から解放され、拳凰はほっとする。
「そんじゃシスターもガキどもも、またな」
気前良く別れの挨拶をするハンバーグ。二人は孤児院を出ると、またバイクに跨った。二人はバイクを走らせながら、先程のことについて話す。
「こいつは一体どういうことだテメー」
「生憎俺は極貧生活が染み付いちまっててな、大金があっても魔動二輪の改造くらいしか使い道が無えんだ」
(道理で……)
拳凰は自分が今乗っているゴテゴテしいバイクを見た。
「だから貰った給料は全額ギャンブルにつぎ込んで、裏カジノがイカサマで稼いだ汚え金を俺がぶんどり恵まれねえガキに配る慈善事業やってんだよ。半ば趣味でな」
「ほー……で、次はどこ行くんだ?」
「また孤児院だ。さっきの所は教会がやってるとこだったが、今度は民間経営だな。他にもまだ何件か行くぞ」
「おい、何で俺がそれに付き合わされないといけねーんだ?」
「認めたかねえがお前はガキのヒーローなんだよ。連れてったら喜ばれるんだ」
「んなことのために貴重なトレーニング時間を削られるのか……」
がっくり項垂れる拳凰を嘲笑うように、ハンバーグはエンジンを強く鳴らした。
「次行くとこはちょっとばかし遠いからよ、ここからは飛ばしてくぜ」
ハンバーグはハンドルとハンドルの間にある操作パネルのボタンをポチポチと押す。すると突然、先程まで地上を走っていたバイクが浮かび出した。
「うおっ!? 何だ!?」
「言っただろ、飛ばすって」
後部からジェット噴射し、バイクは二人を乗せたまま空中へと舞い上がる。ぐんぐん加速し、あっという間に先程までの街並みが見えなくなる。
「マジかよ……この世界のバイクは飛べるのか」
「俺のデスレグルスが特別なだけだ。普通は飛べねえ」
ジェットの音が響く中、拳凰は下の景色を眺める。高速で飛行するバイクは、山に差し掛かっていた。
「なあ、お前はこの世界の孤児院全部把握してんのか?」
「ああ、ザルソバが調べてリスト作ってくれてるからな。以前からまた二つほど増えてやがる」
「孤児院って増えるもんなのか?」
「今この大陸じゃちょっとばかし面倒なことが起こっててな、孤児が増えてんだ。他の大陸じゃ別にそんなこともねえんだがな」
「ほー……っておい、何か近づいてくるぞ!?」
異変を察知した拳凰が、地上から飛び立ったものを指差す。それはぐんぐんとこちらに迫ってきていた。
翼長十メートルはあろうかという巨体に、拳凰達を一口で飲み込める口、爬虫類のような顔と岩のような鱗。拳凰は前に宮殿で、この世界にはドラゴンのような生物がいるという話を聞いた覚えがある。まさにそれが、今目の前に迫っていたのだ。
「ちっ、こいつの巣が近くにあったのか」
怪物化コロッセオをゆうに超える体躯の化け物を前に、ハンバーグは平然とした様子。
「戦うぞ最強寺」
「マジか……」
<キャラクター紹介>
名前:
性別:女
学年:小五
身長:140
3サイズ:70-55-70(AAカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):うんこ色
星座:双子座
衣装:和式便器風
武器:ラバーカップ
魔法:汚物を操り相手に毒を与える
趣味:ギャグを考える
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