第36話 悠木姉妹・妹
磨里凛と香澄の異種格闘技戦。土俵入りした磨里凛は、ルール無用の強烈なドロップキック。その重たい一撃を、香澄は両掌で受け止める。押されて後退りするも、土俵際ギリギリで食い止めた。
着地した磨里凛は香澄に掴みかかり、そのまま押し出そうとする。
「お前の魔法、相撲のルールに則って相手を一撃で倒せる代償として、自分自身も一撃でやられちまうんじゃないか? だったらこの勝負、あたいが貰ったぜ!」
体格差に物を言わせ、ぐいぐい攻める磨里凛。だが香澄は華麗な手捌きでそれをいなし、磨里凛のまわしを取る。
磨里凛の巨体が持ち上がる。魔法による腕力強化がかかっていることもあるが、まさかの事態に磨里凛は目を丸くする。
豪快に投げられ、磨里凛は宙を舞う。だがあわや場外落ちかと思われたところで、土俵を砕いてリングが出現した。磨里凛はマットで受身を取る。
「危ねー危ねー、危機一髪だったぜ」
文字通り自分の土俵で戦う魔法を使う香澄。だが磨里凛もまた、同じタイプの魔法を使えるのだ。
再び香澄に接近する磨里凛だったが、リングを突き破って土俵が出現。だがそれもまた磨里凛の読み通りであった。一撃必殺を狙うため、香澄の腕を掴んで強引に場外へと投げようとする。
香澄は的確な立ち回りで、投げられるのを防ぐ。更にそこから回り込み、逆に磨里凛を押し出そうとした。
「させねーよ!」
途端、土俵がリングに早変わり。磨里凛は土俵では行えないマットに膝をついての固め技にスイッチ。だがリングの下から土俵が迫っていることに気付くと技を解いて立ち上がり、その流れで香澄を土俵外に投げようとした。
「あいつら、暢気に相撲なんかやってるよー」
「今のうちにやっちゃおっかー」
二人の勝負に水を差す声が、二つ。二人組の魔法少女が、土俵の外から飛び道具で攻撃してきたのだ。
「あいつら……おい相撲娘、決着は後だ。まずはあの鬱陶しい奴らを倒すぞ」
香澄は黙って頷く。
土俵がリングに変わると、磨里凛はリングから出て魔法少女の一人を抱え込みリングに戻る。
「な、ちょっ!?」
怪力に押さえられ抵抗できずにリングへ引きずり込まれた魔法少女を、磨里凛は容赦なくバックドロップ。マットにぶつかる寸前にリングが土俵へと変わり、相手を一撃必殺した。
「ナイスアシスト!」
磨里凛は笑顔でサムズアップ。
もう一人の魔法少女は剣を抜き、香澄に切りかかった。だが案の定土俵に入った途端武装解除され、巻かれたまわしを掴まれて容易く投げられた。
「やるなあお前」
二人の敵をあっという間に片付け、磨里凛は香澄を称えて肩に手を置く。
「お前、あたいと組まないか? 決着は後にしてさ」
香澄は黙って頷く。
「本当無口な奴だな。まあいいさ。あたいは金剛峰寺磨里凛ってんだ。よろしくな」
一方で花梨は。
(あの子、開会式で近くにいた……)
小梅の姿を見て、開会式のことを思い出す花梨。
「新手の魔法少女……君のパンツも奪ってあげる!」
織江は忍者が印を結ぶような高速の動きで「ぱん、つー、まる、みえ」のポーズをとり、小梅を早速術中に掛けようとする。だが小梅の身には何も起こらず、平然としていた。
「き、効かない!? ま、まさか君……パンツはいてないな!?」
小梅のコスチュームは超ハイレグカットのレオタード状。下半身の露出度は非常に高く、どう見ても素肌の上に直接それを着ている。
「藍上織江の致命的な弱点、それはパンツ丸出しにできない魔法少女との対戦では魔法が何の効力も持たないという点です。実際、一次予選・二次予選での黒星はいずれもパンツを用いない衣装、もしくは構造上パンツを露出する状態に脱がすことができない衣装の魔法少女との対戦です」
モニターを見ながら、ザルソバが解説する。
例えば恋々愛の衣装はビキニ状であり、下半身に締めた褌はパンツと認識されないため恋々愛に織江の魔法は効かない。また、智恵理の衣装はスカートと一体化したレオタードであり、スカートをめくってもレオタードしか見えない。その下にはちゃんとパンツがあるのだが、それを露出させるためには上から脱がさなければならず、織江の魔法にはそこまでの力はない。一見万能に見える織江の魔法だが、効かない相手は意外に多いのだ。
「ぐぐぐ……相性最悪の相手!」
ここでふと織江は、ある手段を思いつく。以前のルールでは一対一だったため魔法の効かない相手には一方的にやられるばかりであったが、今回のルールは複数戦なのである。
「行け! 私のしもべ!」
織江の作戦、それは花梨に命令を出し小梅に突撃させることであった。最終予選での織江は、他の魔法少女を自分の武器として使えるのだ。
小梅はクラウチングスタートの体勢をとると、織江目掛けて一気に駆け出す。花梨には手も触れずにすれ違い、その拳は織江に迫る。
ガントレットに覆われた拳が、織江の腹にぶち当たる。ぶっ飛んだ織江に、小梅は超加速して追いつき更に殴る。再びぶっ飛んだところで、更なる追撃。
織江の位置が遠くに離れ魔法の射程距離から出た花梨のスカートは元に戻り、魔法による支配からも解放された。
(た、助かった……? あの変態さんはさっきの子に任せて、私は別の相手を探そうかな)
もう織江とは関わり合いになりたくない花梨は、そう思って小梅が走っていったのとは別の方向に歩き出した。
「本命同士が出会って大きく動くんじゃなかったんですかザルソバさん。悠木小梅は白藤花梨には目もくれず藍上織江に突っ込んでいきましたよ」
嘲笑を浮べて、ザルソバを煽るカクテル。
「……まあ、そういうこともあるでしょう」
ザルソバは俯き気味にそう言って、指で眼鏡を上げた。
花梨と引き離し織江から武器を奪った小梅は、尚も走り続ける。
(こ、このままじゃマズい!)
ただでさえハメコンボを喰らわされているこの状況、しかもこれだけ高速で移動しながらどこかの岩にでも体をぶつけられたら大ダメージである。
織江は近くに魔法少女の影を見つけ「ぱん、つー、まる、みえ」のポーズをとる。少女の穿いていたズボンが下ろされてパンツが露出し、織江はその体の支配権を得る。
「私を助けろしもべ!」
命令に従わされた魔法少女はこちらに駆け出し、織江の後ろに立つ。その少女の体をクッションにして跳ね返った織江は、着地して小梅を待ち構えた。
「忍法空蝉の術!」
高速で迫る小梅の拳に対し、織江は操った少女を身代わりにする。織江の星座は双子座。つまり担当は忍者ソーセージであり、この術は彼の直伝なのだ。
殴り飛ばされ変身解除された少女に小梅の意識が集中している間に、織江は別の魔法少女を見つけて操る。
「行け! あいつをやっつけろ!」
命令に従い駆け出した魔法少女だったが、足にズボンが引っかかって転んでしまう。
(しまった! ズボンを穿いた魔法少女はパンツ丸出しだと戦力にならない!)
自分の魔法の新たな欠点に気が付き、愕然とする織江。
(どこか……どこかにスカートを穿いた魔法少女は……)
パンツを丸出しにしても動きの制限が少ない衣装といえばスカート、中でもミニスカートが最も適している。織江は必死で周囲を観察し、戦力になりそうな魔法少女を探した。
(いた!)
ミニスカートを穿いたターゲットを発見した織江は早速パンツをコピー。少女に持っていた銃で小梅を撃たせた。
小梅が吹っ飛んだ隙に、織江は逃走。しかし小梅の加速力には容易く追いつかれてしまう。
「詳細! 詳細キボンヌ!」
自分の担当する魔法少女が負けそうになったソーセージは、ザルソバに小梅の解説を求める。
「小梅の魔法は単純明快な超加速です。シンプルイズベスト、速さこそが強さ、それが彼女の戦い方なのですよ」
銃を持った魔法少女は速攻で倒され、織江は更に追い詰められる。凄まじい速さで流星の如く殴りかかってくる相手に、防戦一方である。
「くっ……私にだってパンツはいてない魔法少女への攻撃手段は持ってるのよ!」
織江は体に貼り付けたコレクションを一枚剥がすと、両手でゴムの両端を引っ張った。
「パンツゴム鉄砲!」
輪ゴムを飛ばすようにパンツを飛ばし、高速で直進してくる小梅を狙い撃つ。
「痛っ!?」
あまりにもしょうもない攻撃のようで、意外と威力はあった。ゴムで引っ叩かれたような衝撃を受けた小梅は仰向けに倒れる。
事実、織江はパンツ丸出しにできない相手に全敗しているわけではない。たとえそのような相手に当たったとしても、このパンツゴム鉄砲で倒してきたのだ。
「負けられない……私には叶えなければいけない願いがあるの。ギャルのパンティおくれーっ! という願いが!!!」
自らの願いを口にすることで己を鼓舞。その内容に、小梅は唖然。
「ほ、本気でそれ願うつもりなの?」
動きを止めて目が点になり、きょとんとした顔で尋ねる小梅。
「私は女子のパンツが大好き! だからこそ私は戦った魔法少女のパンツをコスチュームの一部としてコレクションしているの!」
「ええー……」
「ところで君、変身前はどんなパンツ穿いてたの?」
「え? 確かピンクだったような……って、何言わせるんだよ!」
脈絡も無く話題を変える織江。小梅は話の流れで思わず答えてしまった。
「おおー、ボーイッシュちゃんがピンクとは意外性があって萌ゆる……今の衣装で穿いてないのが悔やまれる……」
ニヤニヤ笑って興奮する織江に、小梅はドン引き。
「こっ、この変態ヤロー! あたしがぶっ倒してやる!」
挑発に乗せられた小梅は殴りかかる。織江は殴られる寸前に小さくジャンプ。あえて自分から吹っ飛ぶことで体が受ける衝撃を和らげ、尚且つ飛ばされる方向を操作。更に空中への飛距離も伸ばした。
(狙い通り!)
見晴らしの良い上空へと舞い上がった織江は、操れそうな魔法少女を探す。
実は織江の視力は非常に良い。眼鏡をしているためむしろ逆の印象を持たれるが、実はこの眼鏡はコスチュームの一部であり変身前は裸眼なのだ。
学校内では勿論のこと、街行く女性のパンチラをも見逃さないようにするため、織江は普段から視力を鍛えているのである。
そしてコスチュームの眼鏡は、その視力を更に高めるためのもの。拡大機能もあり、よりパンチラウォッチングし易くなるのだ。
空から地上を見下ろすと、先程の花梨達と同じように三人の魔法少女が三つ巴のバトルをしている姿が早速見えた。拡大してみると、幸運にも三人ともミニスカートである。
「ムフフー、いいものみーっけ」
落ちながら「ぱん、つー、まる、みえ」のポーズを高速で行い、三人のパンツを丸出しにする。その後近くにあった高い木の枝を掴んで落下の勢いを殺し、跳ね返ったところで別の枝に着地した。コピーした三つのパンツの内の一つを頭に被り、その持ち主を操ってこちらに呼び寄せる。異変を察知したのか、残りの二人も自分からそれを追ってきた。
樹上の織江を見上げていた小梅は、三人の魔法少女に視線を移す。
「また他の魔法少女を……卑怯な奴め!」
身構える小梅。織江は頭に被ったパンツを別のものに変え、操作対象を二人目の魔法少女にする。
「なっ、体が勝手に!?」
慌てふためく魔法少女は、本人の意に反して小梅を攻撃する。
「あいつだ! あいつがあたし達の体を!」
先程操られていた魔法少女が、織江を指差して言う。
「じゃあスカートがこんな風になったのも!」
魔法少女達の怒りを買った織江は、二人から武器を向けられる。だが瞬時に操作対象を三人目に変え、一人目を攻撃。
その後も忍者の如き素早い手際で三人の魔法少女を入れ替え入れ替えに操作。自分が攻撃されるのを防ぎつつ、小梅を攻め立てる。体に貼り付けた三つのパンツを矢継ぎ早に触れてゆく姿は、まるでダンスでも踊っているかのようだった。
自由と不自由が交互に来ることで、魔法少女達は体が自由になっても思うような動きをすぐに行うことができない。完全に織江に翻弄されっぱなしだったのである。
小梅は襲い来る魔法少女達に的確にジャブを入れてHPを削ってゆくが、流石に三対一ともなると織江本体に近づけるほどの余裕は無い。
「だったらこれでどうだ!」
魔法少女の一人を力強く殴って織江の方へ吹っ飛ばし、直後に地面を蹴って加速しながらジャンプ。飛ばした魔法少女を空中で更にもう一発殴って加速させ、樹上の織江にぶつける。
「ふぎゃっ!?」
変身解除してバリアに包まれた魔法少女をぶつけられ、織江は木から落ちる。更に小梅は残る二人の魔法少女を加速しながらの回し蹴りで片付け、織江へのとどめを刺そうとする。
「まだよ! 私にはまだ最後の切り札が残っている! アーマーパージ!」
織江が忍者のように印を結ぶと、全身に貼り付けたコレクションが弾けるように剥がれ、辺り一帯に吹き飛んだ。
「うわっ!」
それは無数のパンツゴム鉄砲が一斉に襲い掛かってくるようなもの。小梅は地面を殴って粉塵を巻き上げガードするも、その衝撃は強くいくつかのパンツは粉塵を貫き小梅に当たる。
「く……倒しきれなかった!?」
体のパンツを全て剥がした織江は、両胸の先端に絆創膏を一枚ずつ貼った以外は自前のパンツ一丁という格好になる。
全てのコレクションを失う捨て身の攻撃を放っても倒しきれない小梅の耐久力。メカニカルな装甲を付けた衣装は伊達ではない。ならば、織江に残された手段は一つしかない。
「こうなったら……忍法パンツ隠れの術!」
右手で印を結び左手を高く上げると突風が吹き、散らばったパンツが巻き上がる。やがてそれは織江の周りで竜巻となり、やがて織江はパンツ竜巻の中に姿を消した。
「い、いない!? くっそー、逃げられたか!」
自分が倒すと宣言した変態に逃げられ、小梅は悔しがった。
「危機一髪で逃げ遂せるとは……やりますね」
ザルソバはソーセージの方を向いて言った。
「フサギコは犬だから」
ソーセージは脈絡の無い返事をする。
小梅と織江のバトルを観戦していたハンバーグは、ふと拳凰の映るモニターに目を向けた。
拳凰は相変わらず苦戦知らずの無双状態で、魔法少女を次々と撃破している。
だがそんな拳凰の近くに、ハンバーグは一つの点を見つける。
(ほおーう、こいつは……)
顎に手を当てて薄ら笑いを浮べるハンバーグを見て、ポタージュは不思議そうな顔をする。
「何で笑ってる的なー? むしろ君にとってはピンチじゃない的な?」
「いいんだよ。面白えもんが見れそうだからよ」
拳凰に近づく魔法少女は、見るからに大人しそうな三つ編み眼鏡っ娘。
獅子座の本命、武闘派文学少女こと美空寿々菜であった。
<キャラクター紹介>
名前:
性別:女
学年:小六
身長:151
3サイズ:80-57-85(Bカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):薄紅
星座:天秤座
衣装:F1風ハイレグレオタード
武器:ガントレット
魔法:超加速
趣味:陸上競技
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