第32話 強き者達

 ハンター達が圧倒的強さで大暴れする中、魔法少女同士のバトルも白熱していた。

 優勝候補の一角である小鳥遊麗羅は、蝙蝠の如く木の枝に逆さまでぶら下がり、無数の蝙蝠を周囲に潜ませ超音波で索敵していた。

 超音波が敵を感知すると、蝙蝠は一斉に襲い掛かる。麗羅の領域に迷い込んだ不幸な魔法少女は、蝙蝠軍団の圧倒的な物量によってHPを一気に削られ何もわからぬまま脱落となった。

「さっすが麗羅的なー! 他の魔法少女とは出来が違う的なー!」

「ジンギスカン卿の功績を自分のことのように語りよって」

 ミソシルから白い目で見られながらも、ポタージュは調子に乗り続ける。

「漏れの大名だいなタソキターーーーーーーー!」

 ソーセージが一つのモニターを指差して叫ぶ。そこに映るのは黒いドラゴンを模ったバイクに跨り、特攻服を着た魔法少女。双子座の本命である竜崎大名であった。

 大名はバイクを爆走させ、他の魔法少女を跳ね飛ばしてゆく。ちなみに彼女は中学生であるため、当然無免許である。

 豪快な轢き逃げアタックの連発に、他の魔法少女達は恐れおののき涙目になっていた。

「オラオラ! ウチは烈弩哀図レッドアイズの総長、竜崎大名様や! 邪魔する奴はぶっ飛ばすでーっ!」

 バイクで人を轢くという普段はやりたくてもできないことを存分にやれるこの魔法少女バトル。大名は興奮して暴れ回っていたのである。

「おっ、いい単車じゃねーか。まあ俺のデスレグルス程じゃねえがな」

 魔動二輪を嗜むハンバーグは、大名に親近感を覚えていた。

「あのような野蛮な者に魔法の力を与えるとは……」

「アーアー聞こえない」

 ビフテキの小言に、ソーセージは聞こえないふり。

 一方ホーレンソーは、一つのモニターに注視していた。そこに映るのはホーレンソーがミスターNAZOと同等の警戒をしている人物。カクテルがシステムを改竄して作り上げた特殊な魔法少女、雨戸朝香である。

「雨戸朝香……今のところ覚醒する気配はありませんね」

 ザルソバがホーレンソーに話しかけた。

 朝香は傘から広範囲に雨を降らせ、付近の魔法少女を一掃。敵にとどめを刺した者はMP全回復というルールを最大限に活かし、MPを惜しまず使用している。このような戦術が使えるのも彼女の魔力の高さあってのものであった。

 今のところ特に苦戦はしておらず、覚醒する様子は無い。だがここから先は実力者との対戦も増え、覚醒の機会も増えることをホーレンソーは予測していた。覚醒した朝香が使用する赤い雨は、変身解除された魔法少女の身を守るバリアを破壊する効果がある。決して起こってはならない事故を未然に防ぐために、騎士団は常に彼女を監視する必要があるのだ。

 先日行われた騎士団会議では、当然彼女に関する議論も行われた。

 覚醒システムはあまりにも危険であり、即刻取り外さねばならないとするホーレンソーに対して、カクテルは陛下の承認を受けているからとの一点張りであった。

「覚醒した魔法少女の対戦相手が受ける被害は勿論のこと、覚醒した魔法少女自身も命に関わる被害を受けるのは穂村瑠璃の一件が証明している。こんな危険なものを何故放置しているのだ」

「覚醒システムを全魔法少女の共通装備にするにあたって魔力の差による影響の違いを検証するため、強い魔法少女と弱い魔法少女のサンプルが必要でした。穂村瑠璃は弱い魔法少女のサンプルとして選ばれ、魔力の低い者では覚醒システムが正常に作用しないという重大な欠陥を割り出してくれたのです。彼女の犠牲は決して無駄なことではありませんでした」

「論点がずれているぞカクテル」

 ホーレンソーをおちょくるように、カクテルはわざと論点を逸らした。

「覚醒魔法少女の攻撃ならバリアを割れちゃうのは欠陥じゃない的なー?」

「それは仕様です。バトルをより盛り上げるためのね」

「そんなもので盛り上がるものか!」

 ホーレンソーが机を叩き、軽い気持ちで質問したポタージュはびくりとした。

「それに穂村瑠璃はとうに意識を取り戻しました。永遠に昏睡したままでなく済むように弟を代理でバトルに参加させ、弟が脱落した時点で姉の方も悪い作用をしていた魔力が失われ昏睡が解けるようにしたのです」

「我々妖精騎士団には魔法少女の資格を剥奪する権限がある。穂村瑠璃の魔力を無くすだけならば、そんな回りくどいことをせずとも可能なはずだ」

「だって可哀想じゃないですか。まだ二回負けただけなのに脱落してしまうだなんて。私は彼女の願いが叶う余地を与えてあげたのですよ」

「詭弁だな。穂村幸次郎も貴様の実験台か?」

「何にせよ、陛下はこの覚醒システムをいたく気に入っておられます。私は次回大会での正式採用に向けて今後も開発を進めていきますので、悪しからず」

 またしても論点を逸らすカクテル。オーデンの話が出て、曇ったのはムニエルである。

「何故父上は……このようなことを……」

 ホーレンソーとカクテルのあまりに険悪な空気に、他の騎士達は居心地を悪くしていた。だがこの議題はそう簡単に切り上げられるものではなく、続けるしかない。

 そこでザルソバは、一つ雨戸朝香に関する別の話題を挙げてみた。

「雨戸朝香といえば、テレビ放送についても問題ですね。二次予選の時は妖精界にいたビフテキさんが誤魔化してくれましたが、バリアが破壊されるところをテレビ放送するのは流石に無理があるというものでしょう」

 幼いムニエルに代わって妖精騎士団の実質的なリーダーを務めるビフテキは、カクテルの開発していた覚醒システムのことも事前に知っていた。妖精界にいた時に梓と朝香の対戦組み合わせを知ったビフテキは、この試合で朝香が覚醒すると予測。人間界から妖精界へと送信される映像がテレビ局に届く前に、自身の得意とする魔法を使って映像を改竄。バリアは破壊されずごく普通の決着がついたものとして放送されたのである。

「正直映像の改竄はどうかと思うカニ。誇り高き妖精騎士団が国民に嘘をつくなんて……」

「この国の隠蔽体質にどうこう言うのは今更って話だ」

 カニミソに反論したのは、ハバネロである。国を悪く言われたことで、ミソシルがハバネロを睨んだ。

「俺の一族なんざ、不都合な真実の隠蔽で飯を食ってきたようなものだからな」

 ハバネロは自嘲気味に言う。

「お前が乱入男に負けて失踪したことも報道されないようにされてた的なー」

 カニミソが思っているよりも妖精界の隠蔽体質は深刻なものであった。

「私は自分のやったことを間違っていたとは思っていない。魔法少女バトルは妖精界最大の祭。国民には何も不安に思うことなく魔法少女バトルを楽しんでもらいたいのだ。たとえ嘘をついてでもな。陛下が関わっている以上覚醒システムを外すことができないのなら、今は受け入れるしかあるまい。万が一事故が起こり得るようならば、二次予選でホーレンソーがやったように我々が助ければよい。これまでは日本中が舞台で我々の目の届かない場所で起こる試合も多かったが、最終予選からは全ての試合を監視できる。覚醒した魔法少女の攻撃でバリアが割られそうになったなら、我々はすぐに駆けつけることができるのだからな」

「……確かに、今はそれが最善手と言わざるを得ないな」

 ホーレンソーは心を落ち着かせ席についた。

 この会議で決まった雨戸朝香への対応。ホーレンソーはこの最終予選中、この役割をすることを志願した。万が一の事故を防ぐため、お気に入りの梓を見る暇も無く朝香を監視していたのだ。

「このまま何も起こらなければよいが……」

「……そういえば、水を使う優勝候補といえば、雨戸朝香以外にもう一人いましたね。温泉使いの湯乃花ゆのはなしずくです」

 ザルソバは別のモニターに目を向ける。そこにいるのは水色の長い髪を一つに丸めて縛ったお団子頭に白いタオルをリボンのように巻いた魔法少女。なんといっても特徴的なのはそのコスチュームで、白いバスタオル一枚を身体に巻いただけである。最早単なる風呂上りの人にしか見えない格好だが、バスタオルの腰の辺りに付いた牡牛座のブローチは間違いなく魔法少女の証であった。

「私の温泉パワー、見せたげるね」

 三人の魔法少女に囲まれ集中攻撃を受けるかに思われた雫だったが、焦っている様子は全く無い。ポーズを決めてウインクすると、雫の周囲から熱湯が噴き出した。熱湯の壁は三人の魔法少女が放った攻撃を防ぎ、更に続けて三人に降りかかる。

「私は魔法で温泉を湧かせられるの。羨ましいでしょ」

 熱々の温泉を全身に浴びた魔法少女達は怯み、雫は更にそこから追撃の温泉を三人の足下から噴出させ空へと打ち上げた。地面に落下して受けたダメージで、三人同時に変身解除。

「すっごい的なータオルの中見えそうで全然見えない的な」

 ポタージュは雫の強さに驚いているのかと思いきや、それとは全然関係無いところに驚いていた。

「それはそうですよ。見えたら放送できませんから」


 圧倒的な差を見せて勝利していくのは、何も各星座の本命と呼ばれる魔法少女ばかりではない。本命として挙げられた十一人以外にも、彼女達に劣らぬ実力の優勝候補は多数いる。

 森の中にある少し開けた場所で戦っているのは、チャイナドレスを着た魔法少女。見た目どおりのカンフーで、対戦相手を猛烈に攻め立てている。

 強烈なハイキックで対戦相手を吹っ飛ばしたその少女は、とどめを刺そうと魔法を繰り出す。炎が宿った拳を突き出し、相手に向けて火の玉を発射。

「なっ……あんたカンフー使いになる魔法じゃなかったの!?」

「この拳法は俺が元から習っていたものであって魔法じゃない。小さな炎を操るのが私の魔法だ」

 火の玉が相手に突っ込み、爆発炎上。相手は変身解除させられた。

真田さなだあきら……彼女は魔力自体は高くありませんが、本人の技量で補っているタイプの魔法少女ですね。室町時代に行われた最初の日本大会でも忍の里出身の少女が優勝したそうですし、やはり魔法以外の戦闘技能を持つ者は有利と言えます」

 ザルソバが解説する中、玲の担当であるミルフィーユは玲を神妙な目で見ていた。


 一方別の場所では、重厚なプレートメイルを着込み槍と盾を手にした魔法少女が戦っていた。

 髪の色は薄紫で、軽くパーマのかかったショートボブ。彼女のコスチュームは一見すると王道の重装騎士といった風貌であるが、その実タオル一枚の雫より遥かに異常な格好をしていた。

 上半身は頭部を除き鋼鉄の鎧でがっちり固めていたが、腰から下はほぼ全裸なのである。足こそ鋼鉄のブーツで守られているのだが、それ以外に身に着けているものは股間に貼った小さな前貼りのみ。頭がいかれているとしか思えない、狂気のコスチュームであった。

羽間はざまミチル……彼女の担当はミソシルさんですね」

 引き攣った顔で、ザルソバが言う。

「まさかあんな衣装になるとはわしも思っとらんかったんぜよ!」

 必死の形相で弁明するミソシル。魔法少女がどんな衣装になるのかは担当の騎士にもわからないのだ。

 ミチルの過激すぎる衣装には、当然対戦相手もこれにはドン引きしていた。

「あ、あんた何? その格好……恥ずかしくないの?」

「大丈夫よ。私、下半身には自信あるもの」

 腰をくねらせながら、いちいち語尾にハートマークが付いているような喋り方でミチルは言う。

「なんかハミ出ちゃいそうで見てて怖いんだけど!」

「大丈夫よ。私全部剃ってるもの」

 相手のドン引きしながらの指摘に対し、セクシーな回答でおちょくるミチル。

「く……こんな痴女に負けてたまるか!」

 相手は剣を抜き、ミチルに切りかかる。ミチルは大きな盾で防御。盾に触れた瞬間剣は砕け散り、次の瞬間相手はまるで地面に吸いつけられるように叩きつけられた。

「こ、これは……重力!?」

 体が重くなりうつ伏せで身動きがとれなくなった相手を、ミチルは槍で一突き。

「ち、痴女に負けたぁ~」

 変身解除させられた相手は、前貼り一枚で隠されたミチルの股間を見上げながら悔しがった。


 同刻、また別の場所で戦う魔法少女は、もんぺを穿いて麦わら帽子を被り鍬を手にした魔法少女。

「何だありゃ? 百姓じゃねーか」

「彼女は山野やまの実里みのり。あれでもれっきとした魔法少女ですよ」

 ぽかんとするハンバーグに、ザルソバが答えた。

 華やかな衣装が目白押しの魔法少女バトルで、実里の衣装は酷く浮いていた。この野暮ったい格好を見た対戦相手は、必然的に実里を舐め腐るのだ。

 そうして油断したのが、運の尽きなのである。

「おら絶対優勝すんだべーっ!」

 実里が鍬で森の土を耕すと、そこから巨大な蔦が生え相手に襲い掛かる。

「ひぃっ!? な、何これ!?」

 蔦が全身に絡みつき、相手は悲鳴を上げる。

「どうだーっ、おらの魔法は強いだべーっ!」

 実里の放った蔦は相手の身体を締め付け、HPを削ってゆく。


 一度負ければ脱落。実力者達が順当に勝ち進み、そうでない者が落ちてゆく様は、ある種残酷な光景であった。

「最終予選はふるい落とし。これに勝ち残り本戦に進めた者だけが、真の実力者と言えるのです。尤も、弱い魔法少女が運良く本戦に進めてもそれはそれで面白いことになりますがね」

 ザルソバの視線が、一つのモニターに向けられた。そこに映るのは、長いコック帽が特徴的な、料理人風の衣装を着た魔法少女。

志雄しお砂糖子さとこ……彼女も強いですよ。対戦相手は気の毒ですね」

「蟹座全滅的なー」

 砂糖子と戦っているのは、智恵理であった。それも防戦一方である。

「あたしのマジカルクッキング、召し上がれ!」

 砂糖子がフライパンをかざすと、空から巨大なステーキが智恵理目掛けて落ちてくる。

「ひーっ!」

 一目散に逃げ出す智恵理。実力差がありすぎて攻めに転じることができず、逃げるだけで精一杯であった。

「ち、智恵理ー!!」

 システムルームでカニミソが叫ぶ。

「まー気を落とすなよ。次回また頑張りゃいいんだからよ。お前が三年後も騎士団にいられる保証はねーけど」

 慰めつつ傷口を抉るハンバーグ。

 足の速さには自信のある智恵理は、どうにか逃げ切り巨大ステーキの直撃を避ける。しかしステーキが地面に着いた際に起こった風で吹き飛び、転倒してしまった。

「もう逃がさないよー」

 砂糖子は再びフライパンを振り、空に巨大な鍋を出現させる。鍋が傾くと、グツグツ煮えたシチューが智恵理に向かって降り注いだ。

「うぎゃああああああぁっ!」

 色気を微塵も感じさせない悲鳴を上げる智恵理。あわやこれで脱落かに思えた。

 降りかかる刹那、どこからともなく飛来した無数の矢が智恵理の頭上でピタリと静止。傘となってシチューを防いだのだ。

「大丈夫? 智恵理」

 脱落を覚悟した智恵理に話しかけてくる、希望の声。

 ピンチに駆けつける親友の姿に、智恵理は思わず涙した。

「あ、梓ぁ~」

「私も一緒に戦うわ」

 智恵理に加勢し、砂糖子の前に立ちはだかる梓。その姿を見た途端、砂糖子の目つきが変わった。

「三日月梓……まさかそっちから来てくれるなんてね。探す手間が省けたよ」

 そう言って砂糖子はフライパンを振り上げ、そこから飛び出た目玉焼きが空高く飛んで見えなくなった。

 この行動に何の意味があるのかわからず、梓は警戒を強める。

「あたしはずっとあんたを倒したかったんだ!」

 フライパンを梓に向けて宣言する砂糖子。その胸のブローチには、射手座が輝いていた。



<キャラクター紹介>

名前:武蔵野むさしの灯里あかり

性別:女

学年:中二

身長:160

3サイズ:75-60-76(Aカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):朱

星座:山羊座

衣装:侍風

武器:刀

魔法:二刀流の達人になる

趣味:漫画を読む

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