斬られ役、裏側を語る


 272-①


 戦勝を祝う宴が始まった。


 魔王城の周辺で人間も魔族も一緒になって、あちらこちらで盛大に酒盛りが行われている。


 そんな中、元祖武刃団と天照武刃団の面々、そしてロイとアルジェは輪になって酒を酌み交わし、料理に舌鼓したつづみを打っていた。


「おっ、この料理めっちゃ美味いやん。何か知らんけどこの真っ赤なソースがピリッとしてて……」

「それにしてもさー、よく姐さんはあの乱戦状態の戦場でアニキを見つけ出す事が出来たよねー」


 フリードに話を振られたナジミは露骨に狼狽した。


「えっ!? そ、それはその……私と武光様の絆が呼び起こした愛の奇跡ですよ!!」

「いや、地面に埋まってたナジミを俺が見つけたんや」

「はい!? いや、どういう状況なのソレ!?」


 武光はその時の事を思い返し、フリード達に語った……


 272-②


 それは、魔王城の超弩級穿影槍が暗黒樹に炸裂する数分前の事……


 決死の奮戦で、突進してくる魔王城に暗黒樹の核の位置を伝えた武光とリヴァルは、城の地下へと退避した。

 そして数分後、激しい振動と衝撃が武光とリヴァルを襲った。


「武光殿、危ないっ!!」

「うおっ!?」


 二人の頭上から大量の瓦礫がれきが降ってきた。二人は左右に散って間一髪で降り注ぐ瓦礫を回避したものの、積み上がった瓦礫の山によって、完全に分断されてしまった。


「くっ……ヴァっさん!! 無事かーーー!?」


 瓦礫の向こうに向かって声を張り上げると、すぐさま返事が返ってきた。


「武光殿!! 私は大丈夫です、武光殿は!?」

「こっちも無事や、別々に上を目指して、地上で合流すんで!!」

「分かりました!! 気を付けて!!」


 そうして、武光は何とか地上に辿り着き、リヴァルの姿を探していたのだが……


「た……武光様!!」

「その声は!?」


 聞き覚えのある声に、武光は思わず振り向いた。そこにあったのは、愛する女性の姿だった。


「な……ナジミ!?」

「武光様、助けに来ましたよっ!!」

「お、おう……?」

「それで武光様……早速さっそくなんですけど……助けてください〜〜〜!!」


 ナジミは……胸元まで地面に埋まっていた!!


「私今、凄い爪先立ちなんです!! あ、足場がぐらぐらして……あぁっ!? お、落ち──」

「つ……掴まれ!!」


 武光は慌ててナジミの腕を掴み、穴から引きずり出した。


「はぁ……はぁ……あ、危なかった……」

「うぅ……ご、ごめんなさい。武光様を探していたら、いきなり地面に穴が空いて……」

「はー、貧乳で助かったわ。つっかえる事も無く “するん” と引っ張り出せたもんなぁ……」

「……あー、さっきまでめちゃくちゃつっかえてた胸が痛いなぁ!! 凄く!!」

「見栄を張るな見栄を!?」


 胸元を押さえるナジミを見て溜め息を吐いた武光は、真面目な顔になった。


「それより、怪我してへんか!?」

「それより、怪我してませんか!?」


「いや、それはこっちの台詞やて!?」

「いや、それは私の台詞です!!」


 自分よりも相手を心配し、見事にハモる辺り、やはり二人は似た者同士なのであろう。二人は思わず笑ってしまった。


「俺は大丈夫や、それよりナジミ、暗黒樹の核はどうなった!?」

「あっ、そうでした!! 暗黒樹の核はまだ生きてるって……フリード君達が討伐に向かっているはずです!!」


 暗黒樹の核は一筋縄ではいかない相手だ。暗黒樹の内部に囚われ続けていた武光はそれをよく知っている。


「ナジミ、暗黒樹の核は今どこや!?」

「ごめんなさい、慌てて飛び出してきたものですから場所までは……あっ!?」

「ん!?」


 不意にナジミが空を見上げ、つられて武光も空を見上げた。二人の視線の先では、異形の影魔獣が、真っ白な影魔獣を背後から羽交い締めにしていた。

 自分の知っている物と形状は違うが、白い方は暗黒樹の核だ。直感的に武光はそう思った。あんな得体の知れない化け物と弟分達が対峙しているかと思うと、いてもたってもいられなかった。


「ナジミ……」

「行って下さい、私は武光様が逃げ出さないように後ろから追いかけますから!!」

「よっしゃ!! 俺のカッコイイとこ……見とけよ?」

「はいっ!!」 

「行くで!! イットー!! 魔っつん!!」

〔ああ、行こう武光!!〕

〔ハイ、ご主人様!!〕


 そして、武光とナジミはフリード達を救援すべく駆け出した。


 272-③


「……と、まぁこういう事があったんや」

「ちょっと!? 恥ずかしいから内緒にしてくださいって言ったじゃないですか、もー!!」 

「そうやったっけ? そんな事よりナジミ、約束……覚えてるやろな?」

「……え?」

「シラを切ろうたってそうはいかねぇ!! 『お○ぱいを思う存分揉ませてくれる』って約束や!!」


 悪役感丸出しのゲスい笑みを浮かべている武光に対し、ナジミは涼しい顔だった。


「ああ、あれですか……良いでしょう」

「えっ、あの副隊長!?」


 ナジミは隣に座っていたクレナの手をとると、自分の胸に当てた。


「はい、これで約束は果たしました」

「は……はぁぁぁっ!?」

「よーく思い返してください。私、揉ませてあげるって言いましたっけ?」


 武光はよーく思い返してみた。そして……


「……………………あっ!? 言うてへん!!」


 右手で思わず目元を覆ってしまった武光を見て、ナジミはドヤ顔をキメた。


「ふっふーん、どうやら私の方が一枚上手だったようですね……って、武光様……? あの……けっ、血涙けつるいィィィィィッ!?」

「お前……お前それはあんまりな仕打ちやろ……!!」

「そんなに!? そんなにですかっ!? 血涙出ちゃうくらいなんですかっ!?」

「邪悪巫女ーっ!! 外道巫女ーっ!! デ○トロイア巫女ーっ!!」

「わ、分かりましたよ……じゃあ間を取って肩を……」

「お○ぱい!!」

「に、二の腕とか……」

「お○ぱい!!」

「クレナちゃん、よ……鎧の胸当て貸してくれないかな……?」

「鎧じゃなくてお○ぱい!!」

「れ、連呼しないでくださいよ!? と、とにかくまずは目の治療を……」


 そう言ってナジミは武光に近付くと、両目に手をかざしながら顔を近付け、周囲に聞こえないような小声でささやいた。


(宴が終わったら……私の部屋に来て下さい)


 と。それを聞いた武光が、目元にこっそり塗った真っ赤なソースを拭き取っていると……


「よ……よう、本体」

「お……おう、分身」


 オサナを連れて、影光がやってきた。


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