天照武刃団、壁に挑む


 262-①


「あ……あああああああああああああっ!?」


 あまりの激痛に影光は立っている事すら出来ずに地面に這いつくばった。


「痛だだだだだだだだだだだ!?」

「……うう……か……影光……」

「くっ……な、何だヨミ!?」

「……もう食べられないわ……むにゃむにゃ……ぐー」

「何を古典的な寝言言ってんだコラァァァ!? ぐ、ぐわああああああああっ!?」


 ヨミを始めとする四天王は、オサナの癒しの札を一度に大量に貼り付けてしまった為に、副作用で爆睡していた。


〔しっかりしろ、我が相棒よ!!〕

「ね……ネキリ・ナ・デギリ……っ!!」

〔これしきの苦痛、お前ならば耐えられる!! 我を初めて鞘から抜こうとした時の《審判のまじない》を思い出せ!!〕

「し、審判の呪い………………って、思い出したら更に痛ええええええええええええええええええええええええええええ!? ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」


 影光はとにかく耐えるしかなかった。だが、そのあまりの激痛によって本人も気付かない内に、妖月の効力は徐々に現れ始めていた。


 一方、フリード達は白の影魔獣への攻撃を続けていたが、未だ障壁の突破口を見出せずにいた。


「くっ……このっ!!」


 攻撃を躱しながら、ブラックキングナックルで見えない障壁を何度も殴り付けるが、その度に弾き返されてしまう。クレナ達も様々な角度から攻撃を仕掛けているが、依然障壁を突破出来ない。


「このままじゃ……うおっ!?」


 白の影魔獣が伸ばした右腕を、鞭のように横薙ぎに振るってきた。フリードはその攻撃を咄嗟にしゃがんで回避した。


(くそっ!! どこかに突破口は…………あっ!?)


 それを見つけた瞬間、フリードの脳裏には、武光に叩き込まれた《時代劇俳優の心得》が浮かんだ。


(時代劇俳優たる者……常に相手の動きに気を配り、周囲の状況に目を配れ!!)


 フリードは気付いた。正面、左右、背後、そして真上……いかなる方向からの攻撃も、白の影魔獣の障壁は寄せ付けない……だが、まだ一つだけ、試していない方向からの攻撃があった。


「アルジェ!! だ!!」

「……そうか!! おらに任せろ!!」


 アルジェが地神剣盾の剣部分を地面に突き刺した次の瞬間、白の影魔獣の足元から鋭く尖った岩が隆起し、白の影魔獣の脇腹を抉り取った。


 フリードが姿勢を低くした時に見つけたもの……それは白の影魔獣の足跡だった。地面に足跡が付くという事は……


 そして、フリードの読みは当たった。


 よろめく白の影魔獣に、周囲で浮遊していた雷導針が次々と突き刺さる。それを見た瞬間、フリードは一気に間合いを詰めた。今なら……障壁が消えている!!


「うおおおおおおおっ!!」


 ブラックキングナックルが、白の影魔獣の顔面にめり込んだ。


「防げるもんならぁぁぁ……」


 右足を強く踏み込みながら、右の拳に力を込める。


「防いでみやがれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 雄叫びと共に、フリードは全力で拳を振り抜いた。


 首から上をもぎ取られながら、白の影魔獣が激しく後方に吹っ飛んだ。


「行くよ、ミーナ、キクちゃん!!」

「ああ!!」

「はいっ!!」


 以心伝心、フリードが追撃の指示を出すまでもなく、すかさずクレナとミナハが白の影魔獣に突進し、キクチナが援護の雷導針を放つ。

 だが、クレナとミナハは敵の手前で弾き返され、キクチナの雷導針も空中で停止してしまった。


「野郎……っ!! また障壁を……!!」


 立ち上がった白の影魔獣は損傷した頭部と脇腹を再生させながら、僅かに地面から浮いた。おそらく真下にも障壁を張ったのだ。

 フリードの予想通り、アルジェが再び真下からの攻撃を試みたが、見事に防がれてしまった。反撃は無い、安全な障壁の内側で、損傷箇所の再生に注力しているようだ。


 もはや敵に死角は存在しない。フリードは思わず諦めかけたが、ふいに武光との何気ない会話を思い出した。


「ふふ……そうだよな、アニキ!!」

「どうしたのフー君!?」

「最後の一手を思い付いた!! これでダメなら俺達にはもうどうしようも無ぇ!!」

「最後の一手って……一体何をするつもりなの!?」


 フリードは力強く答えた。


「お前らの武器を……俺に貸せ!!」

「……分かったよ、フー君!!」

「お前の策に賭けよう、フリード!!」

「た、頼みます……フリードさん!!」

「よぐわかんねぇけんども……ぶちかましてやれ!!」

「ああ、行くぜ黒王!!」


 フリードの右手の黒王がクレナ達の武器を次々と取り込み、フリードの右肘から先は、頭頂部に黄金の一本角を持った荒々しくも神々しい黒竜の頭部へと変貌を遂げた。


「フー君!? これって……!?」

「ああ、これぞ皆の力を一つにした……《ブラックキングナックル・超友情合体スペシャル》だ……!!」


 いつ、どこで、どうしてそうなったのかもハッキリ覚えていない、『やっぱ合体は男のロマンやな!!』『ろまんって言葉は知らないけど……良いよね、合体!! 燃えるよね、合体!!』という、取るに足らない些細な会話……そして、その取るに足らない些細な会話が、フリードに最後の一手をもたらした。


「さぁ、覚悟しやがれ……」


 フリードが見据みすえる先には、頭部の再生を完了しようとしている白の影魔獣がいる。


 フリードは、腰を低く落とすと、猛然と駆け出した。


「喰らえぇぇぇぇぇっ!!」


 繰り出した拳が障壁と衝突したが、フリードは弾き飛ばされない、むしろどんどん前進してゆく。

 白の影魔獣が両の掌をフリードの方へ向けた。障壁の圧が強まり、フリードの前進が止まる。


「ぐうっ……これ以上進めねぇ……っ」


 フリードは弾き飛ばされそうになったが……


「「「「……まだまだっ!!」」」」


 クレナ達が、弾き飛ばされそうになるフリードの背中を支えた。

 フリード達は文字通り一丸となって、再び前進を始めた。

 一歩進むごとに強さを増す障壁の圧力に耐えながら、フリード達は一歩、また一歩と前進する。


「ナメんなよ……!! 俺達ゃ……無敵の……っっっ!!」


 フリードが、クレナが、ミナハが、キクチナが、そしてアルジェが腹の底から叫びを上げた。



「「「「「天照武刃団だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」



 前進を阻む圧が消えた。天照武刃団の意地と団結が、ついに障壁をブチ抜いたのだ。



「「「「「行けぇぇぇぇぇっ!!」」」」」



 ブラックキングナックル・超友情合体スペシャルの黄金の角が、白の影魔獣の胸を貫いた!!



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