出撃の日、迫る(後編)
250-①
クレナ達がミトに呼び出しを受けていた頃、ナジミはオサナの部屋の前に来ていた。
ナジミは、緊張の面持ちで息を整えると、意を決してドアをノックした。
「オサナさん、ナジミです。お邪魔させて頂いてもよろしいですか?」
「邪魔するんやったら帰ってー」
「え、えっと……その……」
ナジミが戸惑っていると、オサナがドアを開けた。
「いやいやいや!? そこはノリツッコミする所やん!!」
「は、はぁ……」
「よう来たな、入って!!」
オサナは嬉しそうに、ナジミを部屋に招き入れた。
「ごめんやけど、作業しながらでええかな?」
そう言ってオサナは机の上を指差した。机の上には大量の紙や、薬品らしき物が置かれている。
「ウチの癒しの力を込めた『オサナちゃん印の癒しの御札!!』を作ってたところやってん。今度の戦いはきっと、シャレならんくらい我人続出やろうから……一枚でも多く作っときたいねん」
「わ、私も手伝います!!」
「ホンマに!? 助かるわ!!」
二人は並んで、部屋の中央に置かれた四角い作業机で作業を始めたのだが……
「うーん……アンタ不器用なんやなー。こっちの紙は真っ直ぐ切れてへんし、こっちは繋がったまんまやし……」
「ご、ごめんなさい……」
「紙を切るのはもうええから、あそこの棚に置いてある
「分かりました、あの棚に置いてある
棚に保管されていた材料を見たナジミは腰を抜かしてしまった。
「ど、どないしたん!?」
「ななななななな何ですかあれは!? ぐねぐねしてます!! うねうねしてます!!」
「フッ……『優しさ』……かな?」
「や、優しさっ!?」
「癒しの御札の半分は『優しさ』で出来ています……って、泣かんでもええやんか!? ごめんごめん、ああいうの苦手やったんやな」
オサナはナジミ再び席に座らせ、自分も座った。
「ところで……今日は何の用事で来たん?」
「オサナさんにどうしても聞いておきたい事があって……!!」
ナジミに真剣な眼差しを向けられたオサナは思わず息を呑んだ。
「な、何? あっ、もしかしてウチみたいにお○ぱい大きくなる為の方法とか──」
「オサナさんは……もしかして私のお姉さんなのではないのですか!?」
「ぶほぁっ!? ゲホッゴホッ!!」
会心の質問!!
オサナは めっちゃむせた!!
「ハァ!? ななななな何を根拠に!?」
「オサナさんと出会ってから、思い出した事があります……私がまだ幼い頃、私の服や巫女修行の道具や日用品には、見た事も無いような不思議な文字が書いてありました」
「ふ、ふーん……それが?」
「三年前……武光様と出会ったあの日、私は魔王シンを討伐する勇者を連れて来る為に異界渡りの書を使って武光様の世界へ渡ったのですが、その時に、異界渡りの書の力によって、武光様の世界の言葉や文字が理解できるようになりました」
ナジミは手元にあった、癒しの御札に使う為の紙に筆で文字を書いた。そこにはアナザワルド王国で使われている文字ではなく、日本のひらがなで
『おさな』
と書かれていた。
「これがその不思議な文字です。これは武光様の故郷の文字で……『オサナ』と書いてあります」
「そそそそそそんなん偶然やろ?」
「私達は顔立ちもとてもよく似ています、それにあの魔狼族の男性は、顔だけでなく匂いまでよく似ていると……」
「あっ……そ、そう言えば、ガロウさん鼻詰まりやったかも」
「それに影光さんや私にかけた技……あれは我が一族に受け継がれてきた『48の退魔技』でした」
「知らん!! ぜぜぜ全然違う技やし!?」
「……私はオサナさんに48の退魔技を見せていないはずです。何故あの技が48の退魔技と全然違うと分かるのです?」
「うっ……」
「そして何より……」
ナジミはオサナの手を取った。
「癒しの力……この力はアスタトの巫女に代々受け継がれてきた力です……」
オサナが何か言おうとしたその時、竜人族の男が大慌てで部屋に転がり込んできた。
「オサナさん、今すぐ来て下さい!! マナ様の部屋へと続く廊下で影光さん達が乱闘騒ぎを起こしてます!!」
「は……はぁぁぁぁぁっ!?」
250-②
オサナとナジミが慌ててマナの部屋へと続く廊下までやってくると、多くの魔族達と睨み合う影光の姿があった。
廊下には乱闘でブチのめされたと
オサナとナジミの視線の先で、影光が声を張り上げる。
「ハァ……ハァ……テメェら!! いい加減にしろコノヤロー!! マナは今……
叫びを上げた影光に対し、魔族達の中からキサイとレムのすけが進み出た。
「退いて下さい影光さん、僕の計算だと、今愛の告白をすれば九割の確率で成功するハズなんです!!」
「キサイ、計算間違ってるぞソレ!!」
「グォグ……ゴアッッ……ガグォグ……グゴゴ!!」
「レムのすけ、それだとマナは何言われてるのか理解出来ねぇって!!」
「とにかく行かせて下さい!!」
集まった魔族達もそうだそうだと声を上げる。
「わざわざ決戦前に心に傷を負いに行くんじゃねぇーーーーーっ!? 今!! この場に!! アイツがいない時点でお前らにチャンスは無ぇ!! マナは
だったら尚の事阻止しなけりゃダメじゃねーかといきり立つ魔族達が、廊下の真ん中で仁王立ちしている影光を強引に突破しようと突撃した。
そして再び始まった大乱闘を前に、ナジミは慌てた。
「あわわわわ……大変です!! どうしましょうオサナさ──」
ナジミがオサナを見ると、オサナの両肩はプルプルと震えていた。
「この忙しい時に……仕事増やすなアホーーーーーーーーーっ!!」
怒り狂うオサナは暴れる馬鹿共の中に乱入し、殴り、蹴り、ぶん投げ、関節技を極め、暴徒を次々と鎮圧し、そして残るは影光一人となった。
「ま、待てオサナ!! 俺はマナとコイツら自身の為に……」
「問答無用、喧嘩両成敗じゃーーー!! ナジミ、ちょっと耳貸し!!」
「は、ハイ!! はい……はい……あっ、それ私、武光様に教えてもらった事あります!! はい……わ、分かりました……!!」
オサナはナジミを影光の背後に回らせると左腕を水平に伸ばし、
「行くでナジミ!! 巫女パワー……プラスっ!!」
「は……ハイ!! み、巫女ぱわー(?)……まいなすっ!!」
駆け出したオサナを見て、ナジミもオサナと同様、左腕を水平に伸ばして駆け出した。
「クロスッッッ!!」
「ぼんばーーーーー!!」
「うげぇっ!?」
オサナとナジミによる息のピッタリ合った前後からのラリアットが影光に炸裂した。
影光達は 全滅した……
「はぁ……はぁ……全員反省しろアホっ!!」
「オサナさん!!」
肩で息をしていたオサナの両手をナジミはしっかりと握った。
「は、はい!?」
「オサナさん……今の一撃で確信しました!! やはり貴女は私の姉さんです、私には分かります!!」
「い、いや……」
「え? 姉さんは嫌なんですか、それじゃあ……お姉様ならどうです?」
「いや、そういう事やないねん!?」
「それなら、お姉ちゃん? ねぇね? 姉上? 姉貴? うーん、どれも捨て難いですねぇ」
「お……お姉ちゃんでお願いします……」
オサナは 諦めた!!
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