斬られ役、救助する
240-①
武光とリヴァルはすっかり様子が変わってしまったソウザン城内を探索していた。
壁や床、天井に至るまで至る所に、血管のように木の根や
ただ、武光の思い浮かべた有名アニメと違う所は、時折その根や蔦が武光達を取り込もうと襲いかかって来る事だ。
「武光殿!!」
「うおっ!? この……野郎っ!!」
〔右からも来るぞ武光!!〕
「チッ!!」
〔ご主人様!! 後ろからも!!〕
「な、何いっ!?」
武光は右足を踏み込んで、イットー・リョーダンで正面から伸びてきた木の根を真っ向から叩っ斬り、すぐさま右足を引いて体の向きを変えつつ、返す刀で右側面から伸びてきた蔦を逆袈裟に斬り飛ばし、休む間も無く今度は左足を大きく引いて身体を180 度反転させながら、伸びてきた蔦を袈裟懸けに “すん!!” と斬り落とした。
伸びて来た蔦を撃退した武光はイットー・リョーダンを鞘に納めた。
「あ、あかん……全然気ぃ休まれへんわ……囚われた人を探す前にまず安全地帯を確保せな体が保たん……」
「武光殿、そんな時間はありません!! 一刻も早く……」
リヴァルの言葉を武光は手で制した。
「……右の脇腹と左の
「えっ!?」
「このまま戦ってたら体が保たへんっていうのは俺だけやない、ヴァっさんもや。ヴァっさん……怪我しとるやろ?」
「い、いえ!! 私は大丈夫──」
「でやあっっっ!!」
「うっ!?」
武光はリヴァルの懐に飛び込むと同時に抜き打ちの構えを取った。抜きかけの刀身がリヴァルの右脇腹から僅か数cmで止められている。
「ヴァっさんがもし万全の状態やったら、例え虚を衝かれたとしてもこの程度の攻撃に反応出来へんはずないやろ」
「そ、そんな事は……」
「なぁヴァっさん……ちょっと会わんうちに俺の本職忘れたんかいな? 『斬られ役たる者、常に相手の動作に注意を払い、動きの癖を頭に叩き込むべし』ってな……ヴァっさんと比べたら、俺はハナクソ程度の強さかもしれんけど、俺の目は誤魔化されへん。俺は……プロの斬られ役やで?」
鋭い視線を前に、リヴァルは何も反論出来なかった。
「ええかヴァっさん、焦りは禁物や。俺の故郷にはこういう言葉がある『急がば回れ』『急いては事を仕損じる』『6を逆さにすると9になる』ってな!!」
「……分かりました武光殿」
その後、武光とリヴァルは一階の探索を進める中で、幸運にも食料貯蔵庫を発見した。
武光はイットー・リョーダンで、リヴァルは勇者のみが持つとされる光を操る力、《
「よっしゃ、ひとまず捜索拠点の確保は完了やな、俺は他に捕まった人おらんか探して来るから。俺とこれから助ける人らの為にも、ヴァっさんは死ぬ気で休む事!! ええな?」
「……分かりました」
そう言うと、武光は貯蔵庫を出た。
しばらく探索を続けていると、武光は、前方の床にキャンプで使う寝袋くらいの大きさの黒い
「何やアレ……?」
〔ご主人様……よく見たらアレ、ちょっと動いてないですか?〕
魔穿鉄剣に言われて、武光は謎の物体を凝視した。確かに魔穿鉄剣の言う通り、黒い繭はまるで呼吸をしているかのように僅かに膨らんだり縮んだりしている。
「まさか……あの中に人が!?」
〔いや、もしかしたら影魔獣が潜んでいるかもしれないぞ〕
「イットー、お前怖い事言うなや!?」
武光は、息を殺してそろりそろりと黒い繭に近付いた。
へっぴり腰になりつつも、イットー・リョーダンを持つ手を限界まで伸ばして、切っ先で表面を軽くなぞると、すぐさま猛ダッシュで黒い繭から離れて様子を
〔ご主人様、人の手ですよアレ!!〕
確かに、イットー・リョーダンでつけた切れ目からは人間の手のようなものが
〔すぐに助けよう、武光!!〕
「よ……よっしゃ!!」
武光は急いで黒い
武光は、中に入っていた中年男性を引きずり出すと、恐る恐る男性の口元に手をかざした。
「良かった……息はあるみたいやな」
〔こうしちゃいられない、片っ端からあの
「よっしゃ!!」
こうして、武光は十三人の救助に成功した。意識を取り戻した十三人はほとんどが街の住人だったが、この城の兵士が二人いたので、武光は彼らに住人を護衛しながら食料貯蔵庫へと向かうように指示し、更に探索を続けた。
そして、その後も武光は数時間に渡って城内を探索する中で、黒繭をいくつも発見し、必死に救助作業を続けていたのだが──
作業の最中、武光は突然背後から首筋に刃物を突きつけられた。
「動くな!!」
「な、何や!?」
武光は気付いていなかった……救助した者達の中に、暗黒教団の幹部である聖勇者と聖賢者がいた事に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます