隊員達、真実を知る


 236-①


 地神ラグドウンの放った『武光を抹殺する』という言葉に、ナジミ達は言葉を失った。


「そ、そんな!! 武光様を抹殺するなんて……一体どうして!?」


 取り乱すナジミに対し、ラグドウンは告げた。


「奴は神具である異界渡りの書を偽造し、我らの許しも無くこちらの世界に渡るという禁忌を犯した……死に値する大罪である」

「そんな!! 武光様は私達を救う為に──」

彼奴あやつの目的が何であろうと、目的は手段を正当化せぬ!!」


 ラグドウンの厳格な言葉にナジミは崩れ落ちた。


「ナジミよ、我々の前に唐観武光を差し出すのだ」


 ラグドウンはナジミに武光を引き渡すよう迫ったが……


「ふざけるんじゃねぇ、この神ヤロー!!」


 フリードがナジミと神々の前に立ちはだかった。


「フリード君!?」

「アニキは今はいねぇ!! だから代わりに俺が言う!! 姐さんを泣かす奴は俺が許さん!!」

「やめなさいフリード君!! 神々に対し──」

「知るかーーー!! 姐さんはそれで良いのかよ!? コイツら……アニキを抹殺するって言ってんだぞ!!」


 自分をキッと睨みつけてくるフリードを見て、ラグドウンは問うた。


「小僧、本気で神に刃向かおうというのか?」

「お、おうよ!! やってやらぁ!!」

「足が震えておるぞ、小僧。まるで生まれたての子鹿のようではないか」

「こっ……これは、主に下半身を中心とした武者震いだコノヤロー!! 良いからかかってこいやーーー!!」

「「「……ぷっ」」」


 へっぴり腰になりながらも、ラグドウンに啖呵を切ったフリードを見て残りの三柱は思わず噴き出した。


「な、何だ神ヤロー!!」

「ごめんね、ちょっとラグドウンの悪戯が過ぎたようだ」

「……は?」


 ドルトーネの言葉にフリードは呆気に取られた。


「ラグドウンのおっさんも無駄に雰囲気が重々しいからなぁ」

「ふふ、全然冗談に聞こえませんものね」

「許せ小僧……ほんの戯れだ」


 神々の言葉にフリード達はあんぐりと口を開けた。

 ナジミが恐る恐る神々に質問する。


「あ、あの……さっき仰られた『武光様が死に値する』というのは……?」


 神々は質問に答えた。


「うむ、確かに彼奴あやつのした事は、死に値する大罪だ」

「本来なら、問答無用で抹殺する所なのですけれど……」

「今回だけは特別に厳重注意で済ませてあげようと思ってね」

「ま……アイツには『魔王シンを倒してこの地に平穏をもたらした』って功績があるからな」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ神様!!」


 神々の言葉にフリードが待ったをかけた。


「何だ小僧?」

「アニキが『魔王を倒した男』ってどういう事なんだよ!?」

「魔王シンを倒したのはリヴァル=シューエン様でしょう!?」

「我々は魔王シンがリヴァル様によって討たれる所をこの目で見ています!!」

「そ、そうです!! た、確かにあの時……」

「んだ、おらも見ましただ!!」


 口々に質問するフリードや三人娘やアルジェの頬を風がふわりと撫でた。風神ドルトーネの溜め息である。


「何だいナジミ、彼らに真実を教えていなかったのかい?」

「それは、その……はい。武光様がそうしろと」


 フリード達は驚愕した。


「ちょっと待ってくれよ姐さん!? じゃあ三年前のあの日、空に映し出された勇者リヴァルと魔王シンの一騎討ちは!?」

「ふふ……あれは武光が魔王を倒した後に一芝居打ったのさ。君達、あの戦いをよく思い出してごらん」


 ドルトーネに言われて、フリード達は三年前の戦いを思い返した。


「「「「……………あっ」」」」


 フリードは気付いた。あの戦いの時、魔王が手にしていた剣が超聖剣イットー・リョーダンであったという事に。


 クレナは気付いた。あの戦いの時の魔王の動き……あの動きをつい最近まで叩き込まれていた事に。


 ミナハは気付いた。あの時の魔王の剣捌き、あの剣捌きに今まで何度も助けられた事に。


 キクチナは気付いた。あの戦いの場に存在して然るべきなのに、魔王が討たれるまで、不自然なまでに姿を見せなかった人物がいた事に。


「「「「ま……マジかーーーーーーーーーーーっ!?」」」」


 フリードと三人娘は思わず天に向かって叫んだ。そして、即座に輪になって話し合った。


「アニキじゃねぇか……!!」

「うん、あれは隊長だよ……!!」

「まさか隊長殿だったとは……!!」

「そ、そんな……た、武光隊長が……!!」

「武光様の意向とは言え、今まで黙っていてごめんなさい」


 唖然とする四人に、ナジミは頭を下げ、真実を語った。三年前、この国に戦乱を巻き起こした魔王シンの正体、最終決戦の結末、どうして芝居をする事になったのか、そして……どうしてそれを秘密にしていたのか。

 全てを知ってもなお、半ば放心状態のフリード達をよそに、ラグドウンはナジミに声をかけた。


「そういうわけで、今回は厳重注意に留めておいてやろう」


 神々の言葉に、ナジミはほっと胸を撫で下ろした。


「但し!! 今度やりやがったら……全身を焼いて!!」

「溺れさせて!!」

「吹き飛ばして!!」

「地中深く埋める!! 良いな、異論は認めぬ!!」

「は……はいぃぃぃぃっ!! ありがとうございますぅぅぅぅぅっ!!」


 ナジミは、神々がちょっと引くくらいの勢いで平伏した。


「所で肝心の奴はどこにおるのだ?」

「ラグドウン様、それが──」


 ナジミは神々に、武光が暗黒樹に囚われてしまった事を告げた。


「やれやれ……ともかく、事情は分かった。暗黒樹とやらを野放しには出来ぬが、さりとて、我々が下界の者に直接手を下す事は許されぬ。よって……お前達に我々の力を授けようぞ」

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