天驚魔刃団、離脱する
133-①
「しばらくの間、トポンツ砦を預かって下さい」
影光の唐突な提案にヴァンプは
「ヴァンプさん達も分かってはるでしょう? 暗黒教団の連中がこのまま進撃を続けて、目的を果たしたら……ヴァっさんは間違い無く殺されます」
影光に言われるまでもなく、ヴァンプ達もそれを
暗黒教団がリヴァルを生かしているのは、難攻不落の魔王城攻略にあたり、自分やキサン、ダントを戦力として戦わせる為だ。魔王城の攻略という目的を果たしたその時……奴らにリヴァルを生かしておく理由は……無い。
「だから……一進一退を演じて時間を稼ぎましょう」
「……何?」
「俺もキョウユウに近付く為には武功を立てなアカンし……俺達は他の砦を攻めている暗黒教団を襲撃して、進軍を少しでも遅らせます。しばらくしたら戻って来るので、そしたら上手い事やってこの砦をもう一度明け渡して下さい。トポンツ砦を奪うのが俺らが魔王軍に参陣する条件なんで」
「……ぬぅ」
ヴァンプは考えた。魔王城攻略に時間がかかれば、リヴァル救出の機会が巡ってくる可能性は上がる、それに、損害が増えれば、奴らはそれを穴埋めする為に本拠地から人手を割かなければならなくなる……そうなれば、監視にも穴が開きやすくなるはずだ。
そこから先はまだ考えつかないが、武光の言う通り、今はとにかく時間を稼ぐしか無いだろう。
「……うむ、良いだろう。ここからなら百鬼塞を攻撃している部隊が一番近い。背後を突いてやれ」
「助かります!! 助かるついでに……トポンツ砦の防備も強化しといてくれません?」
「……フッ、ちゃっかりしているな」
「お褒めに預かり恐悦至極……っとぉ!!」
影光はヴァンプに投げ飛ばされるフリをして距離を取ると、一目散に駆け出した。
「野郎共ーーーーーっ!! ずらかれーーーーーぃ!!」
「……キサン、武光の撤退を援護してやれ」
「はいはーい」
キサンは小さくなってゆく影光の背に視線を遣ると、右手に持った鉄扇を “パチン” と閉じて、天に向かって高々と掲げた。
「火術……ファイヤーボールレイン!!」
撤退する影光達を援護するべく、キサンは追撃するフリをして、再び戦場に火炎弾の雨を降らせた。
キサンの生み出した火球は、天驚魔刃団を包囲しようとしていた影魔獣達の頭上に降り注ぎ、包囲網に穴を開けた。そしてその包囲の
133-②
天驚魔刃団は何とか戦場から離脱し、トポンツ砦から少し離れた場所にある岩山に身を隠した。
「はぁ……はぁ……皆無事か?」
「ああ……何とかな」
「グググ……ゴァ」
「さ……流石に危なかったですね」
「もう無理、一歩も動けないわよ」
四天王、それにフォルトゥナと『ヨミ様を愛でる会』の三人も無事だったが、死闘に次ぐ死闘に全員傷だらけだった。
影光は仲間達を見回すと頭を下げた。
「全員よくやってくれた。おかげで上手く話はついた。本当にありが……痛っ!?」
影光はヨミに石をぶつけられた。
「ぜぇ……ぜぇ……そんなん良いから
「お、おう!!」
ヨミに言われて、影光は
只の札ではない。以前影光がリュウカクと拳で盛大に語り合った際に、オサナが使った癒しの力を込めた札である。
オサナは、ナジミ程の強い治癒能力を持っていない代わりに、『色々な物に癒しの力を込める』という事が出来た。この札の束は、オサナが魔王城に乗り込む影光の為にと、不眠不休で作って持たせた物なのだ。
天驚魔刃団の面々は我先にと《癒しの札》を受け取り、体中の傷口にベタベタと貼り付けていった。
「むぅ……こ、これは……!!」
「グォウ……ココチ……イイ……!!」
「ああ……傷が癒えてゆく……」
「き、気持ち良すぎて……なんだか……眠気が……」
「おい、ガロウ!? レムのすけ!? キサイ!? ヨミ!? しっかりしろ!!」
まるで糸の切れた操り人形の如くバタバタと倒れてゆく四天王を見て影光は慌てた。
「ふにゃ〜……団長……おやすみなさ……Zzz」
「ああヨミ様……Zzz」
「寝顔もお美し……Zzz」
「も、萌ぇ……Zzz」
「フォルトゥナ!? ドルォータ!? シンジャー!? ネッツレッツもか!?」
影光以外の全員がぶっ倒れてしまい、天驚魔刃団はもはや壊滅状態だった。
愕然とする影光だったが、ふと札の裏に何かが書いてあるのに気付いた。
「こ、これは……!!」
そこにはこう書かれていた。
『オサナちゃん印の癒しの
用法・用量
大人(15才以上)、1回1枚、1日3回を限度とし、なるべく空腹時を避けて利用してください。
効果・効能
切り傷・打撲・内臓損傷・骨折・頭痛・胸の痛み・解毒・熱・喉の痛み・鼻水・風邪・関節痛・筋肉痛・神経痛・腰痛・便秘・腹痛・歯痛・胃もたれ・胸焼け・捻挫・肩こり・虫刺され・動悸・息切れ・気つけ・恋の病(知らんけど)
成分
癒しの力とオサナちゃんの優しさが半分ずつ(笑)
注意事項
一度に大量に貼り付けると、強烈な睡魔に襲われて昏倒する恐れがあります。用法・用量を守って正しくお使い下さい』
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