第二回・殴り込み編

修道女(01)慌てる


 124-①


 勇者リヴァルの仲間達……『剛力無双の大豪傑』ヴァンプ=フトー、以前武光と共に旅をしていたリョエン=ボウシンの妹であり、『千能万才せんのうばんさいの天才術士』と称されるキサン=ボウシン、そして『方正謹厳の監査武官』ダント=バトリッチの三人は暗黒教団の信徒達を引き連れて、魔王城へ向け進軍していた。


「……チッ、俺達リヴァル戦士団が暗黒教団なんぞの言いなりとは……」


 全身を鋼の如き筋肉に覆われた壮年の大男、ヴァンプ=フトーは短く刈り込まれた黒髪を苛立たしげにガシガシといた。


「全くですよー、まー、相手が人間じゃないだけマシですけどねー」


 ウェーブがかった栗色のセミロングの髪を持つ、おっとりとした雰囲気の若い女性……キサン=ボウシンは小さく溜め息をいた。


「仕方ありません、リヴァルさんが人質に取られている以上、今は……従うしかありません」


 見るからに真面目で実直そうな雰囲気を持つ青年、ダント=バトリッチがくやしげにつぶやく。


「おうおう、お前ら何話してんだよ、ああん!? まさか裏切りの算段じゃねぇだろうな!?」


 ヒソヒソと会話していた三人の間に、小柄な少女が割り込んで来た。歳の頃は十五歳前後、銀色の髪をツインテールに束ねた少女は、サイズの合っていないブカブカの暗黒教団のコートを肩にかけ、左右の手に、束ねたムチを持っていた。

 自分達を激しく睨みつける少女に対し、キサンは妖艶な笑みを浮かべながら答えた。


「やだなー、 “いっちゃん” ったらー、ただの猥談わいだんですよー、わ・い・だ・ん♪」

「「ブッ!?」」


 キサンの返答にヴァンプとダントはき、『いっちゃん』こと、シスターズ01《ゼロイチ》はド赤面して慌てた。


「いっちゃんも一緒にするー? 猥談」

「す、するかバカヤロー!! わ、猥談なんて……そんな、はしたない事──」

「ヴァンプさんは……やっぱりお◯ぱい大きい女性が好きなんですかー?」

「聞けやーーー!? 敵の砦は目前なんだぞ!? そんなんで勝てるのかよ!?」


 顔を真っ赤にして怒る01に対して、キサンは涼しい顔で答えた。


「さぁ、どうでしょうかねー? リヴァルさんがいればすぐにでも片付けられるんですけどねー? ちょっとリヴァルさんをここまで連れて来てくれませんかー?」

「よ……よーし、分かった……って、あっぶねぇーーー!? その手には乗ら──」

「ダントさんもやっぱりお◯ぱい大きい方が良いんですかー?」

「いや、だから聞けやーーー!? お前ら分かってんのか!? 勇者リヴァルの命は私達の手の中なんだぞ!? 次の砦も死ぬ気で戦って、とっとと陥落させねぇと──」

「いっちゃーん、ヴァンプさんもダントさんも巨乳好きなんですってー」

「し、知るかーーー!! うぐぐ……もう知らん!! テメェらなんざ魔族にられちまえバーカ!!」


 01は足取り荒くキサン達の前から立ち去ってしまった。


「ふっふっふー、撃退成功ですー」


 えっへんと言わんばかりに自慢気に胸を張るキサンに、ヴァンプはあきれたように言った。


「……お前な、それにしたって猥談わいだんは無いだろ、猥談わいだんは」

「いや、でも……確かに効果はありました、影魔獣にも羞恥しゅうち心の概念があるという事なのか……?」


 キサンのらしを大真面目おおまじめに分析しようとするダントを見て、苦笑するヴァンプだったが……


「お、お前らーーーーー!! たたた大変だーーーーー!!」


 立ち去ったはずの01が大慌てでヴァンプ達のもとに戻って来た。


「そんなに慌てて、どうしたんですかー?」


 キサンに聞かれて01は答えた。



「さ、さっき伝令が来て……こないだ私達が奪ったトポンツ砦が、天驚魔刃団とかいう連中に奪い返されたらしい!!」

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