隊員達、因縁に挑む(前編)


 115-①


 フリード達の前に、暗黒教団の『聖剣士』インサン=マリートが現れた。


 ちなみに、このインサンは影光に斬り捨てられて消滅したインサン=マリートとは別個体であり、影光に斬られる数日前に、インサン=マリートの記憶を読みとらせてあった《操影刀・黒蟲》を使って作られた、言わば複製品なのだが、フリード達がそれを知るよしも無い。


 影光はシルエッタをおちょくる為に、『量産型だからオリジナルより弱い』だの『再生怪人だから大幅に弱体化してる』だのと散々にこきろしていたが、実際の所の戦闘力は、元のインサンと遜色そんしょく無いと言っても差し支え無い。


「ククク……お前ら、ミト姫と一緒にいたガキ共じゃねぇか。俺様は……一度狙った獲物は絶対に逃さねぇ!!」


 インサンは、影光に強奪された影醒刃シャドーセーバーの代わりに、護拳の部分に斧の刃が取り付けられたドッシリと重量感のある片刃の湾刀わんとうを構えた。


「良い事教えてやるぜガキ共……この剣はなぁ、あの光の勇者リヴァル=シューエンが、聖剣を手にする前に愛用していた剣なのさ。ああ……見れば見るほど素晴らしい輝きだ……光栄に思えよお前ら、お前らがこの俺様の新たなる剣、《獅子王鋼牙ししおうこうが》の最初の犠牲者だ!!」

「気を付けろ皆……!! どうした!?」


 フリードは隣に立つクレナ達に注意をうながしたが、返事が無い。前方を警戒しつつ左右に視線をチラリとると、クレナ達は小さく震えていた。


「フー君……ど、どうしよう!?」

「くっ、隊長殿がいないのに……!!」

「こ、怖い……怖いです……」


 三人共、ミトの戦災地慰労の旅に同行した際、聖剣士インサンに襲撃され、命からがら逃げ出したのだ。その時に心に深く刻まれた恐怖が、クレナ達の身をすくませていた。


 怯えるクレナ達を見て、インサンがニヤリと笑う。


「ククク……良いねぇ、恐怖に怯えるその表情。斬り甲斐がある!!」

「ひっ!?」

「馬鹿野郎っっっ!!」


 ジリジリと間合いを詰めるインサンに気圧されて、後退あとずさりするクレナ達をフリードが一喝いっかつした。


「お前らそれでも…………ち◯ちん付いてんのかコノヤローーー!!」

「つ……付いてないよ!?」

「あるか馬鹿!!」

「そ、そうですよ!!」

「あー……そうだな……お前ら女だもんな、付いてないよな……と、とにかくエネムさんを守るんだ!!」

「で、でもフー君、相手は……あのインサン=マリートなんだよ!?」


 フリードはクレナ達を鼻で笑った。


「ヘッ……ビビってんじゃねぇよ、あんな奴……残虐ぶっても所詮しょせんはアニキと姫様にボコられて、ウ◯コ漏らして泣きながら逃げ出したカスじゃねーか!!」

「何だとこのガキィ……!!」

「俺達はあの時の俺達じゃない……今度、姫様に会った時に自慢してやろーぜ、強くなって、あの百人殺しのインサン=マリートをブッ飛ばしてやったってな!!」


 フリードの励ましに、三人娘は力強く頷いた。


「分かったよ……やろう、フー君!!」

「ああ、やろう!!」

「そ、そうですね……!!」

「よーし、行くぞ皆!! ねえさんはエネムさんを!!」


 ナジミはフリードの言葉に頷いた。


「分かりました!! 四人共、気を付けるのよ!!」

「任せろねえさん!! 行くぜ皆!!」

「うんっ!!」

「ああ!!」

「い、行きましょう!!」


「斬り刻んでやるよ……クソガキ共がぁぁぁぁぁっ!!」


 フリード達は、因縁いんねんの相手、インサン=マリートに向かって突撃した。


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