勇者、激昂する


 111-①


「ふぇ……フェイアーーーーーっ!!」


 溢れ出る鮮血が少女の胸を染めてゆく。リヴァルの叫びも虚しく、救いを求めるように伸ばされた手は、力無くダラリと垂れ下がった。


「フン……」


 教皇は、まるでゴミでも投げ捨てるかのように、フェイアの身体をわきに押しのけた。


「どうだ? これで落ち着いて私の話を聞く気に──」

「黙れ……!!」

「何……!?」


 リヴァルは腹の底から絞り出すように言った。


「フェイアに何の罪があった……フェイアに何のとががあった……!! 私は……お前を……絶対に許さない!!」


 リヴァルの手枷に小さな亀裂が入った。その小さな亀裂はどんどん広がってゆく。


「馬鹿な……封印の手枷てかせが……!?」

「うおおおおおっ!!」


 リヴァルの手枷が粉々に砕け散った。自由になった両腕に神々しい光が宿る。


「き、貴様……!!」

「言い訳は聞かない……!! 地獄でフェイアに……お前が苦しめた人々に詫びるがいい!! 光術ッッッ……」


 リヴァルは、両腕を交差させ、三年前に武光と共に編み出した自身最大最強の光術を放った。


「キラレウム……光線ッッッ!!」


 放たれた光の奔流は教皇の肉体を一瞬で消し飛ばした。


「ハアッ……ハアッ…………フェイア!! フェイアーーーーーっ!!」


 リヴァルは、倒れ伏しているフェイアに駆け寄った。


「ああ……そんな……フェイア……」


 物言わぬフェイアの身体を抱き起こし、悲嘆に暮れるリヴァルだったが……


「フフフ……良くやってくれましたね、勇者様♪」


 突如としてフェイアが目を開けた。


「なっ!? フェイア…………!?」


 唖然とするリヴァルをよそに、フェイアと……そして、教皇の立っていた場所から一体の人型影魔獣が立ち上がった。


「影魔獣!? フェイア危険だ、離れるんだ!!」


 リヴァルはフェイアに影魔獣から離れるように言ったのだが、フェイアはリヴァルを無視して影魔獣に近付くと、ニコリと微笑みかけた。刺されたはずの傷口も塞がっている。


「いかがです教皇陛下? 新たな目覚めのお気分は?」


 フェイアに『教皇陛下』と呼ばれた影魔獣は、自身の肉体の感触を確かめるように、拳を握ったり開いたりすると、言葉を発した。


「素晴らしい……素晴らしいぞ!! これが……これが永遠不滅の究極の肉体か!!」

「フフフ……《転生の儀》のご成功、心より祝福致します♪」

「どういう事なんだフェイア!? これは一体……!?」


 やれやれ、と言わんばかりに、フェイアは両肩をすくめた。


「ホント鈍いわねぇ、勇者様ったら。全ては《転生の儀》を成功させる為なんですよ♪」

「フェイア……君は何を言ってるんだ!?」

「私達暗黒教団にとって最大の障害である勇者様が、どうして今の今まで生かされてたと思います? それはね……究極の影魔獣を生み出す為なんです♪」

「究極の影魔獣を生み出す……!? 何故それに私が必要なのだ!?」

「知ってる勇者様? 影ってのは、当たる光が強ければ強いほど、まぶしければまぶしいほど、それによって生まれる影は、深く、暗く、そして真っ黒になるの。そしてその真の影を生み出すには、ちょっとやそっとの光じゃダメなの、それはこの城中の光源を集めても、聖女様ですら生み出す事は出来なかった……」

「それで、私の光の力が必要だったと言うのか……!!」


 フェイアはニコリと笑うと、一本の黒い小刀を取り出した。


「ふふふ、ご明察です勇者様♪ そうして生まれた究極の影魔獣に、この《操影刀・黒蟲改99式》を使って教皇陛下の御魂みたまをお移しし、永久不滅の存在へと転生して頂く……それこそが《転生の儀》の正体なのです♪」

「フェイア……君は一体……!?」


 フェイアはクルリとターンすると、スカートの端を掴んでお辞儀した。


「ふふふ、私は……聖女様にお仕えする《シスターズ》の一人!! 名前は……募集中ですッッッ!!」


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