天驚魔刃団、出立する(後編)


 99-①


 突入してきた連中を見て、ガロウとヨミは露骨に嫌な顔をした。


「話は聞かせてもらったわ……アタシもアンタ達と一緒に行く!!」


 フォルトゥナに勢いよく指を差されたガロウは、げんなりとした表情を見せた。


「いや、何でそうなる……」

「アタシとの決着を付ける前に殺られたら困るからね……アンタを倒すのはこのアタシだッッッ!!」

「全く……あれだけ叩きのめされておきながらよくそんな事が──」

「うるさい!! アタシは負けを認めてないッッッ!!」


 全身の毛を逆立てているフォルトゥナに対し、ガロウはなげやりに言った。


「そうか……じゃあ、お前の勝ちで良いぞ」

「ふ、ふざけんなーーー!!」

「ったく……」


 殴りかかってきたフォルトゥナの拳をガロウは避けなかった。


「ぐ、ぐわーーー!!」

「や……やった!!」


 顔面にパンチを喰らって倒れたガロウを見て、フォルトゥナはガッツポーズをとったが、その光景を見ていた影光は苦笑した。


「へっっったくそだなぁ、ガロウ……お前は斬られ役にはなれないな」

「なっ!?」

「影光バカお前、余計な事を……」

「なななっ!?」

「いや、どう見たって芝居だろー」


 驚くフォルトゥナに影光は笑いかけた。


「ば、馬鹿にして……もう怒った!! 絶対について行くから!!」

「おう、良いぞ!! ガロウの軍団に入れ!!」


 フォルトゥナの同行をあっさりと許可した影光にガロウは抗議した。


「待て影光!! 俺は認めんぞ!!」

「まぁまぁ、落ち着けよガロウ……フォルトゥナ」

「ん? 何?」

「ついて来ても良いが、条件が2つある」

「条件……?」

「戦闘中はガロウの命令に従う事、それから……ガロウを襲って良いのは三日に一度!!」

「いや、三日に一度も部下に襲われてたまるか!!」


 影光の提示した条件に、ガロウはツッコんだ。


「むむむ…………分かった」

「分かるな分かるな!! 猫娘……お前はここでジッとしていろ!!」

「……ふんっ!! よろしく皆さん♪」


 フォルトゥナは、ガロウを無視して、影光達と握手をして回った。


「ぷぷぷ……モテ期じゃないの? ワンコオヤジ」

「うるさい……小娘」


 ヨミにあおられたガロウは、苛立いらだたしげにそっぽを向いた。



 フォルトゥナが 仲間に加わった!



「か……影光氏、我々も是非同行させて下さい!!」


 フォルトゥナと一緒に部屋に入ってきた、竜人兵三人組だった。ノッポと小太りと小柄な竜人兵である。


「えーと、お前達は確か……ヨミの……」

「ドルォータ!!」

「シンジャー!!」

「ネッツレッツ!!」


「「「……我ら!! 『ヨミ様をでる会』ッッッ!!」」」


 三人組は高らかに名乗った。ちなみに、ノッポがドルォータ、小太りがシンジャー、小柄なのがネッツレッツである。


「影光氏!!」

「我々も是非!!」

「ヨミ様に同行させて下さい!!」

「おう、良──」

「待てコラ!!」


 三人に『良いぞ』言おうとした影光だったが、ヨミが影光の胸倉を掴んでそれを阻止した。


「影光、アンタまさかコイツらに同行を許可するつもりじゃないでしょうね!?」

「ん? ダメか?」

「絶っっっ対に嫌よ!! あんな根暗でナヨナヨしてて軟弱な連中!!」

「面白いと思うけどなー」

「影光氏、我々を是非お供に!!」

「待て、お前達!!」


 影光に同行を懇願する三人をリュウカクが制止した。


「お前達三人は、これといった特技があるわけでもなく、どれだけ訓練しても竜身化りゅうじんかすら出来ぬ落ちこぼれではないか。お前達のような半端はんぱ者が行っても影光殿の足を引っ張るだけだ、ここにいろ!!」


 そうだそうだと、ヨミもリュウカクに同調したが……


「ハァァァァァッ…………!!」


 三人の筋肉が膨れ上がり、体表が強固な鱗に覆われてゆく。それは紛れもない竜人族の持つ変身能力、《竜身化りゅうじんか》であった。

 三人の変化にリュウカクも驚きを隠せずにいる。


「お、お前達いつの間に……!? 私がどれだけ厳しく鍛えてもかすかな兆候ちょうこうすら見えなかったというのに……」


 デュフフ……と、ドルォータは不敵に笑い、言った。


「……竜身化には強い感情が必要不可欠……!!」


 グフフ……と、シンジャーがドルォータに続く。


「怒り・悲しみ・憎しみ・高揚感・責任感……発動のきっかけとなる感情は人によって千差万別、多種多様!! 我々は長らくその感情を見出せずにいました……しかし!!」


 ヌフフ……と、ネッツレッツもシンジャーの後に続く。


「ヨミ様のお陰で、我々は遂に、自分の内に眠る力を引き出す為の感情を見出したのです!!」

「な、何だそれは……!?」


 三人は、リュウカクの問いに胸を張って答えた!!


「「「この心臓の奥からフツフツと湧き上がる、熱く、甘酸っぱく、それでいて少し苦しいようなこの感情…………そう、これこそが『萌え』ッッッ!!」」」


「萌えだと……何だそれは!?」

「リュウカク将軍、我ら竜人族の言葉では表現しがたいこの気持ち……それを影光氏が氏の国の言葉で表現した言葉……それが『萌え』であります!!」


 三人の竜身化を見たリュウカクは、力強く頷いた。


「ううむ……良かろう!!」

「いや、良くねーわ!?」


 ヨミは即座にツッコんだ。


「安心して下さいヨミ殿、竜身化を引き出す程の強い気持ち……彼らの気持ちは本物です!!」

「いや、何ちょっと感動して涙目になってんだこのチンピラくそドラゴンが!! 本物とか偽物とか関係ないし!! あんなキモい連中……生理的に無理だって言ってんの!!」

「おお……!!」

「ヨミ様が……!!」

「我らに褒美を……!!」

「ヒィッ!?」


 恍惚こうこつの表情を浮かべる三人にヨミはドン引きした。そしてそんなヨミに影光が声をかけた。


「何だヨミ、お前、普段俺達の事を嬉々としてののしり倒してるじゃねーか。ののしっても、怒られたり嫌がられたりされないどころか、むしろ喜んでもらえるなら良いじゃねーか」

「ば、馬鹿言わないで!! 私は嫌がる相手を罵倒するのが好きなのであって、自分から罵倒されにくるようなキモい奴は断固拒否──」

「これからよろしくな!! ドルォータ、シンジャー、ネッツレッツ!!」

「聞けやコラーーーーー!?」


 ドルォータが 仲間に加わった!

 シンジャーが 仲間に加わった!

 ネッツレッツが 仲間に加わった!


「フフン……モテ期だな? 小娘」

「……うるさい、このワンコオヤジ」


 先程のお返しとばかりにガロウに煽られ、ヨミは盛大に舌打ちした。


「さてと……それじゃあ、ちょっと行って暗躍してくるわ!! オサナ、つばめとすずめを頼んだぞ?」

「どうせ……止めても行くんやんな?」

「おう……友達の為やからな」

「そこは、『カワイイ婚約者の為』やろ、もう!! 絶対……無事に帰って来てな?」

「おう、任せとけ!!」



 翌朝、新たな仲間を加えた天驚魔刃団は双竜塞を出発した。キョウユウ軍に潜入し、暗躍する為に!!


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