両雄、激突する(中編)
61-①
武光と影光、両者は工房の外の空き地で向かい合った。
両者の背後には天照武刃団と天驚魔刃団の面々が戦闘態勢を取っており、まさに一触即発だった。
武光は影光の背後の魔族達に視線をやった。
雰囲気で分かる。奴らは全員……かなりの
影光は武光の背後のナジミに視線をやった。
気配で分かる。自分の後ろの四天王共は……殺る気満々だ。乱戦になったら、ナジミを巻き込んでしまう。
少しの間の後、武光と影光は同時に叫んだ。
「……タイマンや、分身ッッッ!!」
「……タイマンだ、本体ッッッ!!」
武光と影光は互いの提案を聞いて大きく頷いた。
「良いぜ本体!! 妖月は勝った奴のモンだ!!」
「よっしゃ、分かった!!」
それを聞いた影光は、後ろに控えるガロウ達に叫んだ。
「お前ら聞いたな? 絶対に手ぇ出すなよ!!」
武光も、背後のナジミ達に叫んだ。
「皆、危ないから何があっても割り込んだらアカンぞ!! 行くで……イットー!!」
〔ああ!!〕
武光は、イットー・リョーダンを鞘から抜き放ち、影光は影醒刃の柄から漆黒の刀身を出現させた。
武光と影光は、互いに、刀を顔の右横で垂直に立てて《
両者の構えはまるで鏡写しのように寸分違わぬものだった。
そのまま睨み合っていた武光と影光だったが、十数秒の
二人が描く円の直径は少しずつ、しかし確実に小さくなってゆく……両者共に慎重に間合いを測っているのだ。
「……でやあああっ!!」
「……ウオオオオッ!!」
二人が動いた!!
両者共に示し合わせたかのように、互いに真っ向斬りを繰り出し、そして互いに相手の斬撃を躱し、交差する。
「くっ!?」
「チッ!!」
またしても鏡合わせだった。
互いに突進し、交差した瞬間に武光はイットー・リョーダンの刃を水平に返し、その場で右回りに回転して相手の背中を斬りつけようとしたが、影光は迫り来るイットー・リョーダンによる攻撃を、背中合わせのまま、左腕の前腕を立てて相手の前腕に当てる事で防ぎ止めた。
そして影光もまた、同様の方法で自身が繰り出した攻撃を同じように防御されていた。
……要は二人とも、刀を持った右腕は相手を斬ろうと水平に伸ばし、左腕は相手の攻撃を防ごうと、力こぶを作るように曲げた状態で背中越しに競り合っているという状態になった。
「ぐぬぬぬぬぬ!!」
「ヌオオオオオ!!」
二人は反動を付けて振り向きながら、またしても同時に右の袈裟斬りを繰り出した。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
“すん!!”
「クッ!?」
「でやあああああっ!!」
「チィッ!!」
間一髪、武光の薙ぎ払いを、影光は後方に大きく跳躍して回避した。
「へへっ……影醒刃をこうも易々とへし折るとは……流石は俺の相棒だ!!」
影光の言葉に、イットー・リョーダンが反応する。
〔違う、君は……僕の相棒じゃない!!〕
「……そうか。つい、な……悪ぃ」
〔影光……?〕
イットーは影光がほんの一瞬、悲しげな目をしたような気がしたが、影光は不敵な笑みを浮かべて、刀身の短くなった影醒刃を構えた。
「ふぅ……まさか、これくらいで勝ったとか思ってんじゃねぇだろうなテメェら!!」
影光は、折れた影醒刃の折れた部分を再び生成した。
「と、刀身が再生したやと!?」
〔注意しろ、武光!!〕
「ああ」
「行くぞ本体ッッッ!!」
「来いやぁぁぁっ!!」
再び、戦いが始まった。両者の戦いは激しさを増していくが、時間が経つにつれて、徐々に武光が押し始めた。
「あの影光さんが……押されている!?」
「グォッガ……!!」
キサイの呟きにレムのすけが答える。
「そうね、イワ男の言う通り、奴の剣はかなり厄介よ。どんな物でも “すん” と切断してしまう……あれじゃあ影光は、防御を封じられているようなものだわ」
ヨミの言う通り、両者の周囲には、切り飛ばされ、へし折られた影醒刃の刀身が幾本も地面に突き立っていた。
「……でも、どうやらそれだけではないようです」
「どういう事よガリ鬼?」
ヨミの問いに、キサイは冷静に答えた。
「もし仮に影光さんがあの男と同じ剣を使っていたとしても、苦戦は免れないでしょう。あの男は、影光さんの元となった人間だ。あの男は……地味に強い」
「……フン。何よ、あんな奴」
過去に二度、武光と刃を交えているヨミは、不満げにそっぽを向いた。
「うおおおおっ!!」
「グァァァッ!?」
影光は、影醒刃を握っていた右手首を斬り飛ばされてしまった。影醒刃が影光の側の地面に突き立つ。
「クッ……どうしてだ……どうしてこんなに差が出る!? 俺はお前の全ての記憶をそっくりそのまま引き継いでいるんだぞ!?」
武光は、ほんの一瞬、悲しげな表情を浮かべた後、答えた。
「確かに……お前は俺の記憶を持ってるのかもしれん、でもそれは『知っとる』っちゅうだけで、お前自身が積み上げてきたもんやない……俺は、頭にっっっ!! 体にっっっ!! 魂にっっっ!! 今までの戦いが刻み込まれとる!! 知っとるだけじゃ俺には勝てんッッッ!!」
「クッ……」
やはり偽物は本物には勝てないのか……ガクリと膝を着き、影光が思わず俯きかけたその時、静かに戦いを見守っていたガロウが吼えた。
「……諦めるなッッッ!! 前を見ろッッッ!! 限界を……超えろーーーーーッ!!」
「が、ガロウ!?」
「頑張れ影光、そいつを倒す事が出来たら、俺は……お前の仲間をやめる!!」
「はぁ!? ちょっ、ガロウお前何言って──」
「そいつを倒す事が出来たら……お前は晴れて『俺の
「へっ……言ってくれるぜ。だったら……何が何でも勝たねぇとな!!」
影光は消えかけた闘志を燃やし、再び立ち上がった。
「影光、奴は『お前自身が積み上げてきたものがない』などと抜かしていたが、それは大きな間違いだ……」
「ゴアッ!!」
「レムのすけさんの言う通りです!! 影光さん、貴方は我々一騎当千の猛者四人に勝利しています……それ
「ガリ鬼……アンタ、それ本気で言ってる……?」
「一分の隙も無い完璧な理論です!!」
「はぁぁぁぁぁ……ウチの野郎共は、揃いも揃ってバカばっかりか…………」
自信満々のキサイを見て、ヨミは盛大に溜め息を吐いた後……ポツリと言った。
「……一万三千よ」
「えっ?」
「……ワンコオヤジとイワ男とガリ鬼が一騎当千で、私の強さは一万人に匹敵するから、合わせて一万三千だって言ってんの!!」
ヨミは、影光に向かって叫んだ。
「影光、アンタ……私の許可も無く、私の大切な物を賭けて戦ってるんだから、負けたら承知しないわよ……!! 負けたら細切れに刻んで、鳥の
「おう……任せとけって!!」
影光は斬り飛ばされた右手首を再生させ、地面に突き立つ影醒刃を引き抜くと、もはや何本目か分からない刀身を生成し再び武光に突撃した。
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