斬られ役、迎撃する
19-①
「やぁぁぁっっっ!!」
「おっと!!」
ミトの鋭い水平斬りを回避し、大きく後方に跳躍して間合いを取ったインサンは、口の端を吊り上げ凶悪な笑みを浮かべると、ククク……と笑った。
「な……何が
「いや……ミト=アナザワルド、『剣の天才』という世間の評価……あながち誇張じゃねぇみたいだなぁ、えぇ!?」
「辻斬りなんかに褒められても嬉しくとも何ともないわよ!!」
「それに唐観武光……テメェも中々の腕だ……」
「ナメんなよ!! 言うとくけど俺はコイツにボロ勝ちして泣かせた事あんねんぞ!!」
それを聞いたミトはすかさず猛抗議した。
「ハァァァァァ!? 負けてないし!! 泣いてないし!!」
「いや、おもっくそ泣いてたやんけ!?」
「泣いてない!!」
「泣いてましたー!!」
「泣いてないもん!!」
「……ごちゃごちゃうるせぇぞテメェら!! 続きはあの世でやりな……!!」
インサンは、異様な構えをとった。
右手の剣を逆手に持ち変えて右肘を大きく引くと、それと同時に左腕を前に突き出し、重心を低く低く落として、つんのめってすっ転ばないのが不思議な程の前傾姿勢を取った……武光の世界で例えるならば、スタート直前のスピードスケートの選手の構えが近いだろうか。
「テメェらも……ガキ共も……アスタトの巫女も……一人残らず斬り刻んでやるぜ!!」
……インサンが動いた!! そう思った次の瞬間にはインサンはミトの眼前に迫っていた!!
「シャアアアアアッッッ!!」
「くっ!?」
横殴りに襲いかかってきた一撃をミトは辛うじて受けた。速い、そして……重い。
「ミトっっっ!!」
武光は、ミトと鍔迫り合いをしているインサンに真っ向から斬りかかったが、振り下ろした先にインサンの姿は無い。尋常ではない瞬発力で瞬時に武光の視界の外に出たのだ。
「後ろよっ!!」
「うおっ!?」
武光は咄嗟にしゃがんだ。頭上をインサンの剣が通り過ぎる。武光はすぐさま顔を上げたが、視界の中にインサンはいない。
……この男、人間の視界をよくよく把握している。そして死角に入り込み、見えない方向から襲って来る。
「……武光!!」
「……おう」
どちらから言い出すでもなく、武光とミトは互いに背中を向け合った。
「ミト、背中は任せたぞ……!!」
「貴方こそ……私の背中、ちゃんと守りなさいよ?」
「よっしゃ、任せ……うおっ!! 行ったぞ!!」
「見えてるわ!! くっ……行ったわよ!!」
武光とミトは互いに背中を預ける事で死角を減らしたが、それでもインサンの攻撃を凌ぐので精一杯だった。
「ククク……無駄だ無駄だ!! 所詮、テメェらのお上品な剣技じゃ、この俺は倒せ──」
“ばさぁぁぁっ!!”
「うおおっ!?」
武光は 砂を 投げつけた!
「ぐおっ!? め、目が!?」
「悪いな……お上品やなくて!!」
“ドゴォォォッ!!”
「ガハァァァッ!?」
一瞬の隙を突いて突進した武光がイットー・リョーダンの刃を返し、
「見たか!! これぞ地術……《砂かけババア》!!」
……この世界には、自然の力を操る《術》というものが存在する。火を操る火術、風を操る風術、水を操る水術、そして……土や岩を操る、地術。
ちなみに、武光の繰り出した《地術・砂かけババア》は、地術でもなんでもない、只の砂による目潰しである。
「ぐっ!? テ…テメェ……ふざけやがってぇぇぇっ!!」
「やかましいっっっ!! 覚悟しろこの野郎ッッッ!!」
武光はうつ伏せに倒れるインサン目掛けて、イットー・リョーダンを大上段に振りかぶった。
「ぐっ……クソがぁぁぁぁぁっ!!」
「なっ!?」
インサンは、聖女シルエッタがそうしたように、自分の真下に真っ黒な穴を作り出し、その中に消えた。
穴は瞬時に消え去り、イットーの切っ先は空を切った。
インサンは 逃げ出した!
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