痴漢王 異世界にて無双する
阿賀岡あすか
一章 VS盗賊編
第1話 痴漢王と呼ばれた男
20XX年。日本中の女性を恐怖のどん底に陥れた――『痴漢王』と呼ばれた男がいた。
ある日は電車。男は満員電車に乗り込むと、培われた観察眼で回りを見渡し――最も触り応えのありそうな若い女性に狙いを定める。
痴漢のためだけに鍛え上げた柔軟かつ強靭な肉体を駆使して、おしくらまんじゅう状態の電車内をまるで水中を泳ぐ人魚のような軽やかさで女性との距離をつめる。バランスを崩したフリをして女性の背後に回り、
とても肉眼では負えないような素早さで女性の腰辺りの服の隙間に手を突っ込み――マジシャンが何年も修行してやっと身につけることの出来る、まさに職人芸と呼ぶに値するほどの指先の器用さをもってコンマ一秒でブラを外し、音速を超えた速度でブラを服から引っ張り出す。
痴漢王奥義――『神隠し』である。そのあまりの素早いブラ外しに、被害者はブラを外されて取られたことに、全く気付かないと言う。まさに神業である。ちなみにパンツでも同様の事が可能であった。
ある日は夜道。男は監視カメラでもとらえ切れない程の神速で夜の住宅街を駆け抜け、残業帰りと思われるOLに狙い定める。
男は現代では失われたと思われた忍者走りでOLとの距離を詰め、『神隠し』でOLのブラとパンツを同時に奪う。
そしてお尻と胸をリズミカルに揉む。揉む。服の上から男が満足するまでひたすら揉む。まるで餅つき職人のごとく手際の良さでOLの乳を己の欲望の赴くままに揉み倒す。
当然、女性は驚愕の表情を浮かべた後、身の危険を感じ大声で助けを呼ぼうとする。OLは肺に空気をため込んで――が、しかし。
OLが叫ぶとほんの少し前に――痴漢王はあえて触れていなかった乳首をクリっとつねる。「ひぎぃっ!」と喘ぐOL。
すると予想外の快感と驚きで息がつまり、OLは体をくの字に曲げてゲホゲホとむせ返る。
熟年の経験によって培われた痴漢王奥義――『独裁スイッチ』である。相手の行動の少し前に乳首を抓ることで、相手の行動を完璧にコントロールすることのできる神業である。ちなみにコントールできるのはほんの一時的なため、独裁スイッチを使った後は全力で逃亡するようだ。
その他にも様々な奥義を駆使して痴漢王は痴漢を繰り返し、いつしか日本人なら知らない人がいない程有名になってしまっていた。たった一人の連続痴漢魔の存在が日本の防犯意識を高めた事により防犯ブザーは生産が追い付かない程売れ、女性が夜道を歩く際は男性が同伴するのが常識となった。皮肉にもそのおかげで年間の痴漢事件は減少したようであった。
数年にかけた研究により、痴漢王には痴漢するにあたっていくつかのルールがあることが分かった。
①痴漢王はどの痴漢も必ず単独で行う。
②痴漢は一日五回。
③同じ女性は絶対に狙わない。
④奪ったブラやパンツは絶対に盗まない(被害者の傍に置いてある場合が多い)。
⑤痴漢王の股間は用いない。あくまで女性の全身を揉みつくすだけである。
……意味不明ではあるが、全国の被害者は皆、全身触られる以上の事はされていないようだ。その上犯行時間は一分以内の場合が多く、被害者のほとんどは痴漢王の顔すらも見ていない場合が多かった。
被害者の数はゆうに一万人を超えており、警察は痴漢王特別対策課を作り全力で捜索したが――遂には男を捕まえる事は出来なかった。
しかし。
日本を絶望に突き落とした痴漢王はある日を境に――ピタリと犯罪を止めた。
否。
生まれる時代を間違えた忍者。必殺仕事人。日本の常識を変えた男。原動力は股間なのに股間を一切使わない男。セクハラを日課にする男。
世間でそのように呼ばれていた男は――
交通事故で死んでしまったのである。
痴漢をしようとした女性が轢かれそうになるのを庇って、男は飲酒運転していたトラックに轢かれてしまったのだ。
こうして、痴漢王の伝説は終わりを告げる――
筈だったが。
痴漢王――犬神明人は異世界に転生したのだった。
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