第六章 武術大会2
スーレの町から山道を回って、ヒュインテ街道に戻ってくるには、二日の行程を要した。本来ならスーレの町から橋を渡っていけば、次の町まで半日とかからないはずだったが、そればかりは仕方がない。セレイアへの道のりは、やはり決して平坦なものではないのだ。
「シューレンまでは、あの丘を越えたらすぐだ」
エディールが馬上から、こちらを振り向きざま言った。平地に戻ったユヒトたちは、再び馬上に跨り、先を急いでいた。少女の姿となったルーフェンはユヒトの馬の後ろのほうにちょこんと一緒に乗っている。体が軽いためか、ユヒトたちのようにしっかり手綱を握らなくてもうまいことバランスがとれるようだ。
「シューレンか。久しぶりだな」
ギムレが言った。
「行ったことあるんですか?」
「おう。あそこはいつもいろんな催しをしていて、賑やかなところだからな。各地から、旅行にやってくる旅人がたくさんいるんだ。なかでも一番の催しと言えば、武術大会だ。このシルフィアで腕に覚えのあるやつらが集まってきて、その腕を競い合う。それは大都市シューレンをあげてのお祭り騒ぎで、それはそれは賑やかなものだぞ」
「へー。それは楽しそうですね」
「そうだ。そして、そこで優勝したものには、惜しみない栄誉が与えられる。道場でも開けば、一生食いっぱぐれないくらいのな。なあ、エディール」
ギムレはそこで、前を走るエディールに声をかけた。するとエディールは、なにやら不機嫌そうにギムレを睨んだ。
「貴様。それはわたしに対する嫌みか?」
「嫌み? なにを馬鹿な。俺はお前の栄誉が無駄どころか汚点となって終わったなどとはひと言も……」
「ギムレ!」
エディールは突然腰の小剣を抜き、ギムレに向かって切っ先を当てた。
「エ、エディールさん?」
ユヒトは突然のことに驚き、慌てて仲裁に入った。
「やめてください! 仲間に向かって剣を抜くなんて、いくらなんでもやり過ぎですよ!」
「止めるなユヒト。こいつはわたしの暗黒の歴史をネタに、笑いものにしようとしているんだ。今日という今日は、こいつを切り刻んだ末、わたしの弓の的にしてくれる!」
「おうおう! やるか? そんな小さい過去にこだわるお前の性根、今日こそたたき直してくれるわ!」
ギムレはギムレで、さらにエディールを挑発する。ユヒトは二人の子供のような諍いに、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしてください!」
ユヒトは馬上から剣を抜き、睨み合う二人の間の地面に、思い切り突き立てた。ユヒトの怒りの一撃に、さすがの二人もばつが悪そうにおとなしくなった。
静かに元の隊列に戻った二人に、ユヒトは剣を鞘に戻しながら言った。
「それでいいんです」
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