自信を持つと人は顔が変わる

人は自信を持つと大人になってからも顔が変わる。

そう強く感じたのはある芸人の大きな変化を知ってからだ。


その人は南原清隆さん。説明不要なほど知名度はあると思うが、一応簡単に紹介すると、お笑いコンビ「ウッチャンナンチャン」の「ナンチャン」の方である。今はピンで活躍する事の多い二人だが、昔はコンビで活躍していた。その時、ナンチャンは失礼ではあるが顔がイマイチだった。


昔と言ってどれぐらい昔かと言うと、ウッチャンナンチャンのお二人とも独身でまだ若く(恐らく20代後半か30代始め)、二人の名前の入った看板番組をゴールデンタイムに持っていた人気絶頂の頃だったと思う。

「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」と言う二人がメインのバラエティー番組があり、筆者はリアルタイムで毎週鑑賞するのを楽しみにしていた。その頃、ウッチャンナンチャンのどちらが人気があったかと言えばウッチャンだろう。TVで見ていても、スタジオに出た時の観客からの歓声は明らかにウッチャンの方が多かった。またルックスは当時のウッチャンは大変格好良かった。当時のナンチャンは肌または体調が悪かったのか常に肌はニキビまみれで、またウッチャンがファンにキャーキャー言われたり何かで注目を浴びる度に分かりやすく表情がゆがんでいた。失礼ながらその嫉妬を見せた表情は素人から見ても格好良いと思えるものではなかった。翻ってウッチャンは表情に自信が満ち溢れ余計に格好よく見えた。実際学校でクラスメイト達とどちらが好きか話題になった時は満場一致でウッチャンだった。


番組内でも表情に限らず、ナンチャンはウッチャンが注目されている時にわざと突っかかるような言動が多かった。筆者は子供だった為二人がケンカしているのかネタなのか分からず何度もヒヤヒヤしたものだ。実際、ナンチャンの不満げな表情と態度はその後何年もそのままで、番組内のキャラとしても「素直なウッチャン」と「ひねくれたナンチャン」のような扱いになり、ずっと彼は「二番手」のキャラクターでいくのかと思われた。


その彼が明らかに変わったのは、番組内で「社交ダンス部」を作った頃からだ。普段運動神経はウッチャンの方が圧倒的に良く、番組内で運動系の企画は何をさせても彼は器用にこなし、ナンチャンよりも格上だった。しかし、社交ダンスはナンチャンと相性が良かったらしく、彼は練習を重ね大会に出る度めきめきと頭角を現した。ウッチャンも元々運動神経が良い為悪くはないのだが、素人がTV越しで見てもその実力の差は歴然としていた。ナンチャンの方が明らかに踊りが美しいのだ。実際、ナンチャンの方がその後大会でウッチャンより上位の成績を収め勝ち進み、社交ダンス企画で番組でクローズアップされるのはナンチャンの方が多くなった。

その頃からだ、番組で社交ダンスの回を重ねる毎にナンチャンの表情がどんどん晴れやかになってきた。運動神経では内村にかなわないと彼自身も思い込みがあったのかもしれない。内村に人気も運動神経も負けていると言う自負もあったのかもしれない。それが、ウッチャンに初めて勝てるものができた、と彼が自覚したのではないか。また、社交ダンス部の活動は視聴率が良かったのか、その後どんどん続編が出、大きな大会に至ってはそれだけで二時間の特番にするほど人気企画となった。それもナンチャンの表情に自信が現れた一つだったのではないだろうか。

また、社交ダンスと言う選択がさらに彼に幸運をもたらした。社交ダンスは姿勢や足運びの美しさに厳しいスポーツだ。ナンチャンは上達する度に姿勢や自然な動きが美しくなり、それがますます彼を輝かせた。

その後、社交ダンス部が一旦終了となった後、ナンチャンは番組の企画で能学部をする事になった。これは短い期間で終わったが、その能楽を学んだことで、ナンチャンに社交ダンス部で学んだ「動」の美しさの他に、能の「静」の美しさが備わった。この社交ダンスと能を学んだことで、ナンチャンの表情が明らかに変わった。社交ダンス部で自信を持ち、能で落ち着きを身に着けた彼はもう初期の頃の彼ではなかった。この時の彼の顔は肌の状態もいつの間にかよくなり、ウッチャンを見る度嫉妬に燃えていた目の光も消え、穏やかで自信に満ち溢れた本当に良い顔になっていた。

その自分で一度つかんだウッチャンを超えた実感は大きな自信となったのだろう、今はピンで活躍する彼の顔は自信をつけた時のまま、良い顔のままだ。ウッチャンは紅白司会を任されるなど彼の相方も負けず輝いているが、もうナンチャンに嫉妬の色は見えない。自分は自分と言う自信をあの社交ダンスの時に身に着けたのだと思う(実際今も趣味として社交ダンスは続けているらしい)。他人ながら本当に良かったと思うと共に、自信を持つと人の顔は大人でも充分変わるものだと実感した出来事だった。

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