新天地~女神の心⑥
「聞いてないフリをするつもりなら、最後まで騙しきりなさいよ」
金糸雀はやれやれという風に羽を大きく広げた。
……しまった。
私達の声を遮断していたわけではないのだから、声を上げれば金糸雀達には普通に聞こえるわけで……。
興奮し過ぎた私は聞こえないフリをするのも忘れて思い切り叫んでしまったのだ。
「ええと……」
「これは……その……」
彼方と抱き合ったまま周囲を見渡すと、金糸雀だけでなく、セイレーヌやアーロン、サイにカトリーナまでが私達を見ていた。
……うっ。気まずい。
「……普通に俺を無視すんなよ!?」
視界の端に大きな鏡が見えた気がしたが、多分気のせいだろう。見えない、私には見えていない。
「ひでぇー!」
あーあー、聞こえない。何も聞こえない。
「……和泉さん」
不意に彼方が私の袖を引いた。
「……うん。分かってるよ」
私は彼方の言いたい事の全てを聞かないまま、真面目な顔で大きく頷いた。
彼方の言いたい事は分かっている。
誰もがみんな不安そうな顔で私と彼方を見ている。……心配させてしまっている。
私達に知らせないままで秘密裏に対処するはずだった皆の好意を結果的に私達は無駄にしてしまった。
そんな私達が出来る事は……
「「……ごめんなさい」」
ただただ謝る事だ。
彼方と一緒に深々と頭を下げると、私の身体はふわりと柔らかくて温かい物に包み込まれた。
「聞いてしまったものは仕方ないわ」
私の頭の上からセイレーヌの声が降ってきた。
優しくて甘い香りと、押し付けられるこの柔らかい感触は……もしかしなくてもセイレーヌのうらやまけしからんお胸ですか!?
で、でも、私のお胸だってちゃんと成長したもん!彼方はまだ発展途上だけどさ!
「……シャル?」
彼方に笑顔で睨まれた。
……おふざけが過ぎました。ごめんなさい。
「お前達はいつも頑張っている。こんなにも健気な子供達を愛しいと思えど……存在を否定する事なんて思うはずがない」
柔らかい温もりの後には、がっしりとした力強い温もりに包み込まれた。
降ってきた声はアーロンのものだった。
私と彼方をセイレーヌが包み込み、その上から更にアーロンがセイレーヌごと私達全員を包み込んでいる状態だ。
幸福のサンドイッチや~。
……じゃないだろ、私。
「だから、何も心配する事はない」
アーロンは彼方の頭にポンと手を乗せた。
「貴方達に聖なる者と崇められている私達神族だっていがみ合って争ったりするのよ?……完璧な存在なんていないわ。だからこそ愛しいのだけど……」
セイレーヌは微笑みながら、回した腕に力を込めた。
「……私達に甘いなぁ」
思わず苦笑いを溢すと、彼方も私と同じ顔で笑った。
アーロンとセイレーヌは私達を全力でフォローしてくれているのだ。
優しくて、とても温かい、無償の愛を注いでくれる存在を人は――――
「お父さんとお母さんみたいだよね」
――――父と母と呼ぶ。
「うん。私も同じ事を思ってた」
彼方の言葉に私は大きく頷き返した。
「『お父さん』と」
「……『お母さん』?」
セイレーヌとアーロンはキョトンとした顔で互いを指差しながら見つめ合う。
「二人が私達のお父さんやお母さんに似てるっていうわけではなくて……何て言うのかな。ええと……」
「お父さんとお母さんの象徴……的な感じ?」
「そうそう!イメージそのものかな!」
いつも優しく見守ってくれるアーロンやセイレーヌ。
この世界や元々住んでいた地球はアーロンが創ったものなのだから、私達の第二の父や母と言っても過言ではない……よね?
だが、アーロン達はいつまでもキョトンとしたまま何故か反応を返してくれなかった。
「あ!でも、別に『お父さん』とか『お母さん』って呼びたいわけではなくて……!」
もしかして、気分を害してしまったのかと私は焦った。
「まだよく理解は出来ないけど、貴方達が嫌でないなら、そう呼んで良いのよ?」
二人は直ぐにふわりとした柔らかい笑みを浮かべながら私達を見下ろした。
そんな二人の様子を見ていると、じんわりと温かいものが胸に広がる。
……この暖かさは嫌じゃない。
「話が纏まったなら、本題に入るわよ?」
「え?あ、はい」
いつの間にか私から離れていた金糸雀は、サイの頭の上にいた。
そんなサイと金糸雀の横に立つ女神カトリーナは、私達を睨み付ける様にじっと見ていた。
……ええと、何だか分からないけど、怒らせた?
そう思った瞬間。
カトリーナが突然駆け出した。
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