新天地~魔王の心

〈サイside〉


「……あの竜はお前達神のせいで子を失ったのだ。一時でも同じ神であるお前を恨んでも仕方ないのではないか?」


そうカトリーナに問い掛けながら、この会話が主に聞かれている事にはすぐに気が付いた。


……全く。

私は内心で嘆息した。


『竜の子供を悪戯に神が殺した』

――そんな、神が犯した愚行。


【我が主であるシャルロッテと聖女彼方には聞かせない】

それは皆が納得して、心に決めた決定事項だった。


……なのに、どうして守ろうとしたはずの主は――主は、そんな私達の思惑を簡単に無かった事にしてしまうのだろうか。


主であるシャルロッテの考えてもいる事は、その心を読まずとも簡単に分かる。表情豊かなその顔に全て出ているからな。


もっと私が上手く誤魔化せば良かったのだろうが、魔力のほぼ全てを封印された状態で規格外の主を御するのはなかなか骨が折れる事なのだ。

主は意外と敏く、突拍子もない行動をしだす。……つまり、色んな意味で規格外。その行動には見当をし難い。

何度度肝を抜かれた事か……。

まあ、それが主の魅力であり、面白い所なのだか。


主は自分の知らぬところで起こる事を無視出来ない質だ。出来る限り知ろうとする。

……知らねばならぬと思っている。


『私が聞かなければならない』とか、『色々と気遣ってくれているサイ達には、本当に申し訳ないと思うが……聞かなければ後悔すると思う。知らないままで後から後悔するのだけは嫌だ』


――なんて、思っているに違いない。


易々と守られるだけの主だったなら私は楽だったのに……相変わらず守り甲斐のない主だ。


……いや、これこそが我が主なのだ。


何事にも目を背けない主。

悩み、傷付きながらも葛藤し、必死で抗いながらも前を向き進んで行く。


――なんと人間臭い事か。


だからこそ、愛しい。

私はそんな風に主がとても好ましく思っているのだ。


そんな主の影響を直に受けているのが、聖女彼方だ。


主と同郷の――主と同様に神々の抗争に巻き込まれた被害者。


彼方は随分と強くなった。

初めは何もかも諦めた様な、弱々しい少女だったのに。


主と一緒に神に復讐を果たし、真っ直ぐ前を向く様になった彼方は、輝かしい力を発揮する様にもなった。最近は益々力にも磨きが掛かったらしい。


この国の跡継ぎとの関係も良好らしいしな!


うむ、うむ。仲良き事は良い事だ。

このまま子孫繁栄に務めるがいい。

あの王太子は私にをくれる良い奴なので大切にするのだぞ。


……おっと、話が逸れた。


日々の努力を惜しまないからこそ、主と一緒に遮断した筈の私の声が彼方にも聞こえているのだ。

私が魔術を発動したのに合わせて直ぐ様に反応したのだ。


――主はまだ気付いていないが。



……やれやれ。

主同様に聖女も守り甲斐のない子供だ。


だが…………面白くも頼もしい。

主も聖女も、私が亡き後に愛しい子供達を支えてくれる事だろう。



だから、私はこのままカトリーナに向き合い、話し続ける事にする。


私は子供達を信じている。

主達ならどんな事も乗り越え、今後の糧にしてくれるだろう――――。

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