新天地~再びあの場所へ①
「んーーー!よく寝た!」
半身を起こした状態で、大きく伸びをした。
気分爽快!元気溌剌である!
「おはよー!」
ベッドの横に置かれたサイドボードの上、フワフワクッションの入った
「……むむっ。……もう、朝なのか……」
「まだ眠いのよぉ……」
二人共まだ相当眠いらしい様で、なかなか瞼が開けられずにいる。
目をショボショボさせながら、首だけを上げて私の方を向いている。
――朝昼晩それぞれの美味しいご飯を楽しみにしている二人にしては珍しい。
「私は起きるけど、二人はまだ眠っておく?」
昨夜は二人揃って夜更かしでもしていたのだろうか。
「主よ……すまないが……そうさせてもらおうか」
「私も……無理」
ふわぁぁと大きな
そんなに眠かったんだ……。
起こしたりして悪いことをしたかもしれないな。せめてこれ以上、邪魔しないようにしようっと。
音を立てたりしないように気を付けながら、そーっと寝室から忍び出た。
寝室を出た私は、寝間着を脱いで、昨日の内に用意されていたドレスに着替えを始めた。ドレスと言っても簡素な余所行き用の物なので、ほんのちょっとだけ豪華なワンピース程度である。
コルセットで締め付けたりもしないので、私だけでも着替えが可能だ。
コンコン
着替えを終えた頃に、部屋の扉が控え目に叩かれた。
入って来たのは髪結いをお願いしている侍女さんだ。
一人で着替えは出来るが……髪結いは苦手だったりする。
腰の辺りまで伸びた髪を自分自身でどうにかするのは、ハードルが高すぎた。
専属侍女であるマリアンナが有能なので、私が覚える必要もなかったのだが……。
いっそ自分で簡単に手入れが出来るくらいの長さまで切ってしまいたいが、この世界では女性の髪は『長くあるべき』論が普通だ。
『丁寧にブラッシングをして、カチューシャだけでも付ければ良いんじゃ……?』
――なんて単純な事だと思うなかれ。
そもそもブラッシングだけでも技量が必要なのだ。
私がした場合でも、『ああ、綺麗にしているのね』という一定の評価はもらえるが、マリアンナ達のような本職の侍女達の手にかかれば――『ふわっふわのサラサラ。艶やかな髪はまるで女神の如く輝き。その手は神の担い手』……と、まで称される程なのだ。……私には無理!
……ほらね?
髪は丁寧に編み込まれただけでなく、ルーズな部分とカッチリしている部分が絶妙なバランスを保っていて、ルーズな部分だって簡単に崩れたりなんかしないのだ。
この、後れ毛の出し方!これだけでもかなり印象が変わる!……やっぱり凄いなー。
今日のシンプルな装いに合わせて、大人っぽい仕上がりになっていた。
「ありがとうございま――」
お礼を言おうと鏡越しに侍女さんを見た私は――そのまま固まった。
「……どうかされましたか?」
「何でもありません。ありがとうございました」
侍女さんが心配そうに顔色を窺ってくるが、正直……それどころではなかった。
内心では心臓がバックンバックンと痛い位に大きく脈打っていたが、私は何事もなかったかの様に取り繕いながら笑った。
「いえ、これが私共の仕事ですので、お嬢様にお礼を言われる事ではありませんよ」
洗練された淑やかな動作で頭を下げた侍女さんは、微笑みを浮かべた後にそのまま部屋を出て行った。
ふう……。
無関係な侍女さんに気付かれなくて良かった……。
私は肩を落としながら、大きな、とても大きな溜息を吐いた。
「……どうしてココにいるのですか?」
私は鏡越しに、クラウンを睨み付けた。
***
『クラウン』とは――道化の鏡と言われる魔族であり、魔王サイオンの息子である。
金糸雀の血の繋がった弟でもあり、この世界を創った神アーロンの甥っ子でもある。
普段はアヴィ家内のお父様の書斎に住んでいる。お父様とは気が合うようで、今も二人で悩み相談をし合っているそうだ。
そのクラウンは私が苦手らしく、サイと金糸雀の二人が一緒にいるというのに、その中に混ざってはこない。もしかしたら、私がいない時を見計らって二人には会っているのかもしれないが……確かな事は私には分からない。
――何故ならば私もクラウンを苦手としているからだ。関わりたくないのだ。
真っ暗な空間に永遠に閉じ込められるなんて勘弁して欲しい。
「……で?どうしてココにいやがるのですか?」
私は両手を組みながらクラウンを見下ろした。身を縮こませたクラウンは行儀よく正座をしている。
先程までは少しだけ小振りな鏡に擬態していたクラウンは、少年の姿に変身していた。
ただの人型なのかと思いきゃ、これもクラウンの本当の姿だというから驚きである。
……この姿を見ればサイや金糸雀の面影が見える。他の部分は、私が見たことのない彼等の母に似ているのだろう。と、勝手に推測する。
「相変わらず、口が悪いぞ!」
「やかましい!相手はちゃんと選んでいます!」
「選んでんのかよ!」
……コイツは何を言っているのだろうか?
相手によって口調も態度も変えてしまうのが、社交じゃないか!
「そりゃあ、そうだろうけど……言い方!」
……おい、こら。勝手に人の心を読むんじゃない。
「す、好きで読んでねぇよ……。お前が分かりやすいのが悪い!」
「……お前?」
「ひ、ひぃぃっ!」
ジトリと睨み付けると、クラウンの身体がビクリと跳ねた。
……ふむ。分かればよろしい。
「それで、どうして竜の地にいるの?」
首を傾げた私をおずおずと見上げながらクラウンが口を開いた瞬間――
「ルーカスよ」
いつの間にか寝室から出て来た金糸雀が、私の元に羽ばたいてきた。
寝室の前には、後ろ足二本で立ったサイが、ドアノブに前足を乗せていた。
猫の姿なのに、サイは器用に扉の解放が出来るのだ。
「……お兄様?」
「ええ。『僕の代わりに一緒に行ける人をそっちに送るから、行くのはそれからにしてね?』って言ってたじゃない」
私の肩の上に乗った金糸雀は瞳を細めた。
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