新天地~脅かすもの➀

「実は……私は、普通の竜ではないのです」

妻であるリラさんと息子のレオを愛しそうに抱き締めながらラーゴさんは言った。


水色の腰辺りまでストレートに伸びた長い髪に、赤みがかった瞳と淡い緑色のオッドアイという、私が知る竜としては珍しい色味を持ったラーゴさん。


……色彩は違うが、ラーゴさんを見ているとミラの事を思い出す。


――ミラ・ボランジエール。

ボランジエール伯爵家の次男として誕生したミラは、一人だけ白銀色の髪と赤みがかった瞳を持って生まれた。所謂、だったのだ。肌は透ける様に白く、その肌を隠す為にどんなに暑くても長袖しか着ず、髪と瞳を隠す為にフードを目深に被っていた。

魔道具開発においての才能を持っているのにもかかわらず、ミラはアルビノだという本人にはどうにも出来ない理不尽な理由だけで、実の親兄弟から命を狙われ、殺されかけたのだ。

今はアヴィ家の養子に入り、同い年ではあるが私の大切な兄となった。

年々、シスコンぶりと腹黒さが増している気がするが……これは紛れもなくルーカスお兄様の影響によるものなのは間違いない。

純粋だったミラを返して……!

まあ、本人ミラが幸せなら良いけど……って、話が逸れた。


ラーゴさんの赤い片目と色素の薄さは、アルビノを思わせるのだ。


私はラーゴさんが言った『普通の竜ではない』という言葉の意味をそう捉えようとしたのだが――――。


「私はここの竜の血と……遙か彼方の遠方の地に存在する別の種族である竜の血を引いているのです」

ラーゴさんの言葉は、私の予想を軽く超えた。


「……え?」

ここの竜の血と…………遙か彼方の遠方の……別の竜?

そんなの……いるの?


「はい。その為に私の人型の容姿はリラ達とは違っているのです」

「……違う?」

私は、ラーゴさんとリラさん、レオを順番に見比べた。


今までラーゴさんの色彩ばかり気になって、彼の事を良く見ていなかったのだが……。

日本人的感覚で例えるならば、リラさんはまるっきりの西洋人で……ラーゴさんは西洋人の中に東洋人の面影があるとでも言えば良いだろうか。

ラーゴさんの顔立ちはアオザイが似合いそうである。

因みにレオは、東洋人感は薄い。リラさんにソックリなのだ。


……そうか。

ラーゴさんが言っている竜とは……東洋の『龍』の事なのかもしれないと私は思った。


西洋の竜がトカゲに羽が生えた様な容姿であるのとは違って、東洋の龍は蛇の様な容姿をしている。ラーゴさんの説明してくれた竜の姿は東洋の龍の姿を思わせた。

それならば別種族の竜だと言ってもおかしくはない。容姿の差違は明確なのだから。


ラーゴさんは『竜』と『龍』とのハーフなのだろうと、私はそう勝手に結論付けた。


「ラーゴさんのご両親は番だったのですか……?」

ラーゴさんが言った通りに、竜と龍は、普通ならばお互いが干渉する事のない遙か彼方の遠方の離れた場所で暮らしていると思ったからだ。

そんな両親はどうやって出会ったのだろうか?という素朴な疑問だった。


「はい。両親は番同士だったと聞いています」

「よく……出会えましたね?」

「二人はこれこそ運命だったと言っていました。別種族にも生まれてしまう番を見つけ出すのはとても困難です。タイミングが合わなければ出会わないまま命尽きる事も普通ですから」

竜達の言う『番』とは、生まれた時から決まっている唯一の相手の事であり、リカルド様と私との『番』とはまた違う。


リカルド様……獣人は、心から愛した相手を唯一の相手……『番』と定め、生涯その相手だけを愛するからだ。

稀に獣人の中にも、生まれた時から決まっているという運命の相手がいる場合があるらしいが――リカルド様が後者でなくて良かったと心から思う。

同じ世界にいるのにチャンスがないのは辛すぎる……。


あー、リカルド様の事を考えていたら、無性に彼に会いたくなってしまった。

モフモフでラブラブなイチャイチャをしたい……。

語彙力?私とリカルド様との愛の間に語彙力は要らないのだ!!

っと、いけない。また脱線してしまった。


「私の両親は住居を持たずに、世界中を飛び回る事が好きな竜でして……その途中で偶然にも出会ったそうです」

「なるほど。ラーゴさんの事は分かりましたが、レオの魔力の件がどうしてラーゴさんのせいになるのかが分からないのですが…………。何か関係でも……?」

「それは……」

私が口元に手を当てながら首を傾げると、ラーゴさんは困った様な顔でレオを見下ろした後に、そのまま視線を私に戻した。


「私が普通の竜ではないもう一つの理由のせいです」

ラーゴさんはそう言いながら片方の目を押さえた。

寄り添うリラさんの瞳は、いつの間にか涙で滲み、レオは悔しそうに唇を噛み締めていた。


「私は、呪いを受けた存在なのです」


……『呪い』。

新たに出て来た不穏な言葉に、私は絶句したまま思わず瞳を見開いた。



――ラーゴさんが押さえている瞳は

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