神を起こす方法➂
私が考えた神を起こす方法の第一案は、アーロンの周りでみんなでこうして楽しく話ながら、お酒を飲んだり、美味しい料理を食べたりする事だ。
作戦名は『天岩戸大作戦!!』である。
眠っているアーロンが、楽しそうな雰囲気に触発されて目覚めないかなーと。
勿論、これ以上、神力を使わない為に眠らされているアーロンだ。
自然に目覚める事は難しいかもしれないが……こうしたお酒の席には酒精が訪れ、失った精気を与えてくれるとセイレーヌが教えてくれたのだ。
因みに、私が言う酒精とは、発酵アルコールであるエチルアルコールの事ではない。そのまんまの『酒の精霊』の事である。
彼等は賑やかな酒の席を好む。
だから、彼等の好みそうな沢山のお酒も用意した。
後は私達はその時を待つだけだ。
「さあ、どんどん食べて、飲んで下さいね!物にもよりますが、リクエストにもお応えしますよー!」
私はその場を仕切るように、みんなに食べ物を取り分けた。
「シャル。僕、アレ食べたい」
お兄様が私の袖を引きながら首を傾げた。
……あざとい。私のお兄様があざとい……。
私がその顔に弱い事を知っていてやっているのだ。質が悪すぎる……。
「ルーカス、アレって何?」
リカルド様がお兄様を真似するかの様に首を傾げた。
……天然か!!うん!リカルド様は天然だ!!
可愛すぎて辛い……。
思わず口元を押さえると、リカルド様がチラリとこちらへ視線だけ向けてきた。
ま、ま、まさか!!リカルド様もわざとだと!?
くっ……!!小悪魔的な計算をするリカルド様も可愛い!!
「主は……何をしているのだ?娘よ」
「……放っておきましょ。酔っ払っているのよ」
「そうか?頭の病気ではないのか?」
「ぷっ……」
「違う、違う。シャルロッテのアレは普通だよね」
「ああ、普通だな」
……聞こえてますよ?サイに金糸雀。
吹き出すセイレーヌも酷いけど、彼方とクリス様も地味にけなしてませんか……?
ドンドンと地面を叩きながら悶えてた私の行動も悪いけどさ?!
「リカルドはアレを食べた事ないのか」
「うん。それだけじゃそもそも何の事かさえも分からないし」
「まあ、そうだよね。じゃあ特別に教えてあげる。僕が好きなのは薄くて甘い生地に、アイスクリームや沢山のフルーツ、チョコレートソースをかけてクルクルっと巻いたデザートなんだ」
「へえー!それは興味深いね!」
頬を染めながらうっとりとした表情を浮かべるお兄様。
そう。アイスクリーム教の
こんなこともあろうかと、クレープの生地は焼いてきてある。
アイスやチョコだけでなく、ハムや卵等の甘くないクレープにも対応可能だ。
「シャルロッテ!私も欲しいわ」
「主よ!私も!」
「シャル!私はチョコが沢山のが良いぞ!」
「私もクリス様と同じので!」
「私はお任せかしら……?」
我も我もと手を挙げる面々に、いつもならば溜息の一つも出そうになるが……
今日の私は一味違う!! こうなる事は想定の範囲内なのだ!
みんなの好みを把握して、一人三~四つずつ用意してあるのだ!!
例え残っても異空間収納バッグに入れておけば問題ないのだから。
という事で……お兄様とリカルド様、セイレーヌ、彼方はミルクアイスと沢山の種類のフルーツとチョコソースをかけたクレープ。
クリス様は、アイスもソースも生クリームも全てチョコ仕様のクレープ。
サイと金糸雀には、ラムレーズンアイスとチョコブラウニー、生クリームにはお酒の香り付けをした大人仕様のクレープをそれぞれに手渡した。
「これが……クレープなのね」
口元に手を当て、驚いた表情を浮かべるセイレーヌ。
食べやすい様にクレープには紙が巻いてある。
千切れるが、浸透して手が汚れたりしない様に魔術を付与済みなので、安心して最後まで食べられる。
「シャルロッテ……。どうして私はクリス様と同じじゃないの?」
私に近付いて来た彼方が、こっそりと私の耳元で囁いた。
「ああ、わざとだもん」
私はニッコリ微笑みながらサラッと言った。
「……え?」
「一口。交換して食べられるでしょ?違う味なら」
「あっ……!」
私も自分用を手に取った。
サイ達と同じ大人仕様のクレープである。
「ほら、早く行かないと。クリス様、食べ終わっちゃうよ?」
「う、うん!」
彼方は真っ赤になりながらクリス様の隣に戻った。
あー。早速、彼方が真っ赤な顔でクレープをクリス様に向かって差し出した!
クリス様は躊躇なくそれを一口分頬張った!!
私の視線に気付いたクリス様が意味を理解して真っ赤になりながらも、自分の分を彼方に差し出した!
「……何、心の中で中継してるの?」
「わっ……!」
彼方達をニヤニヤしながら見ていた私の背後に、お兄様がのしかかってきた。
「お兄様、重いです!」
キッと睨みながら後ろを振り向くと、お兄様は瞳を細めて微笑んでいた。
「隙あり」
「あー!」
私の手元にあったクレープが瞬時に奪われていく。
「私の取らなくても、まだあるのにー!」
「ルーカスはシャルロッテを構いたくて仕方ないんだよ」
ぷうっと頬を膨らませると、リカルド様がクスクス笑った。
こんな構われ方は嫌だ……。
もう……お兄様はマイペースが過ぎる。
「クレープは美味しかったですか?」
「うん。すごく美味しかったよ」
「それは良かったです。甘くないクレープもあるのですが……食べてみますか?」
「へー!甘くないのもあるんだ!」
「はい。ハムが野菜とチーズが挟んであるのを用意してみました」
中のソースはみんな大好きなマヨネーズベースのものにした。
私はハムのクレープを二つ取り出して、その内の一つをリカルド様に渡した。
残った一つは自分の為のものだ。
「いただきます」
そう口にして、端っこからかぶり付く。
大きな口を開けるのは行儀が悪い事だが、リカルド様は私がそうしても全く気にしない。寧ろ、美味しそうに食べている姿が『可愛い』と言ってくれるのだ。
……優しくて、かっこ良くて、可愛い。私の自慢の婚約者様である。
んっ!美味しい。
このクレープ生地は甘くない様に焼いてあるから、どんな組み合わせでもいけるのだ。余ったらクリームを重ねて、ミルクレープにしても良いな。
そんな事を思いながら食べ進めていると……。
「ねえ……。あたちにもソレちょうだい?」
うねうねと癖のある赤色の短めの髪の毛を頭のてっぺんで結んだ、赤い瞳の三歳位の女の子が、いつの間にか隣に座っていたのだ。
……え? ……誰?
私は呆然とその子を見つめた。
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