神を起こす方法①
王城に設置されているゲートを使用してアヴィ家にやって来た彼方と合流した私は、お兄様、リカルド様、彼方、クリス様、サイ、金糸雀を連れてアーロンの元に向かう事に決めた。
……始めは私と彼方だけで行こうと思ったのだが、お兄様とリカルド様。そしてクリス様から『待った』がかかった。
心配しなくても、私も彼方も急に消えたりはしないのだが……。
一緒に行きたいとお願いされたら、私も彼方も拒む理由はない。
「用意は良いのかしら?」
「うん。OKだよ。じゃあ……」
セイレーヌに頷き返した私は前方をチラリと横目に見た。
その先にいたのは、道化の鏡ことクラウンである。
「な、何だよ!?」
クラウンはビクリと大きく身体を揺らした後に、やや後退りしながら私を見ている。
ふっ。
相変わらずのへたれである。安定のへなちょこぶりに思わず失笑が漏れる。
「あー!今、失礼な事を考えただろ!?」
「……別に?」
「嘘だ!つーか、その間はなんだよ!ぜ……っったいに嘘だ!!こっち見て笑いやがっただろうが!!」
「やかましい。そういうのを自意識過剰って言うんじゃないの?」
私は嘲け笑う様にクラウンを見た。
勿論、わざとである。
未だに昔のアレコレを根に持っている私も大抵しつこいとは思うが……こればかりは時間も解決してくれないのだ。
それならそうと割り切って、あからさまに弄っている今日この頃である。
「そろそろ許せよ!!」
……知りません。
私の心の声を勝手に読む様なヤツのいう事は、知りません!!
「読んでねえよ!お前が分かり易すぎるだけだろうが!!」
何か吠えていますが、相手にするのはそろそろ止めましょう。
私達は大事な任務に向かわなければならないのですから。
クラウンは無視!!
「彼方もお兄様達も心の準備は大丈夫ですか?」
私は皆をゆっくりと見渡した。
「おい!無視か!」
皆は私に向かって大きく頷き返してくれている。
よし、だったら出発だ!
「無視かーー!!!!」
眠っているアーロンは、秘密で安全な場所にクラウンが隠しているのだが、その場所はセイレーヌとクラウンしか知らない。
なので、私達が自力で向かう事は不可能だ。その為、クラウンの鏡の中に入って移動するのが前提なのだ。
私のクラウン弄りはこれに対しての嫌がらせもある。
他の皆は特に気にした様子も無く、半泣きのクラウンの鏡の中に順番に入って行っている。
……羨ましい。
思わず顔をしかめていると……
「手繋ぐ?」
クラウンが苦手な事を知っているリカルド様が微笑みながら、私に向かって手を差し伸べてくれた。
「はい!」
私はその心遣いに甘えて、リカルド様の手をギュッと握った。
「えへへっ……」
頬がつい緩んでしまう。
頬を赤らめながらリカルド様を見上げると、リカルド様も私と同じ様に頬を染めて微笑んでくれた。幸せだ……。
そんな私達を邪魔するのは……
「はい、はい。後がつかえているんだから早くして」
「お兄様?!」
安定のお兄様である。
「僕も一緒だから安心でしょ?」
私は非難混じりの声を上げたが、ニッコリ笑うお兄様に鏡の中にリカルド様と一緒に押し込まれた。
ちょ……っ!心の準備がぁ……!!
「リア充は爆発しろー!」
そんなクラウンの声が遠くに聞こえた。
爆発してたまるかっ!!
キッと睨み付けようとしたが、既にクラウンの姿は見えなくなっていた。
クラウンを使った時にいつも感じる『すり抜ける』という感覚。
薄い膜を通り抜ける様にして出た場所は……沢山の緑に囲まれた場所だった。
エルフの里に……似ている気がするが、感じる空気が違う。
エルフの里よりも更に緑が濃い……様な?
澄みきった空気は、呼吸を繰り返す度に、まるで身体の中が神聖なもので塗り替えられていく様な錯覚を感じる。
「ここは……?」
私を含めた皆が辺りをキョロキョロと辺りを見渡していた。
……何故に森の中?
もっと神殿の様な場所を想像していた。
神殿の真ん中の石造りのベットの上に眠る神……って想像しやすくない?
思わず首を傾げていると……
「主よ。ここは天上世界の聖域に似ている気がする」
私達とは違い、平然と構えていた元魔王のサイが口を開いた。
「聖域……?」
「うむ。私も直接行った事は無いが……昔、話を聞いた事があるのだ」
「へえ……?」
「ええ。正しくは……クラウンの力を借りて作った、聖域を再現した空間ね」
ポカンとしながら首を傾げる私の質問に答えてくれたのは、サイの言葉を引き継いだセイレーヌだった。
【聖域】とは、神にとっての始まりの地。
アダムとイブの様な二人の神が誕生した場所であるそうだ。
『昔々、
聖域とは、全ての神にとっての母なる場所。
そんな場所を再現って……。
意外とクラウンは凄いのかもしれない。
と、私はほんの少しだけクラウンを見直した。
ほんの少しだけどね!?殆どはセイレーヌの力だろうけど?!
「アーロンはこっちよ」
緑の深い森の中を私達は、セイレーヌに案内されながら進む。
「まるでおとぎ話の世界みたい……」
「うん。凄いよね……」
「私はまだ行った事ないけど、エルフの里ってこんな感じ?」
「うん。ここまでじゃないけど、良い所だったよ」
「へえ……行ってみたいな。生エルフ見たい!!」
「サイラス見てるじゃない」
「あー……。そうだった。ここのサイラスってエルフっぽくないからさ」
私と並んで歩いていた彼方が、ペロッと小さく舌を出した。
「あはは。分かる!エルフの里は想像以上に美形だらけだったよ。『ハリウッドか!』って思ったもん」
「エー……益々、行きたくなった!!」
「行こうよ。エルフの里のアイスクリーム美味しいよ」
【アイスクリーム】というワードに、後ろを歩いていたお兄様が反応したが……敢えて無視をする。……気にしたらいけない。
あっ……リカルド様とクリス様が捕まった……。…………がんばれ!
「私も行きたいわ!」
「主よ。私も行ってみたい」
「じゃあ、皆で行こう!!」
そんな風に盛りながら話していると、前を歩いていたセイレーヌが不意に立ち止まった。
「着いたわ」
セイレーヌの立つ向こう側は、沢山の光が差し込む……森の中でも開けた場所だった。
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