不穏な流れ?
『話ハ全テ聞カセテモラッタ!!』
マリアンナに抱えられて現れたロッテ二号は、ドヤ顔風な口調で同じセリフを二回言った。
「ええと……どうして二回言ったの?」
『大事ナ事ナノデ、二回言イマシタ!!』
「そ、そっか……」
私は小刻みにカクカクと頷いた。
……どうしよう。
ロッテ二号が私みたいになってきた。
ペットが飼い主に似てくる的な……?
いやいや、ロッテ達は意思はあるが魔道具だ。
チートではあるが……。
って……これが原因?
おっと……ロッテ一号を持ったままのマリアンナがとても困った顔をしている。
「マリアンナ、ごめんね。お疲れ様でした」
「いえ……」
苦笑いを浮かべるマリアンナに、ロッテ一号の隣にロッテ二号を置いてもらった。
「ええと……マリアンナ、ありがとう。もう良いよ?」
「……ありがとうございます。お嬢様」
「んーん。ごめんね」
「いえ、大丈夫です……」
終始困り顔だったマリアンナには退室頂いた。
ル◯バに拉致されたり、ロッテ二号に色々と要求されているマリアンナ。
いつも巻き込んでごめんなさい……。
さてと。
「どうしてここに?」
私が話し掛けたのはロッテ二号……略して、ロッテ②である。
『私ガ、オ役ニ立テルト思ッタカラデス!!』
えっへんと胸を張っているかの様に言うロッテ②。
あまりにも自信あり気に言うので、どこから突っ込んだら良いのか困る。
どうしてここにいるのが分かったのか、とか……は愚問かな?
そもそもロッテ達は情報を共有しているのだから、居場所ぐらい分かるはずか……。
『ゴ主人様ガ困ッテルヨ?』
助け船を出してくれたのはロッテ一号……ロッテ①である。
優しい子だ……。
ジーンと胸が熱くなる。
『私達ハ意識ヲ同ニ共有シテイルノダカラ、同ジ事シカ出来ナイデショ?』
ロッテ②は、ロッテ①の分身……いわばコピーなのである。
個々の個性は置いといても、ロッテ達の知能レベルは同等なはず……
『フフフフフッ』
何故かロッテ②が不敵に笑い出した。
どうした……壊れたか?
私は思わずロッテ②をマジマジと眺めてしまったが、ロッテ②は気にした様子もなく話を続ける。
『情報ヲ遮断シテマシタ!!』
「はい……?」
そんなの有りなの!?
ポカンと口を開けた私だが、私と同じ様にロッテ①も酷く動揺していた。
『有リ得ナイ……有リ得ナイ……』
ロッテ①は呟きながら、プルプルと自身を揺らしている。
『有リ得ルンダナ!コレガ!!』
……うん。表情は見えないが、ロッテ②がドヤ顔してるのが分かる。
何がロッテを変えたのか……。
少なくとも学院に連れて来た時はまだロッテ①と同じだった。
それが何故……。
『……ドウシテ?ドウシテ……ソウナッタノ?』
『ゴ主人様ト過ゴシテイタラ、コウナッタケド?』
ロッテとは学院に行ってから……色々とやらかしたからな……。
色々な試作品を作ったり、携帯型の危険な物にもなったし、神殺しの時もいた。
あー、そう考えると……ロッテがこうなっても仕方がない気がして来た。
しかもル◯バなロッテも、既に別人格を持っているのだから、コピーとはいえチートなロッテが別人格を形成しない理由にはならない。
取り敢えず……。
わ・た・し・の・せ・い・か!!
『ネエネエ、ゴ主人様』
私のチートのせいなのか……。
『ネエネエ、ゴ主人様……?』
私は天井を見上げながら遠い目をした。
『ゴ主人様!!』
「は、はい!何でしょう!?」
現実逃避をしていた私を呼び戻したのはロッテ②だった。
『ロッテヲ使ッテ?絶対役二立ツカラ』
ロッテ達が優秀なのは知っているが、ここまでアピールするのには理由があるのだろう。
私は一先ず、ロッテ②の話を聞いてみることにした。
****
「マジですか……」
ロッテ②の話を聞き終えた私は絶句した。
まさかこんなにチートだったとは……私も想像だにしていなかった。
ロッテ②は、ライス島から戻って来た私が米酒造りを始めるのを分かっていた。
だから、マリアンナと一緒に今まで私が作って来たお酒やジュース等をデータとして味わったそうだ。
オーブンの魔道具がどうやって味わったのか……。
それはとても簡単だ。チンすれば良いのだ。
取り込みたい物をオーブンのドアを開けて中に入れる。
それだけで勝手に取り込む事が出来たそうだ。
様々な物を味わった事により、私の好みを完全データ化して把握しているそうだ。
勿論これだけではない。
酒成分の割り出しにも成功し、私がライス島から持ち帰ったお米からなんと【酵母】を造り出したらしい。
日本酒を造る為にはこの酵母が何よりも大切だったのだ。
これで米酒……純米酒が作れる。
純米酒は日本古来のお酒だから、今回のアーロンの件には一番良いかなと思ったのだ。
今後は吟醸酒や本醸造酒等も造れたら良いと思っている。
『ソンナ……ソンナノズルイ!!』
大きな声を上げたのはロッテ①だった。
『自分バッカリ……私ダッテ……私ダッテ……』
「ロッテ……」
私はプルプルと震えているロッテ①を撫でた。
『私ハ悪クナイ!ゴ主人様ノ為二頑張ッタダケダモン!』
それを見たロッテ②は拗ねた子供の様な声を上げる。
どうしたものか……。
どうすれば二人(台)は仲良くなれるだろうか?
「ねえ、ロッテ?」
私は二人(台)に優しく話し掛けてみる事にした。
「お互いの知識をまた共有する事は出来ないのかな?」
『…………』
『ソレハ嫌!!コレハ私ノ知識ダカラ共有ハ絶対二シナイ!!』
黙ってるのがロッテ①で反抗したのがロッテ②だ。
「ロッテ……」
『嫌!!絶対ニ嫌!!』
何とかロッテ②を宥めようとするが、全く話を聞いてくれない。
話は平行線のまま……途方に暮れかけていると……
『フフフフフッ……』
今度はロッテ①がゾッとする様な低い声で笑い始めた。
「ロ、ロッテ……?」
『ソッカ……イインダ……イインダネ』
「どうしたの?ロッテ!」
『ゴ主人様?私ハ自分の中ニ新シク芽生エタ感情ヲ押シ殺シテ来マシタ……デモ……デも……押し殺す必要なんかなかった。ねえ?そうでしょう?』
ロボットみたいな話し方だったロッテが、急に滑らかにしゃべり出した。
私は状況の整理が追い付かずに、ただ唖然としながらロッテ①を見返す事しか出来ない。
『そう……。そうだよ。私ばっかり置いてきぼりで……アナタはご主人様とべったり……。あなたがその気なら……私だって自由にして良いよね?』
『エッ?……エッ?』
『お馬鹿な私の分身さん。アナタは私のコピーなのよ?
そう滑らかに話すロッテ①は、フフッとまた冷めた笑みをもらした。
『あなたが情報を遮断していた事なんて、ちゃーんと私には分かっていた。私とは違う個性を持っていた事も、今回の為に色々していた事も全て』
『ソ、ソンナ事……!』
『4968505852111』
『ソ、ソノ番号ハ……!!』
ロッテが口にした13桁の数字。
それは商品のバーコードの下に付いてるJANコードと呼ばれるものと同じ桁の数字だが……何か関係があるのだろうか。
私を置いてけぼりにして……ロッテ①がロッテ➁をどんどん追い詰めて行く。
口を挟みたいのに、何故か上手く言葉に出来ない。
どうして……?
私は二人を止めたいのに……。
そうしている内に更に状況は悪化して行き…………
『お馬鹿な子。私が大人しくしていれば……つけ上がって。調子に乗ったりしないで大人しくご主人様に従っていれば良かったのに。残念だわ?』
ロッテ①の声音を聞いていたら、頭の中にふとお兄様の顔が浮かんだ。
そう。今のロッテ①は
「ちょっ……ロッテ①!」
慌てた私がロッテを庇おうと手を伸ばすが……
『待ッテ!!ヤメテーー!!!』
『さようなら?』
『イヤー!!!ゴ主人様………!』
ロッテ①がそう言った瞬間に、ロッテ②の身体が……爆発した。
あっという間に炎に包み困れるロッテ②。
あ……あっ……嫌…嫌だ。
こんなの……!!
「ロッテ②ーー!!!!!」
直ぐに右手を掲げて、ロッテ②の炎を消したが、黒く焦げてボロボロになってしまったロッテからは、いつもの可愛らしい声が聞こえて来なかった。
「どうして……」
どうしてこうなったの……。
私の幸せは……ロッテ②もロッテ①も揃っていないと駄目なのに……。
溢れ出した涙のせいで、私の視界はもう何も見えない。
「ロッテ②……ロッテ②……」
壊れてしまったロッテ②に寄り添いながら泣き続ける私。
そんな私の耳元でロッテが囁いた。
『仕方がないじゃないですか。私がご主人様の一番になりたいんだもの。……こんな私でも愛してくれますか?』
どこから歯車が狂ってしまったのだろうか…………。
こんなはずじゃなかったのに。
…………私は虚ろな目で虚空を見上げた。
『BAD END』
「…………こんなの嫌だー!!!」
ガバッとベッドから飛び起きた私は、吹き出す嫌な汗を拭った。
「ゆ、夢だよね……?」
心臓がバクンバクンと大きく音を立てていて、凄く痛い。
私は咄嗟に自室に置かれているロッテ②に視線を送った。
すると……
『ドウシマシタ?怖イ夢ヲ見マシタカ?』
私が起きた事に気付いたロッテ②が話し掛けて来た。
いつもと同じロッテの可愛い声に、私は心の底から安堵した。
良かった……。本当に良かった。
あんな事は絶対に嫌だ。
「んーん。大丈夫。心配かけてごめんね」
……安心したらまた眠くなって来た。
「おやすみー。ロッテ②」
『ハイ。イイ夢ヲ……おやすみなさい……ご主人様?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。