新たな地へ…①
突然ですが、私、シャルロッテ・アヴィは旅に出ます!!
って……実は、もう船に乗っちゃってます。
あー、空も海も真っ青で気持ち良い!
右手を翳しながら空を仰いでいると、ふいに船体がグラリと揺れた。
その衝撃で、船の縁に立っていた私の身体は船外へと投げ出されそうになった。
…落ちる!?
思わずギュッと目を瞑り、訪れるであろう水の衝撃を覚悟したが………。
しかし、それはいつまで経っても訪れなかった。
……あれ?落ちなかった?
恐る恐る瞳を開けると、二色の瞳が私を見下ろしていた。
心配そうな色を浮かべるシルバーブルーの瞳と、呆れた様な色を浮かべるアメジストとターコイズブルーを混ぜたアメジストブルーの瞳……。つまり、リカルド様とお兄様だ。
船外へと投げ出されそうになった私の身体は二人の腕に抱き締められていたのだった。
『……すみません。』そう、素直に謝ると
「間に合って良かった。」
「シャルロッテからは本当に目が離せないよ。」
リカルド様とお兄様からは苦笑いを返された。
「お嬢様!!大丈夫ですか。」
船内から出て、青い顔をしながら私の元へと駆け寄って来たのは、アヴィ家の執事のマイケルではない。
お兄様やリカルド様達の同級生のサイラスは、エルフの里に復讐を仕掛けて以来、何故か暇を見付けてはアヴィ家に行き、マイケルの元で執事教育を受けていた。
私を『お嬢様』呼びしているのはそのせいだ。
本来ならば祖父であるミューヘン辺境伯の元で、跡取りとしての責務があるはずのサイラスなのだが……何故かサイラスは私の執事になりたがっているのだ。
そんなサイラスもおかしいのだが、それを容認している辺境伯もおかしい……。
まだ若い孫の好きにさせてあげたいという祖父心なのかもしれないが…。
たまに辺境伯から届く『二番目で良いからサイラスを婿にしてくれんかの?』の手紙はどうにかして欲しい。
そもそもこの国は一夫一妻で、夫を二人も持つ事は出来ないし、私にはリカルド様だけで充分なのだ。リカルド様以外の夫なんて考えられない。
なのにも関わらず…辺境伯は『望むならば法律を変えてあげるぞ』とまで言い出す始末……。相変わらずの狸じじ…。
コホン。
しかし、この旅路は、そんなミューヘン辺境伯のお陰で実現したものだったりするのだ。だから、辺境伯もサイラスも無下には出来ないのだ。
そして、そろそろこの旅路の目的を話さなければならないだろう。
今回の船旅だが…その目的はとある食材の入手の為である。
私とお兄様の誕生日の翌日。
辺境伯からお祝いのメッセージと共に届けられた一通の手紙。
そこに書いてあったのは……。
『米』が見つかったとの内容だった。
『米』。米と言えば、日本人にとって何よりも欠かせない主食であり、ソウルフードである。その存在は全てのおかずの為に存在し、そして私にとって最も無くてはならない存在…。
そう。『お酒』の原料にもなる。
OSAKE。オーサーケ。オサケ。お酒。
和泉は日本酒…米酒が飲めなかった。
だがそれは、日本酒を理解する前に亡くなってしまったからではないだろうか?
確かに癖があって飲みにくかった。だから避けていた節もある。
と、シャルロッテ《わたし》は思っている。
つ・ま・り・だ!!
かなり強引ではあるが『私好みの米酒作っちゃえば良いよね!?』に、つながる訳だ。
その為にずっと『米』を探し続けていた。
それが漸く実現する時がやって来たのだ!!
ヒャッフー!!
これが喜ばずにいられるか!!
そしてこのお酒が神アーロンを目覚めさせるきっかけになるのだ!!
と、私は思っている。
その為に是が非でも『米』を手に入れて、お酒を作らねばならない。
そうした事情は隠しているのだが…今回、向かう村はミューヘン辺境伯の領地だったりする。
その為にサイラスが同行する流れとなったのだが……。
正直、波瀾万丈な予感しかない。
今回は同じ日本人であった彼方も大好きな米が見つかったとはいえ、第一目標がお酒の為なので留守番だ。
今頃はきっとアヴィ家でクリス様との仲を深めている頃だろう。
お土産にはお米を持ち帰って、美味しいご飯を作ってあげるから頑張れ!!
向かう先は狸じじ…ミューヘン辺境伯の領地…。
一筋縄ではいかない予感がビンビンする……。
多分、彼方をアヴィ家に置いてきたのは正解だろう。そんな予感がする。
で・も・!!
何が起きても大好きなお酒の為に私は頑張る!!
冬休みの最中に絶対何とかするんだからっ!!!
と、私はそう心に誓うのであった。
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