誕生日②
「落ち着いた?」
お兄様が私の顔を覗き込んで来た。
先程まで溢れていた涙は
笑顔で不穏な空気を放っていたお兄様とリカルド様が、いつの間にか私と彼方の直ぐ側に来ていたのには気が付かなかった。
「はい。すみません。」
「いや、別に謝る必要はないでしょ。」
「うん。悲しい涙じゃないなら良いんだよ。」
苦笑いを浮かべた私の頭に、お兄様の温かい手が乗った。
リカルド様は、微笑みながら私に寄り添ってくれる。
彼方にはクリス様がハンカチを差し出していた。
泣いて少し鼻が赤くなってしまっていた彼方は、恥ずかしそうにはにかみながら、ハンカチを受け取っていた。
そんな彼方の様子を瞳を細めながら見つめていたクリス様が、ふと視線を私に投げかけて来た。
「そう言えば、シャル。神の件はどうするんだ?」
クリス様が尋ねているのは勿論、神アーロンの事だ。
セイレーヌの夫であり、金糸雀とクラウンの伯父である。
彼方を召喚する事で、なけなしだった神力を殆ど使い切ってしまった神。
私の前世である『和泉』と『彼方』は、アーロンの作った星に住んでいた。
神々の抗争で命を落とした
「はい。その件は私に考えがあります。」
クリス様に向かって微笑む。
「そ、そうか…。」
そう答えたクリス様の顔が何故か引きつっている。
……?
私は首を傾げた。
笑っただけなのに怯えられるだなんて…まるでクラウンの様ではないか。
そんな反応されたら私でも傷付く…よ?!
「シャルが好戦的な目で笑っているからだよ。」
クスクスと笑いながらそう教えてくれたのはお兄様だ。
「やる気が凄いもん。」
へ…?
もしかしなくても、その『やる気』は『
おかしいな。そんなつもりなんてないのにな。
「流石にアーロン様を殺したりはしませんよ。」
それでなくともアーロンには、色々お願いしたい事があるのだから。
なのに…。
「そ、そうだよな!」
まだクリス様が怯えている。
「主よ。王太子は主が過激な事をすると思っているのではないか?」
「そうよ。シャルロッテの日頃の行いのせいね。」
サイと金糸雀…。それ酷くない?
「シャルロッテが悪い。」
ミラまで!?
…そろそろ涙が出そうだよ?!
私ってそんなに過激な事!
そう言いかけて、過去の私の行動が唐突にフラッシュバックされてきた。
……うん。してるか。してたよ。私。
チートさんを駆使して色々やったなぁ……。
遠い目をしながら天井を仰いでいると、クスクスと可愛らしい声が聞こえた。
「私はそんなシャルロッテに助けられたよ。」
笑い声の主は彼方だった。
「だから、また私に手伝わせてね?」
「彼方…!」
私の天使!!
クリス様を押し退けて彼方にギュッと抱き付く。
「シ、シャル!」
私の行動に驚いたクリス様が非難の声を上げるが、私は敢えて無視する。
クリス様に彼方は勿体ない!
彼方は私の嫁だ!!
ふふんと勝ち誇った笑みを浮かべながらクリス様を見ると、歯を食い縛りながら悔しそうな顔でこちらを見ていた。
勝った!クリス様に勝った!
ニヤリと笑うと、いきなり彼方から引き剥がされた。
…え?!
「シャルロッテは…僕のだよね?」
気が付くと…珍しくふてくされた様な顔をしたリカルド様に、後ろから抱き締められていた。
……キュンとした。
「はい!大好きです!!」
私の前で組まれたリカルド様の腕をギュッと抱き締めると、
「ありがとう。愛してるよ。」
リカルド様が顔を綻ばせた。
惚れ直してしまうやろ!!!
悶絶しそうになる自分を全力で律する。
危ない、危ない…お酒は理性を簡単に崩してしまうのだ。
「はいはい。もっと周りの迷惑を考えようね。バカップル。」
瞳を細めた微笑みを浮かべたお兄様は、何故か今度は私達を引き剥がさなかった。
ゾクリと背筋に寒気が走る。
これはまずいかもしれない。調子に乗ってやり過ぎた…?
しかし、お兄様は身構えた私を微笑んで見ているだけだった。
ホッと安堵の溜息を吐きかけた時。
お兄様の肩越しに、遠くでお父様がこちらを見ながら、ギリギリとハンカチを噛み締めながら涙を流している姿が見えた。
…お父様。
そんな恨めしそうな顔をしなくても…。
婚約してるのだから良いじゃないか。と思ったが今後の事も考えて、リカルド様の頭をなでなでしてから離してもらった。
「さて。主よ。これからどうするつもりなのだ?」
サイは私を見上げながら首を傾げた。
そろそろ本題に入らねば。
「うん。あのね…。」
私は皆の顔を眺めながら話し始めた。
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