さあ、最期の時間です①
本日は待ちに待った!私の16歳の誕生日。
お・酒・解・禁!!!
長かった…本当に長かった。
やっと浴びる程に飲めるのだ!!!
神よ!!
…っと、その神をこれからシメて来ます。
今日までの日々を無駄に過ごして来た訳ではない。この日の為にありとあらゆる準備を皆で進めて来た。
16歳になったシャルロッテは、問題なくお酒が飲める年になった。そこも作戦のポイントである。
自らの身体に浄化を掛けた状態で、神達と睡眠薬入りのお酒を飲み、油断を誘い、眠った神達を一気に拘束する。
これが作戦の第一段階の予定だ。
…え?エルフの長達の時と同じじゃないか?
まあ、ここまでは一緒だけど、捕まえた後にくすぐり倒すだけなんていう生温い事は決してしない。
『この恨み晴らさでおくべきか』
『目には目を…』
私は前を見据え、ニヤリと口元を歪ませた。
さあ、最期の時間を始めよう。
*****
「我が愛しき神よ…。本日の供物をどうかお納め下さい。」
床に両膝を付いて両手を組み、目の前の祭壇に向かって祈りを捧げる。
因みに、本日の供物はビールに果実酒、ワイン等々。後はそれに合うつまみや甘味を用意した。
そうして、祈りを捧げてから五分も経たない内に、
「おお。シャルロッテか。待ちわびたぞ。」
この声は…。
「シモーネ様!!」
男神シモーネが、スッと光と共に目の前に現れた。
私は瞳を大きく開け、頬を高揚させながらシモーネを見つめる…フリをする。
目の前に立つシモーネの容姿は、人間的年齢で言えば40~50代といった所だろうか。
少しウェーブのかかった黒い短髪に、口回りの黒い髭が特徴で、ギラギラとした野心の見え隠れする金色の瞳を持つ男である。
この男こそが、今回の作戦で最も欠かせない人物である。
傀儡を造り、あの事件を発生させた、私と彼方にとって最も憎むべき相手だ。
「我が敬虔なる信者シャルロッテ。お前に会えない日々は苦痛でしかないな。」
シモーネはそう良いながら、私の腰に腕を回し、抱き寄せて来る。
「シモーネ様にそう言って頂けるなんて…。」
そう言って抵抗する事なく、シモーネの胸元に頭を預けると、
「愛いやつだ。」
シモーネはククッと下卑た笑いを浮かべた。
「今日は確か…シャルロッテ、お前の16歳の誕生日だったな。」
「覚えていて下さったのですか!」
「当たり前だ。…それに…今日は良いのだろう?」
腰にあったシモーネの手がススッと下がる。
「シモーネ様…まだ駄目ですわ。今日は皆様でお祝いしてくれるのでしょう…?」
私は上目遣いに、妖艶さと恥じらいを織り混ぜた表情を浮かべながら、シモーネの手を両手で掴み、牽制しながら小首を傾げる。
「…む。そうだな。先ずは酒でも飲んでから…。」
シモーネは満更でもない様に瞳を細めると、また下卑た笑みを浮かべ舌舐めずりした。
…ああ。気持ち悪い。
嫌悪感で鳥肌が立ちそうになる身体を叱咤し、心とは真逆な感情を表情へ乗せた。
シモーネは初めて会った時からこんな調子である。
セイレーヌから、シモーネが『極度の女好き』との情報は得ていた。
種族に関わらず、好みの女性とあらば無節操に手を出しまくっている。泣き寝入り状態の女性達は三桁は下らないという超絶最低な男。
私に対しても初めから強引だった。逃げ場無くした状態で有無を言わせずに関係を結ぼうとして来るシモーネを『誕生日までは…』と、今日の今日まで引き延ばし、かわし続けて来た私は…本当に頑張った。
こんなシモーネだからこそ、操るのは簡単だったのだが…。
思いがけずハニートラップを仕掛ける事になってしまった状況に、お兄様やリカルド様をはじめとした皆は、烈火の如くご立腹であった。
…私だって決して好きでやってる訳ではない。これも作戦の為だと皆を宥めながら来たのだ。
ルーカスお兄様の笑顔はこの八ヶ月間一度も見た事がなかった。否、笑ってはいるのだが…冷たいを通り越して、いつも凍った様な瞳をしていた…。
最近、ルーカスお兄様に似た真っ黒な笑みを浮かべる様になって来たミラには、親指位の小さな箱を『絶対に肌身離さない様に』と言われ、持たされている。
中身は気になるが、嫌な予感しかないその箱は、いざという時が来るまでは絶対に開けないと心に誓った。使わずに済んだら速攻で机の引き出しにでも閉まっておこう…。うん。
私の愛しい婚約者のリカルド様からは、シモーネの匂いが不快だと…毎日、匂いの上書きを何度もされた。
…結婚前だから、強めのギューと軽いキスだけですよ?
番に自分以外の匂いが付くのが嫌だという、獣人ならではの行動は、私がリカルド様の物だと、《愛されている》という安心感を与えてくれた。リカルド様には申し訳ないが…、ヤキモチを妬いて拗ねているリカルド様は可愛かった。そして、とても嬉しかった。
シモーネに触れられる度に沸き起こる、全身を掻きむしりたくなる程の不快感。
好きでもない男に触られる事が、ここまで嫌なものなのだと、身をもって実感する事となった。
シモーネに取り入る為に、アーロンやセイレーヌを貶める発言をすれば、直ぐにシモーネは上機嫌となり自らの武勇伝を語る。
それも同じ事を何度も、何度も、何度もだ。
その中の一つにはあの事件も含まれていた。
あの話をしていても、この男は全く私に気付いていない。
今の私は『シャルロッテ』だから、気付かないのも仕方無いのだけど…。
しかし、シモーネは傀儡の妹にされた彼方の事でさえも忘れていた。もしかしたら、存在は認識していたかもしれない。でも、それだけ。私達の存在がそんなにも軽いものだったのだと再認識させられた。
『忌々しいアーロンを出し抜いてやった。あいつの大事にしていた物を壊してやった。』そう…シモーネが嬉しそうに語る度に…。
何度、目の前が真っ赤に染まったか…。
何度、今すぐに殺してしまいたいと思った事か…。
その度にリカルド様からの贈り物のペンダントを握り締め、激情を思い止まらせて来た。
リカルド様は存在そのもので、私の精神的苦痛を癒してくれ、最後まで支えてくれた。
そんな我慢も今日で終わり。
「さあ、我が神殿に行こうぞ。」
待ちきれないといった風に、グッと一際強く身体を引かれた瞬間。
視界が真っ白に染まった。
「くくっ。着いたぞ。」
身体を縮こまらせてしまっていた私の頭の上から、楽しそうな笑い声が降って来る。
そっと目をあければ、見覚えのある灰色の無機質な神殿の入口が視界に入った。
「行くぞ。」
シモーネに腕を引かれ、大きな灰色の扉を潜れば、広間には私が用意したお酒やつまみ達が並べられていた。
シモーネは自分の定位置である玉座に座ると、必ず隣に私を座らせる。これもいつもの事だ。
私達が席に着くと、どこからともなく四人の神が現れた。
この四人はシモーネ派の神達だ。
カミーチ、カミーニ、カミーサ、カミーヨと言う。私は彼らの事を『神①~④』と心の中で呼んでいる。
こいつらもあの事件に加担し、楽しんでいた奴らなのである。
「今日は、シャルロッテの誕生日だ!皆で盛大に祝おうぞ!!」
玉座に座り、祝杯を掲げるシモーネ。
「ありがとうございます。」
微笑む私は自分のグラスを掲げ、その中身を一気に飲み干した。
そんな私を満足そうに眺めるシモーネ。
私はシモーネや神①~④を潰すべく、睡眠薬入りのお酒を注ぎ続けた。
******
「おい…シャルロッテ…飲んでるか!」
酒臭い息。
肩に触れて来るシモーネに、私の不快感もいい加減に限界だ。
「ええ。勿論ですわ。」
ニッコリ笑ってシーラのお酒を掲げて見せる。
念願のお酒だが…何の味も感じない。
私はこんな場所で、こんな風にお酒が飲みたい訳じゃない。
後一人。残っているのはシモーネだけだ。
神①~④までは早々に潰れてくれた。
さて…どうするか…。
下手に魔術を使うのはリスキーだ。
グラスをくいっと煽った時。
『ゴ主人様。首尾ハドウデスカ?』
頭の中にロッテの声が響いた。
(んー。思ったよりも潰れてくれなくて、ちょっと困ってるかな。)
何度となく検証してみると、ロッテとは一定の距離内であれば通信する事が可能だった。しかし、流石に神界までは通信が届かない。いざという時の連絡手段は確保したい…とミラと開発を進めた結果。
媒体とされる物を持っていれば、こうしていつでもロッテと交信する事が可能になった。
ロッテの本体であるオーブンと媒体となる物が同期していると思って貰えたら良いだろう。
因みに、本日のロッテの媒体はあの親指サイズの箱である。
ミラは、家の大事な子をなんという危険な物と同期してくれたのだろうか…。
私がハラハラとした気持ちをしているというのに、等の本人は至って通常運転である。
寧ろ、『二重の意味で役に立てて嬉しい』と喜んでいた。…強いなロッテ。
『ソレナラバ、オ酒ノ温度ヲ上ゲテミテ下サイ。』
…あ、そうか。
熱燗は良い回りやすいと言われている。
温かいお酒を飲む事で体内の代謝が上がり、アルコールの吸収を早めてくれるからだ。
(ありがとう!やってみるよ。)
ロッテのアドバイスに従い、度数強めのお酒を魔術で温める。
「こうすると、更にお酒が美味しくなりますよ。」
そう言えば、シモーネには一も二もない。
こうしてやっとシモーネが潰れた。
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