作戦会議②
一つ増設したソファーには、ミラとサイが座った。
リカルド様は私と同じソファーで、私の右側にリカルド様、左側にお兄様が座っている。
さて、気を取り直して…。
と、その前に。
「リカルド様は領地に戻られたのではなかったのですか?」
「うん。戻ったよ。」
「え?随分と…早かったの…ですね?」
アーカー領は王都からだいぶ離れている。
間違っても数時間で戻れる距離ではないのに…何故だ。
「エルフの里に行った時に使ったゲートがあったでしょ?あれをアーカー家と繋げてあったんだよ。因みに、アヴィ家にも繋がってるよ。」
お兄様が笑いながら言う。
…はい?
いつの間にそんな事してたの?
…というか、良いの?そんな事して。
「ルーカスもリカルドも私にとっての大切な部下になるのは違いないし、何かあった時にも必要かと思ったんだ。早速、役に立ったな。」
彼方の隣に座るクリス様が、にこやかに笑いながら頷いた。
他にも、サイラスの家やハワードの家にも繋がっているらしい。
王太子であるクリス様が決めた事なら、私には何も言う権利はないのだが、しいて言えば、『アヴィ家とアーカー家を直接繋げたい』それだけだ。
ゲートに関しての詳しいことは、きっとミラも知っているだろうから後から聞けば良いだろう。
――さて。
そろそろ本題に入ろうか。
「ロッテ、お願い。手伝って。」
部屋の隅にあったオーブンこと、ロッテに話しかける。
「ハイ!ゴ主人様、喜ンデ!!」
チンッ。
ロッテが音を鳴らすと、空間が一瞬だけ歪んだ。
私はそこに意識を同調させて、自分の魔力を練り上げて行く。
そうすれば、あっという間に完成だ。
「完全…結界?」
セイレーヌが、周りを見渡しながら呆然と呟く。
そう。これは私とロッテが数年かけて編み出した、誰にも介入されない【超完全結界】だ。
「いつもの事ながら見事だな。主よ。」
「ロッテのお陰だよ。」
サイが感心したように頷く。
今日もチートさんは絶好調だ。
「…ど、どうして、人間に【完全結界】が作れるの?」
私達の行動を常に見ていたセイレーヌにも、この結界の存在は知られてなかったらしい。
「私は貴女の愛し子。【赤い星の贈り人】ですから。」
勿論、この結界は一人で作れない。
チート×チート=????
という理論の元に編み出したもので、ロッテと意識がシンクロ出来ない状況下においては【完全結界】へと効果が落ちるのだが、そこまでセイレーヌに説明する必要はないだろう。
この【超完全結界】は、外側から見れば、和やかに談笑したり、食事をしていたりというホログラム機能が付いている。
その為に、結界を張る時に失敗しない限りは気付かれる心配がない。
この結界が神にも知られていないと分かった今、漸く何の心配もなく話が進められる。
「彼方。自分勝手な神達に復讐しよう?」
私はニヤリとした意地悪な笑みを浮かべながら彼方を見た。
******
「うわぁ……相変わらず、容赦ないな。エルフの長達の時より進化してるし。」
「そう?僕はこれでも物足りないと思うけど。」
「うん。シャルロッテは優しいからね。」
「…優しいの?まあ、でも、嫌いじゃないよ。」
ミラとルーカスお兄様、リカルド様が楽しそうに話している。
今回の件は、サイラスの時の復讐とは
あの時は、最終的に丸く収まれば良いと思っていたが、今回は丸く収める気が全くないのだ。
「良いわね。私もこういうの好きよ?シャルロッテ。」
「ああ。流石、我が主だ。」
金糸雀とサイも同調してくれる。
「…彼方はどう思う?」
問い掛けると、彼方は唇を噛み締めた。
「私は……許せるか…分からない。」
彼方の握り締めた拳が震えている。
そんな彼方の拳にクリス様がそっと自分の手を乗せて、包み込む様にする。
「彼方。許さなくて良いんだ。」
「…え?……良い…の…?」
彼方は瞳を大きく見開きながらクリス様を見た。
「ああ。許す為にする訳ではない。シャル、そうだろう?」
「勿論です。」
私はクリス様の真剣な眼差しを真正面から受け止めた。
「『これだけで許されると思うなよ?』と、思い知らせる事が目的ですから。悪事を働いた神達には死ぬよりも辛い、死んだ方がマシなのに、死ぬ事も出来ない。そんな絶望を与えてやりますよ。」
「ひぃっ!!」
ニッコリ笑うと、隅に居たクラウンがビクリと大きく身体を震わせた。
『お前そこに居たのか!!』とは、突っ込まない。
敢えて瞳を細め、チラッと流し見る。
それだけで今のクラウンには充分だろう。
案の定、クラウンがブルブルと震え出したのが視界の片隅に見えた。
心がスッとしたので、これで無理矢理に鏡の中に連れ込まれた事は、水に流してあげよう。
クリス様はクラウンをとても可哀想な物を見るような目で見た後に、彼方に視線を戻した。
「シャルは、盛大な嫌がらせをするつもりの様だ。」
優しく、諭すような話し方だった。
「彼方と自分自身がちゃんと前を向いて生きて行ける様に、区切りを付けたいのだと思う。」
「クリス様。それは違います。」
「違うのか!?」
私の言葉に、クリス様が驚愕した様に瞳を見開いた。
「『復讐』とは、そんな生易しい物ではありませんよ?」
「そうそう。これをネタに未来永劫楽しむ物でしょ。」
私の後に瞳を細めたお兄様が続く。
「ぷっ…。」
そんな私達のやり取りを呆けた顔で見ていた彼方が、突然小さく吹き出した。
「……復讐、してみようかな。そしたら…色々と変われる気がしてきた。」
「ああ。その後の事はまたその時に一緒に考えよう!」
クリス様は嬉しそうな顔で、彼方の手を取った。
彼方は驚いたように一瞬だけ顔を瞳を丸くした後に、ほんのりと頬を赤く染めながら微笑んだ。
そんな彼方の表情を間近で見ていたクリス様は、真っ赤な顔をして固まってしまった。
微笑ましい二人の様子に思わず私の頬も緩む。
これは私だけでなく、皆が一様に同じ事を考えて、同じような表情を浮かべていた。
…彼方はもう大丈夫。
少しの寂しさと、それを上回る喜びがある。
「神だから何をしても許される。他種族を軽く扱うなんてもってのほか。私は世界を変えます。この復讐は、貴女達にとっての宣戦布告ともなり得ますが、それでも私で良いですか?」
私の問い掛けに、セイレーヌは真剣な顔で頷いた。
「勿論よ。私の愛し子として貴女を選んだ事は間違いじゃなかった…。お願い。アーロンを助けて…世界を変えて。」
「分かりました」
私と彼方は笑顔でセイレーヌの願いを受け入れた。
――復讐をするその日までに、彼方は聖女の力を完全に制御出来る様に特訓し、私はこの日の為に準備や環境を整える。
『果たして神達が出て来るのか?』不安はそこだけだったが、セイレーヌは『大丈夫だ』と言い切った。
シャルロッテの存在は神達の中でも噂に上る程だと言う。
どんな噂なのか…。
まあ、どうせ食べ物関係だろう。それなら好都合。存分に利用させて頂こう。
決行日は、八ヶ月後の私の誕生日。
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