ダンジョン④の1

さてさて、本日は久し振りにダンジョン探索の再開だ。


私やお兄様が王都に出掛けてたり、ドライフルーツに追われていた日々の間、お父様や【リア】のメンバー達も個々で忙しく動いていたらしい。


なので、今回は事前調査無しの状態で、探索する事になった。


今回のメンバーだが、お父様やリアの面々。お兄様と私は固定なので変わらない。

そこにミラと、何故かサイラスがいる。


「シャルロッテ様。本日は宜しくお願い致します。」


正しい姿勢で、頭を下げるサイラスは、白金色の髪をバッサリと切ってしまっていた。


「…サイラス様、髪を切られたのですね?」


「はい。シャルロッテ様の役に立つ為には邪魔ですから。」

サイラスはニコリと琥珀色の瞳を細めた。


「…サイラス様。以前にも言いましたが私に『様』付けは必要ありませんよ。」


「いえ。貴女は私にとっての恩人…。ここは譲れません。寧ろ、リリーの時の様に接して下さい。」


まるで執事の様な出で立ちのサイラスは、一体何処に向かっているのだろうか…。


呼ぶ呼ばないの押し問答の末。


「分かりました。好きにして下さい。」

折れたのは私の方だった。


私は小さく溜息を吐く。

ここでウダウダしていたら、いつまで経ってもダンジョンに入れないのだ。諦める事にする。


エルフの里で会って以来のサイラスは…私に口で勝てた事を喜んでいるのか、ニコニコと嬉しそうに笑っている。

私が折れてあげたんだけどね!?

サイラスは、髪が短くなったせいか、前よりも幼い印象を受ける。ちゃんと年相応の男の子に見える。


元気そうで何よりだが…。

…本音を言えば、もう会いたくなかった。


「…サイラス。彼がミラです。」


色々と諦めた私は、さっさと、サイラスにミラを紹介してしまう。


「サイラス・ミューヘンです。シャルロッテ様には、とても良くして頂いてます。」


「…ミラです。姓は捨てました。今はこの邸にシャルロッテ様達と住まわせて貰ってます。」


二人はお互いに名乗り、握手を交わした。

にこやかに微笑み合う二人。


…あれ?おかしいな…。何だか寒気がする。

私はブルッと身体を揺らした。


端から見れば、にこやかな状況なのにも関わらず…違和感を感じる。交わされている握手からは、ギリギリと音がしそうな位に握られている。


もしかして…仲が悪い?


「放っときなよ。」


首を傾げる私に、背中から覆い被さってくるお兄様。


「お兄様?」


「男の世界は色々あるんだよ。多分。」


お兄様はそれ以上 詳しい事は話さずクスクスと笑う。


まあ…お兄様がこう言うからには…色々あるのだろうと、私は考えるのを止めた。

一人で考えた所で、答えも出ないしね。


「お父様達も待っていますし、先に進みましょう。」


私はミラとサイラスに声を掛け、お兄様と並んでお父様達の元に向かった。


「シャルロッテ!」

「シャルロッテ様!」

慌てて追いかけてくるミラとサイラス。


私は今、殺る気…間違えた。やる気でいっぱいなのだから邪魔をしないで欲しい。


私はそっと首元にあるネックレスを握った。





いつもの様に、最新攻略地点に設置した転移装置で、皆揃って転移をする。前回は地下八階だったから、そこまで飛んで徒歩で地下九階へと降りて行く。


歩きながらチラッと横目に見た、地下八階にあった井戸は見事に粉々に壊されていた。

これは間違い無く私の仕業である。


記憶に無いけどね!!テヘッ。


あの蜘…蛛の様な手が出てくる心配が無いから私的には凄く安心だ。


まあ、攻略したから出て来ないと思うけどね。……多分。

出て来たら…知らないよ?

また同じ目に合わせるだけだから。ふふっ。


「何考えてるか分かるけど、その顔は怖いよ?」

お兄様が私の頬をつつく。


ハッ!表情に出してしまうなんて、令嬢として失格じゃ…!!


「それも今更でしょ?」

更に頬をつつくお兄様。


「お兄様…私の心を読まないで下さい…。」


「仕方無いじゃない。顔に全部書いてあるんだから。」


むー。私は自分で思っている以上に、表面に出てる感情を、コントロール出来ていないのかもしれない。


頬をムニムニと動かしていると、サイラスと目が合った。


…何でそんな愛娘を見る様な…微笑ましい表情で私を見ているのだ…。


お前は私のお父様か!!

と、心の中で突っ込んでおく。


…はぁ。

小さな溜息を吐きながら、地下九階に足を踏み入れた瞬間。


「シャルロッテ。」

私をの半歩前を歩いていたお兄様が、ピリッと緊張した声で私を呼んだ。


私を隠す様に立ち塞がるお兄様。


私はそこから数秒の時間を要した後に、皆に万能結界を張り終えた。


ここはダンジョンの中だと言うのに、油断してた。

それでなくてもここは地下九階で、魔物がかなり手強くなっている階層だと言うのに。


…何が起きたのだろうか。


私はお兄様の腕の間から、恐る恐る顔を出してみる。

すると、そこから見えたのは…、


……鏡??


巨大な鏡が、地下九階層のど真ん中に存在していた。


…只の鏡に見える。

しかし、それだけで、お兄様達がこんなに警戒するだろうか。


「…【道化の鏡】だ。」


ミラが呟く。


道化の鏡?


「うん。マズイねコレは。」


お兄様からはすっかり笑みが消え去っている。

周りを見れば、ミラもサイラスも強張った表情を浮かべている。


私一人だけがこの状況を飲み込めていない。


「一度、退却するか?」

「ああ。その方が良いな。」

「作戦を練ってからまた来よう。でないと…死んでしまう。」


先頭にいるお父様達は、前を見据えたまま、相談をしている。


おいおいおい…。何か物騒な言葉が聞こえて来たけど…。

…何?これってそんなにマズイ物なの?


誰か説明して!!ヘルプ!!


「あれは【道化の鏡】と言って、なかなか現れない筈のな鏡なんだ。」


困惑している私に、お兄様も前を見据えたまま言う。


そんな面倒な鏡がうちの裏山に居たと?

やっぱりスタンピードが起こる可能性があるダンジョンは一味違うのか…?


【道化の鏡】なる未知なる魔物の詳細を知らない私は、未だに良く理解出来ていない。


すると、

「ま、まずい!逃げろ!!」

「否、もう間に合わない!!」

前衛にいるお父様達が急にざわめき出した。


何!?何が起こるの!?


分からないなりにも、後退姿勢を取ろうとした…瞬間。

目を開けてはいられない程の眩しい閃光が、私達一行を包み込んだ。


…っ!!


「「シャルロッテ!」」

「シャルロッテ様!」


お兄様達三人は、私を光から隠す様に抱き締めてくる。私はギュッと目を瞑り、正面のお兄様の袖口にしがみ付いた。


………。


目を閉じていても分かる程の眩しさが去った地下九階には、静寂だけが残る。


私はそーっと、恐る恐る瞼を開け、周りを見てみる事にした。私を正面から抱き締める様に包み込んでいる、お兄様の腕の隙間から見えたのは……。


……は!?


「シャルロッテ様!見てはいけません!!」


咄嗟に、私を後ろから抱き締めていたサイラスが、バッと自分の手で私の両目を塞いだ。
















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