お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

ブームの落とし前②

「おーい？」

呆然としたまま動かないミラの目の前で、手をヒラヒラと動かす。

「全く…もう、規格外過ぎ！」

呆然としていたミラが急に笑い出した。

…壊れた？

「壊れてないし。」

あれ？私…声に出したっけ？(汗)

「はぁ…可笑しい。ま、良いや。作るよ。」

ミラは目元を擦り涙を拭いながら、私の居る所へ歩いて来る。

…そんなに可笑しい事言ったかな？

「じゃあ、早速だけど…この魔石にシャルロッテのイメージを込めて。」

「あ…うん。分かった。」

若干の府に落ちなさを感じながらも、私は黙ってミラの言う事に従う事にする。

その場に座り込んで、魔石の上に右手を翳す。

頭の中にオーブンのイメージを膨らませつつ、そこからドライフルーツを作るに特化した構造を思い浮かべる。

ドライフルーツに必要なのは【乾燥】だ。でも、【焼き】の機能があっても良い気がする。他の料理にも使えるだろうし。

そして、これからのイメージが一番大事だ。

《私が作らなくても、このオーブンで作れば同じ様な効果が出る物になります様に…。》

それを心から願う。

すると珍しく、フッと魔力が抜けるのを感じた。

ん？

私は瞳を開けて首を傾げた。

両手をグッと握ったり開いたりして確かめるが…変わった様子も無いし、疲れてもいない。まだ魔力は充分に残っている。

不思議な感覚を感じつつ、イメージを込める作業は終了した。

「ミラー。終わったよ？」

ミラの方を見れば、ミラは私は以上に不思議な顔をしていた。

「ミラ？」

「シャルロッテ…。否、やっぱり何でも無い。」

ミラは途中で話を止め、私がしたのと同じ様に魔石の前に座り込むと、両手をその上に翳した。

「魔力が足りなくなりそうだったら合図するから、その時はよろしく。」

ミラはそう言うと、深呼吸をしてから目を閉じた。

私は近くでそれを見守る事にする。

ミラが手を翳した魔石は、グニャリと溶けて新たな形を受け入れる準備を始める。

溶けた魔石が大きな一塊になった後には、まるで生きているかの様にウネウネと動き回り、段々と私がイメージした形へと仕上がって行く。

何度見ても、新鮮で楽しい時間だ。

私はワクワクした気持ちで、成り行きを見守った。

それから一時間後。

結果的に、ミラが心配していた魔力切れは起きないまま、オーブンが完成した。

「出来…っ！？」

疲れた表情を浮かべるミラに、私はギュッと抱き着いた。

「ありがとう！！やっぱりミラは凄いね！」

私がイメージした通りに出来ている。

後は実際に試してみるだけだ。

「…はいはい。分かったから…離れてくれない？」

呆れた顔で私を押し退けるミラ。

「ごめん。つい。」

私はペロッと小さく舌をだして謝った。

…ミラの顔が少し赤かった様な気がしたけど、部屋の中が暑かったのかな？

そんなミラを多少気にかけつつ、オーブンの出来を試す為のフルーツを取りに行こうと部屋を出る。

「…！？」

扉の前には、トレーを持ったマリアンナが居た。

「シャルロッテ様、どうぞ。」

ニコリとトレーを差し出して見せるマリアンナ。

そこには、レモンに似た形でパイナップルの味のする【レップル】と、オレンジ色の杏の形をした葡萄味の【アーマス】が、一口サイズに切られた状態で用意されていた。

……。

私は予想外な展開に目を丸くした。

私が欲しい物が、どうして分かったのだろう…？

「…ありがとう？」

困惑しながらもトレーを受け取ろうとするが、マリアンナはトレーを持ったまま部屋の中に入って行った。

「シャルロッテ、早かった……えっ？」

初めて見たオーブンを興味津々で眺めていたミラは、思いがけないマリアンナの登場に驚いた様に目を丸くしている。

スタスタと部屋の中に進んで行くマリアンナは、トレーをテーブルの上に置いた後、扉の方へ歩いて行き、部屋を出ずに扉の横で控えた。

「マリアンナ…？」

一体どうしたのだろうか。

今までこんな事は無かったのだが…。

「お二人共、私の事はお気になさらずどうぞ。」

いやいやいやいや。

気になるから。

チラッとミラを見ると、ミラは肩を竦めて見せた。

好きにさせて良いと言う事だろうか。

うーん。

今までの状況から察するに…マリアンナは扉の外で私とミラの会話を聞いていたと言う事だろうか？

…何の為に？

そして、私の指示でも無いのに部屋に留まり続ける理由とは？

何となく…お兄様やお母様の思惑が絡んでいそうな気がするけど、あの二人の考えは私には理解が難しい。

考えても分からない事は…

考えない！！

と、言う事で、マリアンナに協力して貰い、床の上に直置きされたままだったオーブンをテーブルの上に乗せる。

そして、ミラとマリアンナに見守られながら、オーブンの扉を開けて、その中にフルーツの乗ったお皿を入れる。扉を閉めたらつまみを回してスイッチオンだ。

ミラとマリアンナは、オーブンの中をジーッと見ている。

うん、うん。オーブンの中って見てると楽しいよね！

因みにこのオーブンだが、扉は取っ手が付いており、上から下にパカッと開けるタイプである。ヘル○オのオーブンをイメージしてある。色は黒で、オーブンの右側にはつまみが上下に二つ付いている。

上のつまみが【乾燥】、下のつまみが【焼き】である。つまみを回せば時間設定が出来る。焼き上がりが自動設定なので、丁度良い具合いにオーブンが判断して焼き上げてくれると言うチート仕様となっている。

この世界に電気は無いので、後ろに魔石を入れられる様なスペースを作った。入れるのは勿論、【鳳来獣】の魔石である。

これで、電気要らずなオーブンとなった！！

イメージした私も私だけど…、これを作り上げられるミラだって充分に規格外のチートだと思う。

言ったら怒られそうだから、言わないけど…。

チーン。

お、色々考えている内に出来上がった様だ。

私はいそいそとオーブンの扉を開けた。

中からお皿を取り出せば、艶々とした、良い感じに乾燥しているドライフルーツが出て来た。

おー。これは良いんじゃない！？

「ミラ。鑑定してくれる？」

お皿をミラの前に差し出すが…。

「…………。」

返事が無い。

「ミラ……？」

ミラもマリアンナも同じ様に、お皿の上にのったドライフルーツを無言で見つめている。

「おーい？」

呼び掛けても、目の前でヒラヒラと手を振っても反応が返って来ない。

何か、今日はこんな反応ばかりな気がする。

ふむ…。

私はレップルの薄切りを二人の口に差し込んだ。

すると直ぐに、差し込んだレップルがスッと二人の口の中に吸い込まれて行った。

おお…。食べた。

途端に、カッと見開かれる二人の瞳。

「「…っ！！！！」」

悶絶するかの様にのたうち回る二人。

怖い…。

効果はともかく、味は普通のドライフルーツだった筈だ。そんなに悶える程では無いと思うんだけどな…。

私はそんな二人を一歩引いた所で見ながら、自分の口の中にもレップルを入れた。

「こ、これは…！！」