アイス②

さっきまで悲しそうにしていたアイスクリームの信者達は、アイスクリーム談義に花を咲かせている。


私を除いて。


…良いんだけどね。別に。

寂しいなんて思ってないんだからねっ!



………。


私は黙って作業を始めた。

先程、庭園で作った炭酸水とシーラの原液を混ぜ合わせて、シーラの炭酸ジュースを作る。

炭酸が抜けてる可能性があるので、一応『サンダー』を唱えて炭酸を加えておく。


氷を入れたグラスに、シーラの炭酸ジュースを入れてから、アイスクリームを一番上にすくって乗せる。

グラスの隙間にストローを差し込めば完成だ。


お兄様達が『無くなっちゃった』と騒いでたのは、あくまでも自分の器に入っていた分なのだ。

まあ、それもこれで終了だけどね。


「それ何?」

「飲み物の上にアイスクリーム?」

「「「うぉー」」」


チッ。気付かれたか。

流石、アイスクリームの信者だ。


「これはクリームソーダと言います。見た目の通りに、炭酸入りのジュースの上にアイスクリームを乗せた飲み物ですね。」


「飲んで良い?」


「はい。どうぞ?」


スプーンをお兄様に差し出す。


一つしかないクリームソーダに群がっている男達の光景は異様だ…。


順番に、クリームソーダを味わうお兄様達。


その中でも、炭酸を初めて飲んだ料理人さん達の興奮は凄かった…。


『炭酸』か『アイスクリーム』かで分かれて、バトルを始めたのだ。


別に美味しければどちらでも良いと思うのだけど、そうは簡単にいかないらしい。


面倒くさいな…。


「アイスクリームを果物やケーキ等と一緒に盛り付けをしても美味しいですよ。」


と、別の話題を提供してみれば、話題はそちらへと移った。


ふふふ。チョロいな。


『彩りの為にアレを乗せよう』『いや、アレも捨てがたい』等々、話題に花が咲いた。


うんうん。美味しい物の話は楽しく…ね?



今の所は魔術が使える人が居ないと作れない炭酸水だけど、三人の料理人の中のノブさんと言う料理人さんが魔術を使えたので事なきを得た。

炭酸水の作り方と、アイスクリームの作り方を料理人さんに教えてあげた。


ふふふ。

これでアヴィ家のデザートは充実する筈だ。

後は、料理人さん達のアレンジ次第!

美味しいデザートをお任せしますよ!!



「「シャルロッテ。」」

「はい?」

「「無くなっちゃった…。」」

「……。」


残念ながら…二人にそんな悲しい顔をされてもアイスクリームは全て完売です。


「また今度作りますから…ね?」


アイスクリーム信者となった、我が家の料理人さん達が、間を置かずにデザートとして作ってくれるのは目に見えるし。

また直ぐにお兄様もアイスクリームを食べれる筈だ。


「…うん。」

渋々と頷くお兄様。


そんなお兄様の気を反らす為にも話題を振る。


「クリームソーダの味はどうでしたか?」


「美味しかった!」

「シーラのジュースに溶けたアイスクリームも美味しかったよ。」


「それは良かったです。」


楽しそうな顔で感想を言う二人を見て、私はふふっと笑った。


「そう言えば、炭酸水やアイスクリームといい…シャルロッテは、どこからその知識を得たのかな?」


リカルド様がふと思ったらしい、疑問を投げ掛けて来た。



…その質問はマズイ。


和泉の事を話す訳にはいかない。

リカルド様には、いつか全てを話せれば良いと思ってはいるけど…。


それは今では無い気がするのだ。


どうしようかと考えていると…。


「シャルは色々な国の料理本や童話が好きなんだよね。」


お兄様がそう言いながらチラッと私を見た。フォローしてくれるらしい。


「その本の中からヒントを得たんじゃない?シャルは食いしん坊さんだからね。」


「はい。美味しそうだなーって思いながら見ていた本がありましたので、それを参考に…。」


って、コラ!!

『食いしん坊さん』って、食べ物の事しか考えて無いみたいじゃないか!!


…ま、まあ、間違ってはいないけど。

私は美味しいお酒と食べ物には目がないのだから。


だけど!

リカルド様の前で言う事ではない!!


お兄様は目を細めて微笑んでいる。


…騙された!!

フォローなんてする気は無かったな?!


「お兄様!」


真っ赤になってお兄様に突っ掛かる私を見て

、リカルド様はクスクスと笑った。


「シャルロッテは可愛いらしいね。今度、どんな本なのか教えて?」



『可愛いらしい』…?!

リカルド様に可愛いらしいって言われた!!


小躍りしそうになるのを懸命に堪える私。





その時、ガチャっと音を立てキッチンの扉が開いた。


「…あれ?何してるの?シャルロッテ。」


「ミラ?それはこっちのセリフだよ!」


私はキッチンの入口に立ち止まっているミラに駆け寄った。

髪を短くしたミラは今日も女の子の様に可愛い。


「ミラは…実験用の氷を貰おうと思って。」

「実験?何か作るの?」

「うん。ちょっとね。」

「あ、そうだ!ミラにお願いしたい事があったんだ。」

「良いけど……良いの?」


ミラが指差す先は、お兄様とリカルド様。


二人は何やらコソコソと話をしているみたいだけど…リカルド様だけは心なしか不機嫌そう…?



私はミラを引っ張って無理矢理、リカルド様の前に連れて来た。


リカルド様の視線を感じて、俯くミラ。

ミラは自分の赤い瞳を、他人に見せるのを快く思ってはいないのだ。


「リカルド様。彼はミラ・ボランジェールです。一緒にここに住んでいます。」


ニコニコと、リカルド様にミラを紹介をする。


「リカルド・アーカーです。」


そう言って、手を差し出したリカルド様はいつも通り優しく微笑んでいた。


不機嫌そうに見えたのは私の気のせいだったのかな?



「…ミラです。ボランジェールの名は捨てました。」

視線を反らしながらも、差し出された手を握るミラ。


震えてる?

ミラを掴んでいた私の手に微かな振動が伝わってくる。


やっぱり見られる事が怖いのかな…?




「シャルロッテ。」


リカルド様が微笑みながら、ミラの腕を掴んでいる私の手をそっと外した。


「また直ぐに君に会いに来るから。」


そしてその手を少しだけ引いて、自分の腕の中に閉じ込める。


…!?

り、リカルド様に抱き締められてる!?


「余所見しちゃ駄目だから…ね?」


耳元で囁かれる言葉に、私は首を上下に大きく頷いて答える。


「約束。」

クスッと笑った声が聞こえたと同時に、チュッと頬に柔らかな感触がした。


これって…!?


真っ赤になって、口をパクパクさせている私を解放したリカルド様は


「じゃあ、またね。」

私の頭をふわっと撫でた。


「ルーカスもミラもね?」


お兄様とミラに笑い掛けると、そのまま帰って行った。



真っ赤な頬を押さえたまま、ズルズルとその場に座り込んでしまいそうになる私をお兄様が抱き止める。


「牽制か。リカルドもやるなぁ。」


微笑みを浮かべているお兄様は凄く楽しそうだ。


ミラはと言えば…呆然と固まって動けずにいる。



…これって…


ヤキモチ…みたい?


リカルド様が…?

えっ…?!



自分の容量を超える出来事に、オーバーヒートを起こした私はそのまま気絶をした。


気付いたら次の日でした。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る