ブームの落とし前①

徐々に悩みや憂い事が無くなって来たせいか、最近は毎日が充実している。


お酒が飲めないストレスはあるが、お母様からお願いされたドライフルーツ作りをしたり、ドライフルーツを作ったり、ドライフルーツを作ったり、ドライフルーツを作ったり…。


って…あれ?何か最近、ドライフルーツしか作ってないんだけど…。


ピチピチになったお母様を、目敏く見つけたマダム達せいで、巷は『ドライフルーツブーム』らしい。

ドライフルーツの作り方を知りたいと言う人には、作り方のレシピをあげてるし、誰でも作れる様になっていると思うのだけど、それでは駄目らしい。

何でも私が作った物はとの事だ。

何が違うかと言うと、それは効果の出方だと言う。私の作ったドライフルーツには即効性があるらしいのだ。

フルーツの種類にもよるが、食べた瞬間からお肌がピチピチになったりし、しかも一度食べただけで、一週間も効果が持続するらしい。


…これはもしかしなくてもチートさんのせいなんじゃ…。

私はゴクリと唾を飲み込んだ。


お母様が製造元(私)の事を必死に隠してくれているから、これでも抑えられている方なのだと言う。

それって…バレたら一生、マダム達にドライフルーツ作りをさせられる可能が高いんじゃないだろうか…。


女の人怖い…。


私は身震いしながら自分を抱き締めた。


ここに来て、やっと自分の規格外な能力を認識した気がする。


マダム達の暴動を起こさない為にも、ある程度のドライフルーツを作り続けなくてはならないのだそうだ。


チートさんのお陰で大変では無いけど…こんな不自由は嫌だ。


…と、言う事でここにやって来た。



「今日はどうした訳?」


訝しげにこちらを見上げるのは、自室の机に向かい、魔道具開発をしているミラである。


「…えーと、ミラに作って欲しい物があってね。」


モジモジしながら告げると、ミラは深い溜息を吐いた後に椅子から立ち上がった。


私と並ぶミラを見て違和感を覚える。


あれ?


「…何?」

ミラは不機嫌そうに眉間にシワを寄せて、こちらをジッと睨む。


「ミラ、背が伸びたんだね?」

少し前は同じ位だったのに、いつの間にか少しだけ抜かされていた。


「そりゃあね。成長期だもん。」

ミラは呆れた様な視線を私に向ける。


「そっか…。ミラは男の子だもんね。」


「ってか、何なの?何で今日はそんなに暗いわけ?怖いんだけど。」


…失礼だな。

人がしおらしくしてれば、怖いとか言って。


「んー。自分の迂闊さが身に染みてね。」


「…今頃?」


「今頃って何!?」


「散々勝手にやる事やっといて、今?話し聞いてあげるからソファーに座りなよ。」


ソファーに誘導され、ミラと向かい合う形で腰を下ろした。


「お茶飲む?」


「あ、私がやるよ?」


「否、ミラがやるから良い。今のシャルロッテに任せたら凄い事になりそうだし。」


ミラは苦笑いを浮かべ、近くにあった紅茶セットを持って戻って来た。


「今日は少し暑いから、アイスティーにして貰ったんだ。」


ミラはそう言いながら、手慣れた手つきでグラスに氷を落とし、アイスティーを注いでストローを挿す。


「はい。」


「ありがとう。」


アイスティーを受け取った私は、そのままチューっとストローを吸った。

冷たいアイスティーがとても爽やかで、心地好く感じる。


「それで?」


ミラは自分のグラスを傾けながら尋ねてくる。

話を促された私は、ドライフルーツの件をミラに説明した。




「あー…あの『幻のドライフルーツ』は、やっぱりシャルロッテの仕業だったんだ。」


ミラは苦笑いを浮かべた。


「…知ってるの?」


「噂だけはね。」


「そっか…。実はこれなんだ。」


私はポケットの中から、小さなビンに入れられた紫の葡萄の粒の形をした【モスク】のドライフルーツを取り出した。


すると、ミラは直ぐにジッと瓶を見つめ始めた。

鑑定をしているのだろう。


「…また馬鹿みたいなの作ったね。」


瓶から目線を外したミラが、呆れた様に笑いながら私を見た。


「どう…なってるの?」


「ええと…。《【モスク】のドライフルーツ。

疲労回復、高血圧予防、便秘解消。効かぬなら効かせて見せようホトトギス。超即効性。これで貴方は老い知らず!今までの貴方にgood-bye!!》?」


oh…。

いつものことながら…何と言う事だ。


「ねえ、ホトトギスって何?」


「うん。そこは気にしないでくれると助かる…。」


私は遠い目をした。

どこか遠い所へ行きたいなー。


「あのさぁ、現実逃避してないで、ちゃんと現実見なよ。」


ぐっ…正論が刺さる。


「作るんでしょ?何だか分からないけど。」


本来の目的を思い出した私は、改めてミラを見た。

ミラはきちんと私を見てくれている。


「あのね。オーブンを作りたいの。」


「オーブン?」


「ドライフルーツを作る機械みたいな物なんだけど…私がイメージしたのを形にしたら、さっきミラに視て貰ったみたいな効果って付くのかな?」


「んー…どうだろ?完成してみないと分からないなぁ。」


「…そっか。それが作れたら問題は解決すると思うんだよね…。」


「大きさは?」


ミラに聞かれて私は考える。

始めは和泉の世界のオーブン位の大きさの物を考えていたけど、もっと大きい方が良い様な気がしてきた。


「うーん…。一メートル位の箱型?」


「そんなに大きいの欲しいの…?魔力足りるかなぁ。」

ミラは困った様に頭を掻いた。


「足りなかったら、私のあげるよ!」

ケロッと言う私をミラはジト目で見てくる。


「そうだ。…シャルロッテは規格外だった。」


「規格外なのはミラも一緒だよ!」


「お願いだから、一緒にしないで。て言うか魔石を大量に使う事になるけど大丈夫?」


「うん。お母様にお願いしたら、お父様が沢山くれたよ。」


私はソファーから立ち上がり、部屋の隅の邪魔にならない所で、斜め掛けにしていた小さなポシェットをひっくり返した。


そこからはポシェット容量とは、とても思えない程の量の魔石がジャラジャラとこぼれ落ちて行く。


「ちょ…それ…異空間収納バッグなの?!」


ミラは目を見開いて、魔石が落ちて行く様を見つめている。


「うん。最近、ミューヘン辺境伯から貰ったんだ。」


サイラスの件に巻き込んでしまった、お詫びだそうだ。他意は有りそうだが…使える物は貰う主義だ!!

何てね。お兄様が『貰っておいたら?』と言ってくれたので、喜んで頂く事にしたのだ。


パッと見は白いレースの付いた可愛いポシェットなので、普通に持ち歩く事も可能なのだ。

異空間収納バッグはミラに作って貰おうと思ってたのに、予想外な所から頂いてしまった。


「辺境伯とも知り合いなんだ…。」


「んー。成り行きでね。」

呆然としているミラに、苦笑いで返した。


「成り行きでって…。」


仕方無いじゃないか。向こうからやって来たんだから。


そうこうしている内に、最後の魔石がパラッと落ちる。


因みに、このポシェットだが、欲しいと思った物だけを取り出せる仕組みなので、こうして逆さまにしても他の物は落ちて来ないと言う優れ物だ。


「この位のあれば足りる?【ほうらいじゅう】の魔石だってお父様が言ってたよ。」


【鳳来獣】とは、炎を纏った鳥の様な魔物である。業火の如き炎を纏った魔物の魔石なら、オーブンの様な物に使えるだろうと言うのでこれにした。



唖然とするミラ。


…あれ?何か変な事言ったかな?

私は首を捻った。

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