ランチ①

庭園の隅にあるテーブルセットは、小さな造りとはいえ、ベンチシート式になっている為、身体の大きな大人でも四人位は普通に座れます。

そこに座るのが、華奢な十代前半~半ばの子供だったら、更に余裕だよね?


そして、二人で利用するなら、大多数のひとが向かい合った状態で使うよね??


な・の・に!!


お兄様は私の隣にピッタリくっ付いて座っています。


ま、まあ…この際、隣に座るのは良しとしよう。


でも、ピッタリくっ付いて座る必要ある!?



隣に座らなくても、他にも空いてますよ?

その方がゆっくり食べれますよー?


と、いう非難混じりの視線を必死の抵抗として向けてみるものの…。


「ん?食べないの?美味しいよ。」


お兄様は私の視線を全く気にする事無く、本日のランチのサンドイッチをもぐもぐ食べている。


チラッと横目で見ると、分厚いハムにレタスやチーズ、卵といった食材が、ライ麦パンの様なパンに挟まれ…。


…。

これは絶対に美味しいやつだ…。


「…食べます。」


サンドイッチの誘惑に屈した私。


気を取り直して、マリアンナが持たせてくれた自分のランチボックスを開ける。


中身はお兄様のとほぼ一緒で、私の方だけ大好きな木苺のジャムのサンドイッチが入っていた。

これは最後に食べよう!そう決めて、先ずはと、ハムサンドに手を伸ばし口に運ぶ。


ちょっとだけ、ピリッとする辛子入りのバターの風味の後に、チーズのまろやかさや燻製の香りが残るハムのジューシーさ。

しゃきしゃきのレタスに、刻んだ玉葱が良いアクセントとなり、それをふんわりモチモチと包み込んでいるパンとのバランスが絶妙過ぎる。


流石、公爵家のコックさん。素晴らしい。



因みに、この世界の料理は、日本に居た時の味と余り差がない。

食材や調味料が豊富なのだろう。


異世界転生系の小説だと、ご飯が美味しくなくて、奮起して美味しいご飯を作り上げるっていうのが多かったから、何もしなくても美味しいご飯が食べられるのは幸せなのだろう。


和泉の時は一人暮らしだったし、料理はそれなりに出来た。

但し、それは調味料が存在していた日本だからこそ出来た事だ。

マヨネーズ位は家でも作った事があったけど、醤油とか味噌等々の調味料は私には作れないからね。

ご飯の不味い世界に生まれ変わってたら、一生そのままのご飯を食べ続けるしかなかったと思う。


今のままでも不満は無いのだけど…

我が儘を言えば、お米が欲しい。


和泉は飲まなかったけど、お米があればお酒が作れる。


いっそのこと私でも飲みやすい日本酒とか作りたいな…。



目を閉じ、うっとりとお酒に思いを馳せていると…


「楽しそうに食べてるね。」




…はっ!?

そう言えば…お兄様の存在を忘れてた…。


「ねえ、何を考えていたの?」


お兄様は既にサンドイッチを食べ終えていた。片手で頬杖を付き、隣に座る私をジッと見ている。


「ぐっ…、けほっ。…美味しいサンドイッチだな…と思いながら…食べてました。」


サンドイッチが変な所に入って苦しい。


「大丈夫?」


お兄様は苦笑いを浮かべ、私の背中をトントンと叩いてくれる。




何を考えていたか?

言えません…。


「はい。コレ飲んで。」

お兄様が私に水筒を差し出してくれる。


「…っ、ありがとうございますっ!」


それをありがたく受け取って、口を付けた。


コクン。

ふわっと口に広がるアイスティーの香り。

甘過ぎず、苦くもない。私好みの丁度良さ。


喉の詰まりが解消されてホッとする。



そこへ…


「シャルロッテ、【ニホンシュ】って何?」


お兄様の爆弾発言 投入。



ぶっ…!

今度は、アイスティー吹き出しそうになる。


な…なななっ。何でそれを!?


持っていたハンカチで口元を拭う。


「口に出てたよ?」


お兄様は少し首を傾げ、ニコッと笑った。

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