再起
「よし、またせたな、もう大丈夫だ」
少し休んで疲労が回復した哲郎は、立ち上がってジェームズへ視線を向ける。
「いや、構わない。その間に周囲を見ておいた」
哲郎のそばへ戻ってきたジェームズが特に気にした様子もなく答える。
「……で?どうだった?」
哲郎は、自分のスキル使用によるデメリット、疲労状態中何もしないのもあれだからというジェームズの申し出で、周囲の索敵を任せていた。
オリジナルは現在、ステージ3の翼竜形態となり、猛スピードで残りの魔法陣周回に集中しているだろうから、近くに魔法陣がないこの辺りは安全。故に比較的自由に動き回れるのだという哲郎の予想。
それを信じてこの世界に来たばかりのジェームズは、近くに何か使えそうなものはないか、それを探していたのだ。
「大体は哲郎の言った通りだ。時々奴の気配はしたが、誰かが追われている様子もなく、細かく探し回ることもなく決まったルートを周回しているようだ」
誰か、と言ってももうカルロスはやられてしまい、残るアドルフもカルロス救助の際、カルロスを食ってステージ3になったばかりのオリジナルに襲われていたが、なんとか逃げ延びたようだ。
かなりのダメージは負っただろうが、一人一つカルロスからもらった回復アイテムで既に治療しているだろう。
アドルフのことはひとまず放っておいて大丈夫と判断し、今はこちらの優先事項に集中することにしたのだ。
「近くに魔法陣は無いようだが、かわりにロッカーがあった」
そしてジェームズはその手に持ったものを哲郎に見せる。
「おお‼︎」
そして哲郎の目が輝いた。
「アーティファクトが一つ見つかった‼︎」
ジェームズが持つのは長さ20センチくらいの懐中電灯に見える重々しい黒い金属製の、棒状のものだ。
「これは哲郎が持っていてくれ」
それを哲郎に手渡しする。
「ありがとう‼︎これは俺向きの武器だ‼︎」
たいそう気に入った様子の哲郎。
手にとって確信したらしい哲郎は、柄についたなにやらスイッチのようなものを指で押す。
パチパチ‼︎
すると電気が走る音とともに、棒状の光が伸びる。
長さ約2メートルほどに伸びたそれはアーティファクト、名を『ライトニングブレード』という。
見た目通り、光の刃で敵を切り刻む武器だ。
サムライハートに響いたのだろう、満足そうに頷く哲郎。
そしてもう一度スイッチを押すとスッと光は消え、元の懐中電灯に戻る。
これはジェームズでも一目で哲郎向きの武器だと分かった。
「隠れたりチェイスに使えそうな場所も頭に入れておいた。あとは作戦を立てて奴を倒しここから出る‼︎それだけだ‼︎」
ジェームズもこの少しの休憩時間に整理がついた様子で、あの恐ろしい化け物に立ち向かう覚悟を決めたようだ。目が違う。
「ああ‼︎そうと決まればアドルフと……」
合流と言おうとした哲郎が黙る。
「……どうした?」
「いや、アドルフが死んだ」
哲郎がジェームズを見て言う。
「……そう、みたいだな」
まるで鏡を見るみたいに自分を見ながら、ジェームズも頷いた。
哲郎のスキル、『視界共有』の発動条件は他の生存者の死亡だ。
今このステージにいる生存者はジェームズ、哲郎、アドルフの3人だった。
それで哲郎のスキルが発動したということは、つまりはアドルフが死んだというこの上ない証明になるというわけだ。
「……厳しい戦いになりそうだな」
哲郎がボソリと呟いた。
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