休憩

ジェームズと哲郎は休んでいた。


「哲郎、こんなことしていていいのか?」


この状況を作り出すために死んでいったカルロスに悪い気がして少しも休まらないジェームズは、哲郎に問いかける。


ちなみに今二人は一つ目の魔法陣を書き換えたことで広がってできたエリアにいる。


二つ目の書き換えられた魔法陣のすぐ前だ。


「ああ、今はこれでいい」


空を見上げて言う哲郎。


「いいか?今俺達は無理に動かない方がいいんだ」


ボーっと、空を見つめ続ける哲郎。


「なぜだ?ここまでくればこのまま一気に三つ目の魔法陣まで行けるんじゃないのか?」


あと一つでいいのだから、このまま三つ目の魔法陣も書き換えられればオリジナルと戦わなくても脱出までいけるのではとジェームズは考えたのだ。



「いや、残念だがそれはできない」


しかしそれを即否定する哲郎。


「なぜ?」


納得できないジェームズ。


それもそうだ。


魔法陣はあと一つ書き換えられれば脱出できるのだ。

一つ書き換えにかかる時間は約1分ちょっと、


こうしているうちにも、さっさと書き換えに行けば、今にもこの地獄は終わるかもしれない。

早く解放されたくて焦るのも仕方のないことだ。


だが哲郎はあくまで冷静に考えていた。


「今最後のエリアが解放されて、残りの魔法陣は全部で3つになった。しかし、ヤツもまたステージ3になり、翼竜となった」


考えながら淡々と話す哲郎。


「翼が生えたやつは、物凄いスピードで魔法陣を周回、視覚強化で見つけるのもあっとゆう間、とてもじゃないが魔法陣の書き換える時間はないんだ」


魔法陣の場所は三つとも近く、高速で周回するオリジナルは2〜30秒でできる。



仮に誰かが時間稼ぎしようとしても、メディックが死んだ今、回復なしで戦うのは無謀。


全員リーチ、


回復手段がない今、無理に魔法陣を書き換えるより、動きを制限されている今こそ武器を揃えて奴を倒す準備をした方がいいのだろうと言うことだ。


「アドルフもなんとか生きてるみたいだし、オリジナルは魔法陣周回軌道以外にはまずいかない、ここは焦らずに、今のうちにこちらはアーティファクトを見つけて奴を倒す用意をした方が得策というわけだ。我慢してくれ」


つまりは二つ目の魔法陣を書き換えたのも、すべては少しでもオリジナルを追い詰めて動きを固定化させるため、


生存者を逃したくないのはこの世界のモンスターの本能らしい。


だから、脱出までリーチの今、オリジナルは血眼で魔法陣を周回しているのだとか。


そこまで言われれば流石に納得せざるを得ないジェームズは静かにうなずく。


「わかった。で、それは分かったが、なぜ動かない?」


アーティファクトを探すなら探すで移動は必須なはず、


動かない理由がわからない。



「……これは個人ごとなんだが」

すると哲郎は言いにくそうに口を開いた。

「疲労状態なんだ。今」

「……疲労状態?」

聴き慣れない単語に戸惑うジェームズ。

「スキルの中にはなんらかのデメリット効果があるものがある」

哲郎は相変わらず空を見上げて微動だにしない。


「それも、強力なスキルほど大きなデメリットがあるんだ」


哲郎は自分の目を指差すと、


「例えば俺の目、使うと暫く視力がガタ落ちする」


つまり、

さっき使った『視界共有』のスキルの反動で、視力が落ちたというわけだ。


全快の状態でも歩き回るのは慎重を期すこの世界で視力がないのは確かに危険だ。



「なるほど、そうとは知らなかった。すまない」

「いいんだ。こうして暫くじっとして遠くを見ていると早く治るから」


だから休憩だったのだ。


「あと30秒もすればなおるから待ってくれ」


「わかった」


そうと決まればと、ジェームズもその場に腰をおろした。

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