最悪のタイミング

『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎』


さっきよりも大きい、腹の奥まで響くほどの重い奴の咆哮が轟いた。


「進化……したな、ありゃ」


カルロスが、めずらしく歯切れ悪く言う。


「今話してた、ステージが上がったってやつか?」


ナウすぎる話題に若干戸惑うジェームズ。


「ああそうだ。ってことは……」


カルロスが何か言おうとしたところで、


例の人型が二つ見えるようになった。


二人がダウンして、巣にリスボーンしたのだろう。


ちなみに"ダウン"は、敵に殺されるか、食われるかした際の"死"を意味するそうだ。


殺されたとか食われたとか、不愉快になるからそう言うようになっのだとか、


一つはさっき工場からこちらへ来る際通り過ぎた場所だ。


そしてもう一つは、


「チッ、アドルフのヤツ……」


カルロスが舌打ちする。


それもそのはず、


もう一つは、最初にアドルフを助けた、あの地下室だったのだから、


カルロスの様子から、おそらく地下室の方がアドルフなのだろう。


それにある疑問が浮かんだジェームズ。


「進化してから二人がダウンするまで早すぎないか?二人同時にやられたように見えたが……」




進化してから二人がダウンするまでの間が早すぎたと、違和感を感じたのだ。




「……進化する際、辺りに高エネルギーが放出されるんだ。それに巻き込まれると大ダメージを受ける。」




ボソッと答えを述べるカルロス。


「そんな……」

驚きを隠せないジェームズ。


ずっと戦っていたのだとしたら、進化した時の大ダメージには耐えられないでダウンしてしまうようだ。




「だがどうしてアドルフが巻き込まれているんだ?ついさっき別れたところなのに」


確かにバケモノと、それと戦っていた哲郎はゆっくりだが、こちらへ向けて距離を詰めてきていた。


とはいえ、


ここからはそれなりに距離が離れている。


何の手がかりもなく、この広いフィールドの中、ピンポイントで移動する二人を見つけ出すのは困難というものだろう。


「何故、ついさっき別れたところなのにアドルフがあんなところにいるんだ?」


不思議に思うジェームズ。


それに対して、カルロスは冷静に答えを述べる。


「俺たちには難しいかもな、でもあいつのスキルならできるんだ」



「スキル?」


また聞きなれない言葉だ。と、ジェームズはカルロスに説明を求める。


「そう、今の俺たちにはスキルという不思議な力が備わっているんだ。」


カルロスは指を二本立てる。


「2つだ。主に肉体強化系と特殊能力系とがある。その中で二つが俺たちには備わっているんだ」


自慢げに語るカルロス。


「肉体強化系はそのまま、己の身体能力の一部を強化して、探知や戦闘時に助けになるスキル、特殊能力系は、説明不能な超常現象を起こすことができるトリッキーなスキルなんだ」


特殊能力系はレアで、持ってるやつは少ないがな、と、補足を加える。


その後の説明を聞く限り、どうもスキルというのは、ここへ来る前の自分がしていたことが反映されて、それがスキルとして発現するのだそうだ。


そして、持っているスキルの使い方は勝手に身についていて、自然に使うことができるようだ。


「ちなみに、 アドルフは探知系のスキルで"聴覚強化"を持ってるんだ」


"ソナー"というスキルらしい。


「聴覚……耳か?」


さっき、ジェームズは自分よりはやく敵の居場所を見つけていた時の、アドルフの行動を思い出して納得していた。


さっき、アドルフは目をつぶって耳を澄ましていた。

つまりはまだ遠い位置にいる敵を、音で探っていたのだろう。


「どんな精度かは知らんが、俺の感覚では、そこらのレーダーよりよっぽど高性能だな、映像で見えるらしいし」

「それは……すごいな」


本当にすごいとジェームズは思う。


そのスキルがあるなら、たしかに圧倒的に早く敵を見つけることができるだろう。


敵の発見が早い理由に納得がいったジェームズ。


「しかし、さっきと違って随分と暴れているな」


アドルフが、おそらく巣の中をらか走ったり、何かを振り払おうとしている動作をしていたりしているのが気になったジェームズは、カルロスに問いかける。


「ああ、それはだな〜……」


頬を書きながら、言いにくいことをいうみたいに答えを言うカルロス。


「3回……俺たちがリスボーンできるのは3回なんだ」


いきなり突きつけられる"死"の回数制限。

ジェームズは、死んでもすぐ生き返るとか軽く言われていたからどこかしらそういった感覚を軽く捉えて始めていた。


が、




「なんだと?」


急に緊張が走る。


「奴らの巣にいたあの甲殻類……覚えてるか?……俺たちは"クリッピー"って呼んでるんだが、あいつらは基本的に巣にこもって、バケモノにダウンさせられた俺たちがリスボーンして来るのを待っているんだ」


淡々と語るカルロス。


「それで、1回目は獲物の様子見、2回目は軽い攻撃……そして3回目は、容赦なく食いに来る。」


指を一本ずつ立てて説明する。


「アドルフは2回目、軽い攻撃を受けている。」


指を一本戻すカルロス。


「大丈夫なのか?」


「ああ、ああやって抵抗しているうちはな……だが、あまり時間がない、クリッピーは気が短いからな、一回目でもしばらくしたら攻撃をはじめるし、攻撃もだんだんと強くなる。放っておけば回数関係なく食われて終わりだ……」



カルロスは、忌々しそうに顔を歪めて語る。


「……なら助けないと」


「……そうなんだが」


カルロスはある方向を指差して顔を俯かせる



「来る……」


それはちょうどさっき二人がダウンしたと思われる方向。


ドクン……ドクン………


その方向から、聞きたくない心音が聞こえはじめる。


『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』


そして、間も無く、進化してステージ2となったオリジナルが姿を現した。

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