天敵襲来
寂れていた南門に、数多の作業音が鳴り響く。
作業音を生み出しているのは、サンタのような髭を生やした、背の低くていかつい亜人たち、ダークドワーフ一族だ。
いつまでたっても南門をそのままにしておいては一向にそっち方面の復興が進まないことに気付いた俺は、南門の壁に要塞的なものを増設して監視&迎撃態勢を強化することにした。
作業するにあたり誰の手を借りようかと思い悩んでいたところ、先日知り合った生活雑貨店「ゴブリンゴ」の店主、ゴンの顔が浮かんだ。
そこでゴンを通じてダークドワーフに要塞の建設を頼んでみたところ、割とすぐにオッケーという返事が来た。
そんなわけで今俺は、南門で作業に当たってくれているダークドワーフたちの様子を見に来ている。作業をしている間にチート系の襲撃があっては大変だからというのもあるけど。
「急な頼みだったのに、聞いてくれてありがとな」
「いえいえ、これからもどんどんお声かけくだせえ」
ダークドワーフたちの作業はさすがの速さで、朝からやっていることもあり既に増設部分の輪郭は出来上がっている。
ゴンの案内で中に入れてもらい、壁に開けられた穴から街の外を眺めてみた。
「これはいいな」
「魔王様にここを使っていただければチート系主人公は手も足も出ませんぜ」
ソフィアから聞いた話だと、英雄プロージョンを使うのに標的との間に遮蔽物があってはいけないという制限はないらしい。
だから何かと言えば、この中からならチート系たちに自分の姿をほとんど晒さないまま一方的に英雄プロージョンを撃ち放題というわけだ。
オーソドックスというか策という程のものですらないけど、かなり有効な方法だろう。何よりチート系たちが外にいる状態で迎え撃てば、建物の損壊とかを気にせず今まで以上に好き勝手に暴れられる。
逆に何で今まで門を要塞化してなかったんだろうな。ファンタジーものとかだと常識だと思うんだけど。
その後は内部を見て回り、また外に出て要塞が出来上がっていく様子を眺めていると、壁の上にいたダークドワーフが突然叫び声をあげる。
「襲撃だ!襲撃ー!!チート系主人公たちが来たぞおおおおおお!!!!」
俺が急ぎで要塞内部に入り込んで穴から街の外を見ると、そこそこの数のチート系がこちらに向かって来ているところだった。
さすがにまだ要塞を作っている話は人間側には流れていないので、チート系たちは街に入るまでは安全だと油断をしているらしい。ここは俺の出番だ。
穴からチート系たちを覗き込んでそちらに向かって手をかざす。
「『英雄プロージョン』!!!!」
周囲の地面や草木と一緒に爆散するチート系主人公たち。彼らを主人公としたそれぞれの物語は、ここで終わりを迎える。
土煙が立ち込めて俺たちの視界を遮るものの、生き残っているチート系はいないだろう。誰もが勝利を確信したのか、歓声が沸き起こった。
「さすがは魔王様だぜ!!」
「魔王様万歳!!」
けど、その歓声は徐々に止むことになる。
街の外一帯を覆っていた土煙が晴れたその先には、一人の少女が毅然とした姿でそこに立っていた。
日本からの転生者であることを象徴するような黒髪をポニーテールにしていて、その可憐さに似合わない騎士然とした鎧を着こんでいる。大胆不敵といった笑みを口元に湛え、強い意志を宿した瞳はどこか楽しげに欄々と輝いていた。
少女は、壁に空いている穴から顔を覗かせている俺の目を捕らえて叫ぶ。
「ふふふ……このチートな威力の攻撃スキル!あなたが噂のまお」
「『英雄プロージョン』!!!!」
轟音と共に立ち上る爆炎。
再び土煙が街の外一帯を覆うも、それが晴れた先には数秒前と全く変わらない姿で立っている少女がいた。
「ちょっと!人の話を聞きなさいよ!とりあえず、そんなところにいないで私の前に出て来なさい!」
「しょうがねえな、ちょっと行ってくる」
「魔王様、よろしいんで?」
「ああ言われて黙ってるのも何だし、挑発に乗ってやろうと思う。お前らは要塞の中から出てくるんじゃないぞ」
「またまた~!可愛い女の子だったから直接会って話したいだけじゃないんですか~!?」
「うるせえぞソフィア!」
「わかりやした。ご武運を」
要塞の下へと降りて門の外へと移動する最中、ソフィアにあの少女について聞いてみる。って言っても、ある程度予想はついているんだけど。
「ソフィア、あれはどういうチートだ?」
「正に以前お話した様な英雄さんの天敵、HP限界突破チートです!」
「やっぱりか。まだ英雄の波動をかけてないから、ダメージ無効化チートとかの可能性も考えてたんだけど」
「それも持ってますよ!」
「えっ」
「HP限界突破チートだけでなく、ノックバック無効や状態異常無効、ダメージ無効化チートも持っています。いわゆるタンカーとしてのエキスパートです」
「さっき他のチート系と一緒に吹き飛ばなかったのはそういうことか……」
ノックバック無効、と言うのは早い話がのけ反ったり吹き飛んだりしなくなるということだ。どんな攻撃をその身に受けようとも、びくともせずに敵に向かって突き進む戦士を想像してもらえばわかりやすいだろうか。
「大丈夫です!そんなチートを解除するための英雄の波動ですから!ただ、英雄の波動や英雄ダウンでも限界を突破したHPを下げることは出来ないのと、相手のスキル構成までは私にはわかりませんので、油断はしないでくださいね!」
「了解。ありがとう」
耐久に関するパッシブスキルも一通り習得してるから攻撃チート持ちでない限り相手の攻撃を受けてもそう簡単に死ぬこともないはず。どうやらゾウリムシに転生させられる心配はなさそうかな……。
街の外に出ると、さっきと全く同じ立ち姿で待っていた少女と相対する。
「待たせたな」
「あなたが噂の魔王ね!私はリカ!アリスって子を返してもらいに来たわ!」
「そりゃ無理だ。返して欲しければ俺を倒せ!」
「わあ~!出ましたね!悪役のお決まりのセリフ!」
ソフィアが俺の顔の横でぱちぱちと拍手をしている。そうなんだよ、一度言ってみたかったんだよこれ……。
「嫌よ!」
「嫌なのかよ」
「だって私攻撃力ないもの!だからどうにかしてあなたを倒さずに返してもらう方法はないかしら!」
「だったら姉ちゃんよお、代価はその欲張りなドスケベボディで払ってもらおうかあ~グッヘッヘッヘェ~」
「ソフィア、お前は黙ってろ!」
「くっ……やっぱり身体が目的だったのね……さすがは魔王……卑劣だわ!」
「いやいや声でわかるだろ!わざとやってんのかお前!」
話が進まねえ……まためんどくさいやつが来たなあ……。
「もうめんどくさいからさっさと終わらせるぞ」
「やれるものならやってみなさいよ!」
「じゃあお言葉に甘えて……『英雄の波動』!!『英雄プロージョン』!!」
全てのチート効果を解除されて英雄プロージョンをまともに受けたリカは吹っ飛んでいった。でもHPが限界を突破しているならこれで終わらないはずだ。
ゆっくりとあの子が飛んでいった方向に向かって歩いていると、リカも既にこちらに向かって来ているところだった。
「ふふふ、どう!?そんなスキルじゃ私は」
「『英雄プロージョン』!!!!『英雄プロージョン』!!!!」
再度ぶっ飛んだリカを空中で更にぶっ飛ばした。まあ、限界突破してるってもこれくらいやれば大丈夫か……?あれだけ吹っ飛ぶと追いかけるのも面倒くさいし一旦戻るか……。
数分後。
再開した工事を今度は街の外から見守っていると、エレナが差し入れを持ってきてくれた。連れて来たのはシャドウだ。
「お疲れ様です。あの、これをどうぞ……」
「おっ、おにぎりか。いいねえ~うまそうだ」
「拙者も食べたいでござる」
「エレナさんはいいお嫁さんになりますね!ねっ、英雄さん!」
「うん。そ、そうだな……」
「あ、ありがとうございます……」
頬を赤らめるエレナ。何だこれは。
と、その時だ。
「私もそのおにぎり食べたいわ!」
背後からの声に、思わずおにぎりを喉に詰まらせてしまった。
もちろん声の主は先ほどのタンカー少女、リカだ。
「げほっげほっ!まだ生きてたのかよ!」
「逆にどうして私を倒したと勘違いしたのかしら!」
「おいシャドウ、あいつが近付いてきたの気付いてただろ。教えてくれよ」
「もちろん気付いてはいたのでござるが、何やら魔王様とエレナ殿がいい雰囲気を出し始めたので……拙者、このタイミングで知らせるという無粋な真似をしても良いのかな?どうしようかな?と思い悩んでいた次第にござる」
「変な気を使わなくていいよ!あといい雰囲気とか口に出すな!」
エレナは両手で顔を覆い隠している。
「あら!そのエルフがあなたのお気に入りなの?だったら新しいドスケベボディなんて必要ないじゃない!大人しそうな顔してなかなかいい身体を」
「おいやめろ!エレナの前で変な事言うな!何で俺よりもお前やソフィアの方がよっぽど親父くさいんだよ!」
「いやああああ!!!!」
泣き叫びながらエレナが走り去っていった。
もう何が何だか。
「シャドウ!エレナを追いかけてくれ!そのまま城に戻ってていいから!」
「御意」
「くそっ、これも全部お前のせいだ!『英雄プロージョン』!!!!」
しかし、リカは吹っ飛ぶことすらなくその場に堂々と立っている。
「え、何で……!?」
「英雄さん、この子……自然治癒力がかなり高いです!英雄の波動で特殊効果を消しても他の人よりもかなり早く元に戻ってます!これは体質なので英雄の波動でも消せません!」
「まじかよ……『英雄の波動』!!『英雄プロージョン』!!!!『英雄プロージョン』!!!!うおおお!!『英雄プ」
数分後。
「もうやだ……疲れた……」
俺は街の外で寝転がっていた。
自然治癒力が高い上にどうやら自己ヒールのスキルも持っているらしく、倒せる気配が一向に見えないリカに対して心が折れてしまっている。
「もう攻撃は終わった様ね!ならこちらから行くわよ!」
べし、べしと俺を叩いてくるも本当に攻撃力が低いらしく、ダメージは一とかしか出ていない。
「あの、俺もう帰ってもいいか……?」
「いいけど私も連れて行きなさい!」
既に日は暮れていて、作業をしていたダークドワーフたちも次々に帰宅していって、残ったのは俺たちだけになっている。もう疲れた、帰りたい……そんな気持ちで胸を満たしていた俺は、決断を下す。
「このオムライス、なかなかおいしいわね!作るときのエレナちゃんも可愛かったわ!」
「魔王様、その、あれは……」
「ライル、わかってる。後で話す……今はもう何も聞かないでくれ……」
「かしこまりました」
リカは本来俺が食うはずだったオムライスを食べると、アリスにも会わずにさっさと帰って行く。何しに来たんだ本当に。
こうして、タンク系チート少女リカがたまに魔王城に遊びに来るようになった。
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