こたつを作ろう

「さすが英雄さん!容赦のない英雄プロージョン!初陣から今まで連戦連勝じゃないですか!」


 はしゃぐソフィア。一瞬で大量のチート系を倒して信じられないほどの経験値やお金を取得した俺は、まずソフィアにステータスウインドウを開いてもらってスキル欄を表示し、そこから敵の気配を察知できるようなスキルがないか探した。


 どうやら「気配感知」と「敵味方識別」というスキルの組み合わせで敵が近くにいることが分かるようになるらしいのでゲット。


 それから移動に便利な「テレポート」もゲット。さっきライルが使ってたやつもこれらしい。テレポートにもいくつか系統があるのだとか。


 後は耐久力……HPや防御力を上げるパッシブスキルもいくらか上げておいた。これでそう簡単には死ななくなったので、よりチート系討伐がやりやすくなる。って言っても、攻撃力高い系チートだと一撃で死ぬことには変わりないんだけど。


 家の中にいながらある程度の範囲にいる敵を感知できるようになった俺は、ベッドに寝転んでくつろぎながらソフィアと雑談をしたりして過ごしていた。


 あれからも何度かチート系の襲撃はあったものの、『英雄プロージョン』で大体のやつは倒せるし、そうでなければ『英雄ダウン』や『英雄の波動』を駆使すれば大丈夫で、今のところ問題はない。


「連戦連勝っていうけどさ、むしろこの三つのチートスキルで倒せないやつなんているのか?」

「そりゃあいますよ。だからチートなんです。例えば……わかりやすいのだとHP99999の限界を突破したチート系ですね」

「本気の『英雄プロージョン』でも威力が99999以上のダメージは出ないってことか?」

「少し違いますね。本気の『英雄プロージョン』っていうのは、巻き込んだ敵に99999の固定ダメージを与えるスキルなんです。だからどんなに高い防御力を誇る相手でも一撃なんですよ」

「なるほどな」


 固定ダメージというのはRPG系のゲームで良く使われる単語で、相手の防御力や魔法防御力に関係なくダメージの値が固定されていることをいう。つまり99999の固定ダメージというと、ある敵の防御力が10であろうが99999であろうが、99999のダメージを与えることが出来るということだ。


「とまあそうは言っても結局『英雄プロージョン』を連発すれば死にますし、HPが限界突破してるチート系は大体他のステータスがへっぽこですから。倒せないだけで英雄さんがやられるということもないと思います!」

「そうだといいな」


 差しあたってはHP限界突破チートが天敵だという認識にしておこう。


「そろそろお腹空きませんか?一旦お城に戻りましょうよ~」

「そうするか」


 早速覚えたてのテレポートを使ってみた。

 スキルを取ってから頭の中に刻まれた呪文的なものを詠唱して「ルーンガルド、サンハイム森本」と言うと、視界がホワイトアウト。


 出た場所はサンハイム森本の正面玄関的な扉の前だった。


「この城広いし、何気にここから俺の部屋まで歩くのも不便なんだよな」

「まあまあそういわず。歩いた方が健康にもいいですよ!」


 健康とかこの世界で関係あるのかな……と思いながら歩いていると自室に到着。隣室のライルを訪ねてみる。


「お呼びでしょうか」

「ちょっと休憩したいから南門の見張りを頼む」

「かしこまりました」


 ライルがテレポートで移動するのを見届けてから自室のベッドに寝転ぶ。


「ここにも家具とか欲しいなあ」

「ですね~。こたつとか欲しいです!」

「こたつはないだろ」

「じゃあ英雄さんが作ってくださいよ!」

「作れるのか?」


 俺がそう聞くと、ソフィアは杖を取り出してメニューウインドウを開き、そこからスキル欄を表示してくれた。ていうかこたつを欲しがる女神ってどうなんだ。


「生活スキルの中の『設計』と『大工』の組み合わせで作れます!ささ、早く習得しちゃってください♪」

「別にいいけど……ほれ」


 スキルポイントも余ってるわけじゃないけど、すぐに必要なスキルは取っておいたはずだし。少しくらいなら問題ないかな。


「まずは何か書くものを用意して、『設計』スキルでこたつの設計図を作りましょう!それが出来ればあとは『大工』で組み立てるだけです!」

「こたつの設計図って、そんなの俺が描けるわけないだろ」

「いいからいいから!その為のスキルですよ!」

「って言っても書くものなんかこの部屋にないぞ。ライルは見張りに行ってもらってるしな……」


 困っていると、壁についている時計の針が夕飯に近い時刻を指していることに気が付いた。キッチンに行けば夕飯の支度をしてくれているエレナがいるかもしれないので、俺は食堂に隣接しているキッチンに向かう。


 キッチンに入ると、何やらいい匂いが漂って来る。


「おっす」

「こんばんは~!いい匂いですね~!」

「あっ……魔王様とお付きの精霊様……こ、こんばんは……あの、ごめんなさい。夕飯はまだ……」


 待ち遠しすぎて夕飯を催促に来たと思われてしまった。


「ごめんそういうわけじゃないんだ。何か書くものが欲しいんだけど、ライルは見張りに行ってもらってるから、今ならここにエレナがいるかもしれないと思って」

「そうでしたか……何でも良ければ、ここに……」


 エレナは、キッチンでメモとして使われているらしい、俺が良く知る紙らしきものを差し出してくれる。


「あれ、紙なんてあるのか」

「…………?」


 首を傾げるエレナ。どうやらこの世界ではこの手の紙が存在するのは当然のことらしい。てっきり羊皮紙とかが出てくるものかと思ってた。


「これは魔法を使って作られた、この世界独自のものですね。英雄さんの知る紙とは少し違うものだと思います」

「なるほどな。ありがとう、エレナ」

「い、いえ……あの、お役に立ててよかったです……」


 ちなみに鉛筆のようなものも存在するらしく、一緒に借りて夕飯まで食堂でこたつの設計をしてみることにする。


 「設計」は、早い話が「知っているものを描き出す」ということが出来るスキルらしく、こたつのデザインはすぐに完成した。問題は仕組みだ。


「地球のような発電、送電の仕組みはありませんから、魔法で何度も火や電気をつけたり消したりしても大丈夫な素材を使うか、魔石を使うのがいいでしょうね」

「魔石って、ゲームや漫画でモンスターから取るやつだろ。魔王としてそれはまずいんじゃないのか」

「魔王ランドでは魔石は主にその辺から採掘するものですよ。魔石を核として動くモンスターもいるにはいますけどかなりレアです」

「ふ~ん。簡単に手に入るもんなのか?」

「そのはずです!ご飯を食べ終わったら幹部の方に聞いてみましょう!」


 よくよく考えてみればこたつもオムライスみたいに他の転生者が作っててもおかしくなさそうだけど……こちらに伝わってるかどうかは運だし、今後も欲しいものは自分で作った方が早いかもな。


 今回もエレナの作ってくれた美味い飯を食った後、飯の為に戻ってきていたライルに声をかけてみる。


「ライル、見張りありがとな」

「いえ、これくらい当然のことです。現在も部下を置いておりますので」

「それで突然なんだけどさ、魔石ってどこで採ってきたらいいか知ってるか?」

「それでしたら北門を出て少し離れたところに採掘場がございます。しかし、ご自分で出向かれなくとも部下に持ってこさせますが」

「いや、地理も把握しておきたいし、今回は自分で採りに行くよ」

「かしこまりました。ではすぐにご案内いたします」

「ありがとう。いつも悪いな」

「もったいなきお言葉」


 ライルにテレポートで街の北門付近まで連れてきてもらうと、そのまま歩きで外まで出ていく。たまに野良チート系主人公が出ることはあるものの、基本的には街の北側は安全圏らしい。特に今みたいに夜だとより安全度は高くなるのだとか。


 魔石灯の灯りを頼りにライルの後ろをついて行くと、やがて目的地にたどり着いた。


「ここが魔石の採掘場です」


 暗くて全体は見渡せないけど、どうやらあちこちに巨大な岩があるらしい。向こうに見える崖のようなところにも階段状の通路が設けられていて、そこからも採掘することが出来るらしい。


「置いてある工具を適当にご利用ください。私もお手伝いいたします」

「ありがとう」


 それからはライルと二人で採掘用の工具を使っていくつか魔石を掘り出した。鉱石を掘り出すのとほとんど変わらないから結構重労働だ。とてもじゃないけど魔王のする仕事じゃないわこれ。次からは誰かに分けてもらおう……。


 とりあえず小さな袋が一杯になるくらいの量は採れたので、テレポートで城に戻った。それから風呂に入って就寝。


 翌日。朝食を摂ってから朝のチート系襲撃を退けた後、完成した設計図を基に早速魔石こたつの製作に取り掛かった。魔王城にある工房的な場所に工具と材料を一しきり取り揃えてもらい、作業に取り掛かる。


 昼食を挟んでおやつの時間になろうかという頃、ついに魔石こたつのパーツが一通り完成した。後は部屋に持ち込んで組み立てるだけだ。


「ありがとうございます!英雄さん!」


 久々に人間型に戻ったソフィアがこたつに入ってくつろいでいる。ちなみに床は石で出来ていてそこに絨毯を敷いてあるだけだから、更にクッション的なものをこたつの周囲に敷いてみた。かなり快適だ。


 そこに扉をノックする音。「どうぞ~」と間の抜けた声で返事をすると、入って来たのはメイド服姿のエレナだった。


「あの……おやつをお持ちしました……」


 三時のおやつ文化は健在らしい。ラッキーだ。

 エレナはまずこたつに驚き、それからこたつでくつろいでいるソフィアにも驚いた。エレナから見れば「姿形がお付きの精霊様に似ている初対面の人」だ。


「あ……えっと……」


 ソフィアのやつ、これどう説明する気なんだろ。


「最近の精霊は人間の姿になることも出来るんですよ!それより、エレナさんも一緒にくつろぎましょう!さあさあ!」

「え……でも……」

「それいいな。特に予定とかないならどうだ?」

「で、では……失礼します……」


 エレナも一緒にこたつに入っておやつのクッキーをぽりぽりかじる。

 ちなみに、別に寒くないのでこたつの電源は今はオフになっていた。


 しばらく三人で雑談をしながら過ごしていると、いつの間にか俺は寝てしまっていたらしい。目が覚めるとエレナがいなくなっていて、ちゃんと肩のあたりまでこたつ布団がかかっていた。ほんまええ子やで。


 身体を起こすと、ベッドには人間の姿のままでソフィアが寝ていた。俺のベッドなのに中々図々しいなこいつ。

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