第80話イースの集会所前で、戦女神と
浮島の浮かぶ巨大湖を越えると、森に出る。
エルフの村は森に囲まれているらしい。木々を薙ぎ倒しつつ走っていく内、森の切れ目に出た。
彼らの前に現れたのは、平坦な土地の左右が削れてできた天然の橋。2車線ほどの足場が数百m続き、その最奥に石の扉とも壁ともつかないオブジェが立っている。
左右の崖は剃刀を当てたように見事な切り口になっており、底が見えない。
「あれか」
「門…なんだろうな」
「行く?…ものすごく高いや、股座が引き締まるね」
崖を覗き込んだクリスは屈託のない笑顔で、佳大に言った。
「罠はあるだろうが、ここまで来て引き返す気ないし。どうする皆?」
「僕はついてくよ」
「俺もついていくぞ。お前ら2人だけだと、替えのきかない宝物まで破壊するだろう」
「わ…私も行くから…」
「力まないでください、ターニャ。我々がついています」
理由はそれぞれだが、取るべき行動は一つに決まった。
佳大とクリスが前衛に、その後ろを巨大な黒獅子が追いかける。
逸る気持ちを反映して、その皮膚が柿色に染まり、頭部から大きな角が伸びた。
半鬼と化した佳大がオブジェに探るように手を添えると、神々の都への門は鳴動を開始。
オブジェは空間に穴を開き、その向こうに星一つない闇に沈んだ、石造りの都が姿を現す。
佳大パーティーは言葉を交わす事無く、門を潜る。
石造りの門が元の形に戻ると、空間の穴は閉じてしまったが、振り返った者はターニャ一人だ。
門が通じていたのは、巨大な東屋の前。
六角形の屋根に覆われた建屋に壁は無く、イースの街並みが見渡せる
かなり大きく作られており、柱の高さは優に6mはあった。その前方に真っすぐ伸びる巨大な橋に、佳大パーティーは足をつけた。
「敵はそちらにいませんよ。前を向いてください」
「あ、うん…」
足を踏み入れたイースは、荒涼として美しかった。
霜の降りた灰色の都市は壁の一つ一つに細やかな装飾が彫り込まれ、空は黒一色でありながら、視界は昼間のように明瞭だ。
周囲に満ちる闇は絵の具の黒か、あるいは宇宙空間を満たすというダークマターというなのか。
漆黒の天を衝く11の宮殿の下には、雪に覆われた峰と漂う雲が見える。不可侵の領域、というフレーズが佳大の頭に浮かぶ。
「観光で来たかったわー」
「そうだねー、墓場のお化けって感じだ」
「神の都って言うくらいだから、もう少し煌びやかな物かと思ってたがな。クリスじゃないが、これじゃ死者の都だ。明り一つない」
「そういえば生き物の臭いがしないや。ヨシヒロは?」
「俺もわからん。とんでもないところから攻撃されかねないから、覚悟しとけ」
一行が立っている橋を真っすぐ進むと、尖り屋根の教会堂前の大階段に行き当たる。
その前が正方形の広場となっており、階段の両脇にも、この都市の持ち主たちの感覚で言えば細い空間が設けられていた。
階段前まで進んだ佳大達の元に、驟雨のごとき殺気が浴びせられた。それと気付いた後、両脇のスペースから2人の男が歩み出る。
2人とも同じように甲冑を身に着けている。
大柄な方は佳大が見上げなければならない程背が高く、小柄な方も佳大と目線の高さは同じだ。
「エリシアの命を受けて、エリュシオンより参った。我が名はテセウス」
「俺はアキレウス。貴様ら、神殺しとは面白い、相手に不足なし!!」
この2人の名前もまた、舌に刻まれた呪印が勝手に変換したものだ。
2人は名乗って早々剣を抜き、佳大のパーティーの向かって駆けだす。彼らは佳大とクリスには構わず、巨大な獅子の上に3人に狙いを定めていた。
しかし、クリスの機関銃のごとき爪で全身を鎧ごと斬り刻まれ、アキレウスは絶命。
テセウスは腕から放ったアリアドネの縛鎖で佳大を絡めとるが、逆に鎖を掴まれ、投げ飛ばされてしまう――何かが空を切る音。
「上だ!」
小さな戦車のごとき巨漢のテセウスを、彼が腰に巻き付けた鎖ごと振り回す。
聴覚が捕らえたとおり、教会堂の屋根に狙撃手が潜んでおり、彼の放った矢は鎖分銅と化したテセウスによって叩き落とされてしまう。
おおよその位置を把握した佳大は、百を超す落雷により、狙撃手が潜んでいると思しき一帯を爆撃――その瞬間、教会堂の扉が弾け、佳大一行は爆散した広場ごと、空中に投げ出されてしまう。
佳大の声なき号令により、佳大パーティーの5名と1匹は教会堂前の大階段上空に再集合。砕けた正面扉から、鎧兜で武装した乙女が出てくるのを見た。アテナ=エリシア神だ。
「あ!お姉さん、久しぶり!」
「ついにここまで来ましたか、杉村佳大。いきなりですが、ロムードはここにいませんよ」
「………は?」
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