第329話 試作品 仮

 その日から、さっそく試作品の制作に取り掛かった。


 市役所庁舎で取り行われるコンペ発表に間に合わせるため、急ピッチだ。

 全員、お揃いのパーカーでお披露目会だ。

 

 取り敢えず、六着、色違いのパーカーを買い、それにロゴをプリントしていくと言うモノだ。


 だが、六種類の色が揃わず、四色のパーカーを作る事になった。


 同時に制作コンペで発表するプレゼンも考えなければならない。

だが、なかなか考えがまとまらなかった。


 リビングでメモを取って考えているとショーリが現れた。

「はい、コーヒー。」

「あ、悪い。」

「へっへ…、イチゴが、ネイビーパーカーのプレゼンするンだって!!」

 

「フン、悪い。茶化すンなら邪魔するなよ!!」


「いやいや、何、これ? これ見てプレゼンするの!!」


「そうよ。間違いないでしょ!!」

「じゃ、ダメだな。きっと…。」

「な、なンでよ。」

「プレゼンは、何かメモを見たり、読み上げていたら観客の心には届かないンだぜ。」

「な、なンでよ。」


「ま、細かいデータとかはメモを見てもいいけど、基本、観客に顔を向けてないと、全然、話しになンねぇよ。」

「え、どうして…。メモが有れば間違わないじゃない。」


「スピーチとか演説は、どう観てる人に訴えるかだからさ。

 ヒトラーがドイツ国民を熱狂させたのだって、何も見ずに熱弁を振るったから民衆の心を動かしたンだ。」


「ヒトラー…。」

「ま、例えは悪いけどねぇ。別に間違えたって、タドタドしくたって、良いじゃン!!

 自分の言葉で訴えた方が観衆の心には刺さるよ!!」


「ふ~ン、あのねぇ~、他人事だと思って…。」

 だがコーヒーを飲んでよくよく考えてみた。

「ありがと…。ショーリ!!」

 ポツリと呟いた。

「え、コーヒー?」


「ううん、プレゼン。考えたら、ショーリの言う通りだなって、本番は一切、メモは見ない…。自分の言葉で訴えるよ!!」


「フフ…、出来るさ。イチゴならね。」


「ったく…、厄介ごとは全部、私に回ってくるンだから…。」

「それだけ、頼りにされてンだろ!!」


「フン、ど~だか…。」

 でも…。

 これで、私の腹は決まった。

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