第四章 何かを護る、たった一つの条件

第零話 潜み、監視をする者

 テルミヌス山脈北西側の麓付近。

 まだ木々の残る一角で彼らはジッと待機していた。


 手に持つのは望遠鏡――透明度の高い結晶を様々な形に加工、組み合わせ、遠方のものを見るために開発された道具だ。


 目の前に広がるのは荒れ果てた荒野、そして砂漠。

 視界には”何もない”という光景が広がっており、地平線だけが一望できる。


 三人体制で三時間交代。彼らは必ずこの一帯を通るであろう、とある人物らを監視するためにこの場にいた。


 照りつける太陽は汗を誘発させる。

 手のひらがジトリと濡れ、望遠鏡を取り落とさないよう何度も裾で擦った。


 ――暑い。そして、それ以上に神経を使う作業で辛い。

 本当にここを通るのか、という疑惑。すでに見落としてしまったのではないか、という不安。それらがプレッシャーとなって自身を苛み、この作戦を始めて五日――彼らの精神は疲弊しきっていた。


「――――っ! おい、あれを見ろ! 誰か歩いているぞ!」


 三人のうちの一人。ドワーフ国がある方向を監視していた者が、小さくも確かな声を上げた。

 つられて残りの二人もそちらを見やり、そして補足する。


 仲のよさそうに手をつないだ二人組。一人は大きめのリュックを背負った人物で、日焼け対策なのかローブを羽織っていた。もう一人も同じようにローブを羽織っているため、身長差から小さい子だということ以外は判別できない。


 けれど、目標の人物で間違いないだろう。

 伝令役に最も足の速い者を選ぶと報告に行かせ、残りはその行き先をしっかりと追う。


 任務は半ば成功した。見失いさえしなければ、あとはどうにでもなる。

だというのに、彼らの緊張感は更に増していた。



 ♦ ♦ ♦



「閣下! 至急報告したいことがあり、参上しました!」


 監視場所からさらに奥――不自然に生成されている洞穴へと入った伝令役は、鎮座するお方を対象に膝を折り、頭を下げる。


「お疲れ様。何かあったかい?」


 優し気な口調。第一声である労いの言葉。

 それらに軽い敬服を覚えながらも、彼は連絡を行う。


「はっ! 捜索対象を確認いたしました! 私が見た段階では南西方向から北上中、ドワーフ国に向かっていると思われます!」


「……そう、現れてくれたか。分かった、すぐに準備をしよう」


 そう言って閣下と呼ばれた男は立ち上がると、そばに控えていた何人もの人間が慌ただしく動き出す。


 野営のために出していた最低限の道具を片付け、馬の準備をし、ものの数分で支度を終えた。


「レスコット=ノーノ……! あの時の借りは返してもらうぞ」

「熱く、なりすぎるな……。大事なのは……あくまで、任務……だ」


「そうそう、ワーナーくんの言う通り。僕らに課せられた使命は彼女の奪還だ。それを間違えちゃいけないよ」


 すでに用意の整った数十人もの人の元に、三人の人物は歩み寄る。

 その話している姿にさえ、隙一つ見当たらない。


「それに、君はまだ病み上がりだ。そのために僕が呼ばれたんだから、任せておくれよ」


 輝く鎧。はためくローブ。

 人間族の三強は、それぞれが抱える気持ちを瞳に燃やし、馬へと乗り込んだ。


「それじゃ、行こうか」


 何気ない一言。

 だが、その言葉は皆の心を奮わせるには十分だった。


 疾駆する馬。それぞれの装備ががなり立てる金属音。

 近いうちに彼らの存在は対象にバレてしまうだろうが、この果てしない荒野では隠れ場所など何処にもない。


「さて、ローランくんを倒したという腕前――楽しみだよ」


 その先頭を走る者は、微笑みを浮かべて手綱を握る。

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