幕間Ⅱ 息子へ残す最後の言葉

 愛しの息子 カオスへ


 これを読んでいるということは、私の言葉を頼りに私たちの過去を探り、台座の秘密を暴いたのですね。


 何の為に見つけたのかは分かりません。寂しさに暮れ心の拠り所にしたのかもしれませんし、遺産を期待したのかもしれません。


 けれど、どちらにしてもごめんなさい。私たちが貴方に残してあげられるものはこの手紙を除いて、他にはもうありません。……許して。


 そして、貴方にはもう伝えているとは思うけど、この先には私たちにまつわる真実が記されています。それは貴方にも関係する大切な事実。

 もし、生半可な気持ちで開いているのなら、まだ読まないで。然るべき時に、貴方が読むべきだと思うタイミングで改めて、ね。




 それでは、伝えます。

 ……とは言っても、どこから伝えたらいいのか分からないわね。でも、そうね。せっかく手紙という形で残すのですから、私たちの過去から全てを語ろうと思います。

 昔に話したこともあるから、覚えているなら読み飛ばしてくれて構いません。


 あの人――貴方の父親と出会ったのは百五十年前。森の中、遭難しているところを私が見つけたの。ある鉱物を取るためにテルミヌス山脈から来たって、当時は言っていたかしらね。


 あの頃はまだ大戦が始まる前で、小さな諍いこそあったけれど、それなりに平和な毎日だったわ。

 エルフとドワーフも関係こそ悪かったけれど、今ほどではなかったの。


 だから、私はあの人を見てもそんなに動揺しなかった。むしろ、あっちの方が驚いていたわね。武器なんか構えちゃって。


 でも、怪我をしていたし、食糧なんかも心もとなかったみたいで、私は里に黙ってあの人を介護したわ。


 最初はおっかなびっくりしていたあの人もね、だんだん心を許すようになっていって……怪我が治ったあとも山脈に来る用事がある時は必ず森に寄ってくれた。


 けど、駄目ね。秘密というものはいつか必ずバレてしまう。

 あの人と会っていることが見つかった私は、家族も含めて里の皆から批難されたわ。


 我らの偉大な血を汚す気か――って。私には兄弟も姉妹もいなかったから特にね。


 それでも私は諦めなかった。猛反発したのだけど、しつこかったわねー。

 終いには、親同士で勝手に私の縁談を成立させてたのよ。


 けれど、それが私を逆に燃え上がらせた。

 そっちがその気なら、って私は両親にある条件を突きつけたわ。


 ……恐らく、貴方に話したことがあるのはここまでよね。

 そして、ここからは貴方の知らない話。心して読んでください。




 両親が言うには、私でエルフの純血が途絶えることが嫌だったらしいの。

 だから、私は言ったわ。


 その縁談の人と子供を作ります。それで血は残るでしょう。後は私たちの好きにさせて。


 ふふ……驚いたかしら?

 これを読んでいる時の貴方の年齢は分からないけれど、もしかしたらショックを受けているかもしれないわね。


 でも、少なくとも私は後悔していないわ。

 だって、私の初めてはあの人に差し上げることができて――私たちの初めての子供は貴方だったもの。


 出した条件に十二分に釣り合うほどの幸せだった。


 それにね。縁談相手はともかく、その人との間に産んだ子供――レイネスって名前なんだけど、あの子のことは憎めないの。


 だって、事実として私がお腹を痛めて産んだ子供だし、生まれてくる子に罪はないでしょ?


 このことについてはあの人も納得している。だから、レイネス――あの子の部屋も作ったわ。


 父親は違うけれど、あの子も貴方と同じように私から生まれてきてくれた存在。

 あなたの兄弟なの。


 私たちは遠くない未来、貴方を残して旅立つと思います。


 でも、貴方は独りじゃない。

 半分だけど、苦しみを分け合える肉親がまだ残っている。


 もし会いに行くのなら、腕輪とこの手紙を渡しなさい。

 あの子には、その腕輪と同じ物を持っている人は私にとっても貴方にとっても大切な人――と、伝えています。




 私のいない貴方に、こんなことをお願いするのはきっとズルいことだと思います。

 けれど、最後の母の頼みとして聞いてほしい。


 どうか幸せに生きて。

 兄弟仲良く、寄り添って困難を乗り越えながら。


 いつまでもあなたを見守っている母 ヴィーダーシュティーン=パーソンズより











 身体は大事に、長生きしろよ。

 そして、後悔せずに生きること。


 父 コンフロント=パーソンズより

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