031

 周りの皆も俺とゴリさんの闘志の高まりに気付いたようで、車座に拡がっていく。


「コデー?」


 心配そうに俺を見るディーナだったが、俺は背に乗るディーナに向け後ろ目ににこりとだけ笑った。


「ディーナ、コディーはゴリさんと勝負するんだ」

「な、なんで?」

「うーん、難しいな。一番強い人を決めるため……かな?」

「うーん、なんで一番強い人を決めるの?」


 まぁ、当然の反応だよな。

 しかし、これも教育だ。しっかり教えておくべきだろう。


「一番強い人が皆を引っ張っていくからだよ。いざって時に皆が迷った時、強い人がまとめれば少なからず安心するんだ。もし強い人が間違ってとしても、納得に近い妥協を得られるんだ」


 ……と、ディーナには難しいかな。

 うんうん唸って何とか噛み砕こうとしているディーナだが、やはり難しいようだ。今度ゆっくり教えてやろう。

 ディーナをおろした俺は、ミスリルクロウを外してからゴリさんの前に立つ。

 流石に獣同士の決闘で武器を持つのは反則だろうしな。


『お待たせ』

『構わない。しかし、コディー。お前は面白いな』

『はて、どこが面白いんだ?』

『そこまで個を立てる存在は中々いない。私自身、コディーに興味が湧いてるのも事実だ』


 ゴリさんの臨戦態勢が整ったようで、地面にゴツゴツと拳を当てている。というか、ここまで震動が伝わってくる。

 ……やっぱりリベリオンドラゴンを一瞬止めただけあって、力は強いよな。ゴリラで魔獣か。


『行くぞ!』

『ばっちこい!』

『『ガァアアアアアアアアア!!』』


 俺とゴリさんは駆けながら近付き、衝突した。互いに組み合い、額と額をぶつける。その衝突音のせいか、背後から聞こえたディーナの零れた悲鳴には、申し訳なく思っている。


『どうしたコディー!』

『反省してる!』

『いきなりだな!』

『ディーナは怖がりなんだよ!』

『ふ、ふはははは! 何という余裕だ! それにこの膂力! ビクともしない!』


 そう、ゴリさんの力は確かに強かった。組み合った当初、掴まれていた腕がミシミシと音を鳴らしていた。しかし、ひとたび腕に力を込めれば、その音は止み、痛みも軽減した。

 おそらく、ゴリさんの力で最も厄介なのは、この握力だろう。油断していれば、握りつぶされてしまう。


『そういうゴリさんだってやるじゃないか! 押しきれないぞ!』


 体格からして俺の方が有利のはずなんだが、助走付けても打ち破れないのは、驚異的な体幹と、それを支える背筋力だろう。

 ……ならば!


『うおっしゃあああああっ!』

『ぐっ!? や、やるな!』


 強烈な頭突きをゴリさんに食らわせる。すると、ゴリさんは一瞬よろめいた。その隙を黙って見逃す程、俺はお人よしじゃない。クマだけど。


『ぬわっしゃああああああ! 大外刈りぃいいい!』


 一歩前に出て、腕でゴリさんの首を刈りながら、片足を払って崩す。強靭な足腰ではあるが、俺の力はその程度じゃ防げない。


『がふっ!?』


 背中を強く打ったゴリさん。俺はそのまま腕をクロスさせて倒れこみながらゴリさんへのダメージを狙う。しかし、ゴリさんは後に転びながらそれをかわす。


『惜しい!』

『な、なんという連続技だ……!』


 まぁ人間の技術だしな。この世界に大外刈りや、過去ヴェインに放ったようなプロレス技があるのかはわからないけど、人間と触れる機会の少ない獣であれば、有効だよな。

 勿論、獣並みの身体能力がないとダメージを狙うのは難しいだろうけど。

 ……そう考えると、獣の攻撃力に技術を交ぜるのは相当危険なのでは?

 とか思ってる内に、ゴリさんは再び駆け始め、眼前で大きく跳躍した。

 クソ! 見たくないモノ見ちまった!

 俺は卑猥なモノから逃れるようにかわし、着地したゴリさんの背中に突進を決める。

 やっぱり力は強いが、真っ直ぐ過ぎるな。戦闘の駆け引きがあまり存在しないように見受けられる。

 吹き飛ばされたゴリさんは、手を足のように使い、大地を掴んで着地した。やっぱり身体能力は人間を遥かに凌駕している。

 しかし、そんな事はわかり切っている事。

 俺は未だ体勢の整っていないゴリさん目がけ、追い打ちのような突進を続けた。


『ぐおっ!』


 正面から受けざるを得なかったゴリさんは、俺の肩を押さえながらも、そのまま後退していく。そして勢いが死ぬ直前、俺は身体の力を抜き、ゴリさんの身体を前に倒させた。

 屈んで、ゴリさんの懐に入り込んだ俺は、ゴリさんの腕を捻るように潜り、軸足である右脚を後ろ脚で蹴った。


『なっ!?』

『どぉおおおおっせい!』


 上手い事柔道技の山嵐が決まった。

 またも背中を大きく打ち付けたゴリさんは、あれ、何か凄く痛そうだ。

 まるでゲジゲジのような動きというか、身もだえ方というか、とにかくそれだけ苦しんでいた。


『あー……だ、大丈夫か?』

『~~~~~~っ!?!?』


 なるほど、大丈夫には見えないな。

 そんな困った顔を浮かべた俺の頭に、ヴァローナが乗った。


『コディーの勝ちだな!』


 そういえば、ゴリさんが打ち付けたのは畳みじゃなく、固い大地だったのと、受け身なんて知らないしな。痛くて当然かもしれない。

 そんな冷静な分析をしながら宙を眺めていたら、目の端にディーナが映った。


「コ、コデー……いじめっ子」


 とか聞こえたのは、俺の幻聴だと思いたい。

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