5 現実
潮見が、小さく手を鳴らした。
ぱち、ぱち、ぱち。
「いいでしょう。彩音さんはいずれ気付くだろうと思ってはいました。プレイヤーと三人揃った状況で見抜くとは、ちょっと意外でしたが、その推測はおおむね正しい」
潮見の肯定を受けて、彩音はむしろこれはいよいよ厄介になってきた、と感じた。
ここが現実だ、となると。
ここがVRであることより疑問は少なくなるのだが、それはそれで深刻な疑問があることには変わりがない。
「ここがVRではなく現実だと、そう潮見さんは認めるんですね? たとえば、私が優菜ちゃんを通じて見ていた体験。あれも、VRゆえではなく、そう見えるように仕向けられたAR技術だった、と……?」
「その通りです」
「なぜ、そんなことを? 現実を現実として見せずに、VR空間に思わせるなんて、何の意味があって……」
「それはもちろん、現実を見てほしくない、気付かれては困ることがあったからですよ」
潮見は意味深長に微笑してみせた。いつもの潮見スマイルより、心なしか少し意地悪そうに見える。
「よろしい。それでは出発点として、現実は何かをはっきりさせましょう。まず、ラビットの本体にまつわることをはじめとして、智峰島で、お三方が体験されていることは、これは疑いようもない現実、実際に起きていることです。異星人がもたらした生命進化なんてあるはずはない、と疑うお気持ちは、この際、脇においてください」
彩音は渋々うなずいた。一つ一つの細かな疑問点にはまず目をつぶる。確かな事実から組み立てていくことには賛成だ。
「現実の智峰島について、現在おかれている状況を説明しますと……」
と言いながら、潮見は壁の時計を指し示した。
「……皆さんの時間は、実は二日ほど遅れています。これが、大前提。チュートリアルを開始する前、カプセルに入った、あの意識の断絶。あの間に二日間が経過しています。空白の二日間、記憶がワープした二日間といったところです。もちろん、その間の体調管理はドクターが万全に行っていましたが」
「二日間……?」
翔真と優菜がほとんど同時に驚きの声を上げる。
「つまり、カプセルから目覚めたときのあたし達は、同じ日すぐ目覚めたように思い込んでいたけど、実際には、二日も過ぎていた……?」
「そういうことです」
潮見は淡々と肯定する。
彩音もうなずいた。翔真達と違って、その事実だけでは驚きはしない。そのぐらいのことは、あったとしても不思議ではないのだ。
問題は、その失われた二日間に何が起きていたのか、ということだ。
それこそが、潮見が、現実を彩音達から隠しておきたかった理由に違いない。
「それは、予定外に過ぎた二日間ですか。それとも、計画通りの二日間ですか」
「もちろん、プログラム通りですよ」
「では、その二日間で、現実にはいったい何が起きていたというんですか。私達に隠しておく必要があった現実とは、なんです?」
潮見は眉一つ動かさず、静かに告げた。
「いたってシンプルな現実ですよ。智峰島は、その二日の間で、現実に本土から独立を宣言しました。すでに本土や複数の国が、これをクーデター、テロ行為の一種として扱っています。交渉は続いていますが、経済封鎖もすでに行われ、本土や各国との間に超緊張状態となっています。……それが、現実です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます