6 語呂合わせ

 潮見は首を縦に振ったが、それからすぐに横にも動かした。

「限りなく正解に近い。しかし、少し違う」


 かと思うと、潮見は朗らかに笑った。

「いやあ。しかし、あっさりとたどり着きましたね。プレイヤーのあの二人をうまく手なずけて、その推測まで行き着くとは、さすがです。プレイヤーへの接触機会なんて、僕の目を盗んでは、ほとんどなかったでしょうに。いったいどうやったんです?」


 彩音は苦笑した。

 自分は、こんな子ども騙しで。

 島まるごとなどと、なんという規模のAIを相手にしていたのだろう。


「はい?」

「あの子達のチミー残高をいじったんですよ。一人分を変えただけじゃあ、減ったことのインパクトのほうが強くて、金額そのものは気にしないでしょうけど。二人とも同じ金額となれば、勘のいい人なら、数字に何か意味があるんじゃないかって、考えたくなる。人間って、そんなものです。ほんの子どもの遊び、語呂合わせ。お社に向かってほしいっていうメッセージでした。あの子達にはうまく伝わったみたいで、よかった」


「ははあ……」

 潮見が目を見張って、深くうなずいた。

「オ・ヤ・シ・ロ、ですか。なるほどねえ……。言葉遊びとか語呂合わせみたいなものなんて、計算能力とか論理的な思考力より、直感や遊び心のほうが大切ですね。そんな方面からアプローチしてくるとは、どこでそういうことを学習したんです?」


 潮見はまっすぐ彩音を見ている。

 その瞳がいやに嬉々として輝いて見えて、彩音は顔をしかめた。

「学習……。やめてください、AIみたいな言い方をするのは」


「いや、これは失礼。いずれにしても、まあ、してやられました。つまり彩音さんは、自分ではなくあの子達を使って、ラビットの本体に接触しようとしている。ご自身は僕とこちらに残って、これは僕を朝凪館に縛り付けたんですね。プレイヤー達と役割分担をして……。そして、彩音さんにさえアクセスが制限されているエリアに、智峰島出身の二人を立ち入らせることにほとんど成功しかけている……」


「潮見さん。VR空間に入ってから、色々と疑問に感じることが多すぎるんです。私は潮見さんを疑いたくはないですが、それでも、釈然としないんです。あの子達だって、薄々気付ています。何かおかしい、このチュートリアルは、決して言葉通りの意味でのチュートリアルなんかじゃない。ラビットは、何者なんですか? 私が見た地形データでは、智峰島そのものが大きな人工島としか見えません。したがって、ラビットとは、その人工構造全体を統括するAIなのではないか。そういう意味で、智峰島そのものがラビットだ、と表現しました。……どういうことなのか、答えていただけませんか?」

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